第6話 誰でもピアニスト

「私、楽器を演奏できる人が好きなの。歌の上手な人もいいな」


あこがれの美智子ちゃんがそう言った。


残念だけど僕は音楽はからきし駄目だ。


「ああ、僕もピアノでも弾ければなあ」


僕たちの通学路に電車の駅が有り、其処に駅中ピアノが置いてあって誰でも弾けるそうだ。

そのピアノを僕が華麗に弾いたら美智子ちゃんは僕を認めてくれるだろうか?まあ夢のまた夢な話だけど。


その日は何故か何かに導かれるようにしてその駅にふらふらっと入ってしまった。


【誰でもピアニスト】と書いた小さな紙が貼ってあった。【このピアノに触れたら誰でもプロのピアニストのような演奏ができます】


噓だろうと思いながらも恐る恐るピアノに触ってみる。

するとどうだろう。指が勝手に鍵盤を叩きだしたではないか。

(噓!)

自分の意志に関係なく静かに緩やかにそして烈しく力強く曲を奏でていく。

一曲終わったら沢山の拍手が起こった。いつの間にか大勢の人が後ろに居て手を叩いていた。

その中に美智子ちゃんもいた。

「すごいすごいわ。祐樹君。あの噂は本当だったのね」

「え、噂って?」

「祐樹君は小学生の時は天才ピアニストと言われていたって聞いたことが有るの。

なのに何故か突然ピアノを弾かなくなったって云う噂よ」


ああそうだった。

僕は小学生の時天才ピアニストと言われていた時があった。いろいろなコンクールに出場して軒並み優勝していた。そんな時強力な敵が現れた。とても可愛いい女の子で3回に2回はその子に負けるようになっていた。

その子が交通事故で指を骨折してピアノを弾けなくなった。骨折が治っても神経がちゃんと繋がらなかっみたいで、細やかな指の動きができなくなったようで、ピアニストの道をあきらめたと聞いた。


ある日、とあるコンクールの控え室に彼女が現れて

「私が消えて貴方、うれしいんでしょう!」と言い残して立ち去った。

その時の僕は今と違ってピュアな心を持っていたので彼女の言葉がナイフのように突き刺さった。それ以来僕はピアノはおろか、音楽自体が苦手になった


それが今日【誰でもピアニスト】の貼り紙で忘れていた音楽の楽しさを思い出して

自然とピアノに向き合えたのだった。

でも誰があの貼り紙をしたのだろうか?駅員さんに聞いても解らなかった。

「ありがとう。知らない誰かさん」」


僕は今日も駅中ピアノを弾いている。椅子の半分に美智子ちゃんが座って居て連弾をしている(本当に本当にありがとう。知らない誰かさん)

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