第4話「持つべきは友達」

 夏休みも終わり二学期が始まった。あの人はどこからか知らないけど盗作がばれたらしく二学期には学校を辞めていた。私の下には彼の家から今までの分の賞金が送られてきたけど正直使う気が起こらない。だってあの作品は私があの人に騙されていた時の作品ばかりだったからそれを思い出してしまって何だか嫌だ。それより私はたとえ少なくても自分のお金で沢村くんとどこかへ行く方が楽しい。

 あの夏祭り以来、また私は沢村くんと二人で帰るようになった。二人の会話は少ないけれどすごく落ち着く。たぶん、好きってこういうことを言うんだろうな……。

「さて、もうすぐ文化祭だね! 残念ながら私たちはこれで引退だからね、今回は引継ぎってことで二人には私と一緒に作業してもらうよ! 桜井くんらはアキちゃんの方に製本の仕方とか教えてあげといてね!」

久しぶりの部活中、私と沢村くんの二年生二人を連れて仮野部長が言った。仮野部長は相変わらず元気だ。

「ここがバックナンバーを置いている倉庫だよ!」

部長の後について向かった校舎の奥の奥にあまり使われていない教室が倉庫にされてまとめられていた。その中の一つが私たち文芸部の倉庫らしい。

「暗いけど防音性は抜群だからね、カラオケとかに使いたかったら使ってもいいよ! 一応、クーラーもあるし」

「いや、大丈夫です」

沢村くんが冷静に突っ込む。けど、楽しそうだけどな。

 それから私たちは部長から部の運営の話なんかを聞きながら作業をした。めったに手を付けないらしくバックナンバーの整理が全部終わるころには、もうすっかり日は沈みかけていた。

「ふぅーっ、ありがとね! 助かったよ!」

「いえいえ」

鍵を職員室に返した後、私たちは食堂に寄った。部長が今日のお礼として飲み物をおごってくれるそうだ。

「もう君らと一緒に部活するのも終わりか~。寂しいな~」

部長はメロンサイダーを飲みながらしみじみと呟いた。

「そういえば、来年からの部長は誰にするんですか?」

沢村くんが飲み終わったアイスコーヒーの缶を捨てながら尋ねる。この部では前の部長の指名で次の部長を決める、だから仮野部長がどう思っているのかはすごく気になるな。

「う~ん、一応神原さんに決めているんだけどね」

それを聞いて私は飲んでいたココアをこぼしそうになった。

「わ、私ですか?」

「うん、沢村くんには神原さんのサポートとして副部長をしてもらうよ、しっかり彼女さんを守るんだよっ!」

「ち、違いますよ! 神原さんは彼女とか、まだ、そんなんじゃ……」

「そ、そうです! 沢村くんに、私なんかが……」

私も焦って訂正する。しかし部長はニヤニヤと笑っているばかりだ。

「ふふふ、若いっていいね。それじゃあ私、先帰ってるからね~! ごゆっくり~!」

部長はそう言って走って帰って行った。

 しばらく私たちは何も言わずに食堂で座っていたがやがて沢村くんが口を開いた。

「そ、そろそろ俺たちも帰るか……」

「う、うん。そうだね……」

  *

 帰る間、俺たちはいつもより会話が少なかった。俺はずっと神原さんのことを考えていた。けど、俺が神原さんを好きになってもいいのか? もしまだ夏のことを引きずっていたらどうする?

 しばらく考え、俺は結論を出した。やはり言うべきだろう。俺は勇気を出して神原さんに話しかけた。

「あ、あのさ……」

「な、何?」

「さっきの話のこと、なんだけどさ……」

「うん……」

「神原さんは……、どう、思ってる……?」

「私は……。沢村くん、すごいと思います。私みたいな人にも優しくて、頼りがいがあって、部活でも。……だから私なんかとつり合う人じゃないですよ! だから、ごめんなさい……!」

「あ、神原さん!」

神原さんはそのまま電車に乗って行ってしまった。そんなことない、好きだ。たったそれだけが言えない俺にはやはり、恋する資格なんてまだ無いのだろう。俺はどうすることもできず、ただみじめに次の電車を待つしかなかった。

  *

「それで結局逃げてきちゃったの⁈」

文化祭の後、私はあずさちゃんと打ち上げで最近はやりのタピオカドリンクの店に来ていた。ぼんやりしていた私に何か悩んでいるのかと聞いてきたので私はこの前会ったことを話したところ、あずさちゃんに店に響き渡るような声で驚かれた。

「はぁーっ、ほんとみらいちゃんらしいや……」

「あはは……」

私が笑って誤魔化そうとしたのを見抜いたのかあずさちゃんは私を見て強い口調で言った。

「笑ってる場合じゃないよ、みらいちゃん! みらいちゃん、いつも相手がどう思うかってこと考えるよね。今回だってそう、沢村くんに迷惑だから? そんなわけないじゃない! どこからどう見ても沢村くんもみらいちゃんのこと、好きだよ!」

「そうかなぁ……?」

「そうだよ~。あ、今度の修学旅行で告りなよ! 適当な状態のままだったら沢村くんどっかに行っちゃうよ?」

あずさちゃんは心配そうに最後のタピオカを吸い出す。

「それは、いやだな……」

「でしょ? 私も応援するから頑張って! 沢村くんみたいな人には積極的にいかないと」

そんな感じで私たちは打ち上げを終えた。修学旅行は三学期だ。それまでに私に、出来るかな……。

 そう考えて私は首を振った。だめだめ、そんなこと思っちゃだめなんだよね。でも本当に沢村くんは私のこと好きなのかな……。

  *

 はぁ、俺は言葉にもならない言葉を出しながら自室の部屋で寝転がっていた。神原さんは俺のこと嫌いなのかなぁ、三学期の修学旅行までに謝った方が良いのかなぁ。テレビは着物姿の芸能人がのんきそうに喋っている。「春の海」とやらを聴くのはこれが何度目だろうか。

「ごめんください!」

外で聞き慣れた馬鹿でかい声が聞こえた。どたどたと遠慮のない足音と共にやってきて俺の思考をぶち壊したのは他でもない、本田だ。

「なんだ、なんだ~? 新年早々だらだらしやがって。おら、初詣一緒に行こうぜ! 起きた、起きた!」

俺は抵抗もできずにこの寒い中、初詣に連れ出された。

「う~、寒いな~」

そう思うならおとなしく家に居れば良いだろう。まったく面倒な奴だ。

やがて近所の神社にたどり着き、俺は参拝を済ませて帰ろうとした。だが本田がそれを許さないことには薄々気づいていた。

「駄目だぞ、せっかく来たんだから色々やっていこうぜ!」

やれやれ、小学生か、こいつは。俺は仕方なく奴に付き合って色々出店を見ていくことにした。輪投げ、スマートボール、ダーツ……。色々あるな。

「おいおい、金魚すくいあるぜ!」

寒っ! ただでさえ寒いのにあいつは何をやっているんだ、……うん?

「おい本田! それを終わらせたらあのくじ引きやるぞ!」

「何だ、急に? 何か欲しいものでもあったのか?」

「見ろ! 読者プレゼント限定のアクアブルーバージョンのソフトだ! 絶対取るぞ、良いな?」

アクアブルーバージョンというのは子供向け雑誌のプレゼント企画で合計百人だけが手に入れることが出来たというゲームソフトのことで、他バージョンでは入手できないキャラクターが手に入るということもあって雑誌自体が品切れにもなった伝説の一品だ。もちろん俺も応募したが百人という壁はかなり高く周りの奴でそれをもっているのさえ見たことがなかった。

「仕方ねぇな、良いぜ!」

俺は全財産をくじに突っ込み、本田にも何度か引いてもらった。……もちろんだが散々な結果だった。

「まぁ、元気出せよ」

俺と本田はたい焼きを食いながら人混みの中を歩く。

「別に、本気で欲しかったわけじゃないし?」

「強がり言うなっ」

本田が俺の肩を小突く。

「まぁでも、沢村が笑っているのを久しぶりに見られたからよしとするか!」

「えっ?」

「最近のお前、何か悩んでいたみたいだったからな。冬休みに死んでないかってひやひやしたぜ」

本田のやつ……。俺は本田の方を見た。いつもより坊主頭が輝いて見えた。

「ありがとな……」

「良いってことよ! ほら、さっきの金魚すくいのオヤジがくれたやつ、お前にやるよ」

本田がポケットから小さなものを取り出す。やっぱりお前は良い奴だな、そう思って手を出したがそれは間違いだった。

「おい何だ、これは?」

「知らねぇのか、コンド……」

「言わせるか」

何を道の真ん中で手渡してくれるんだ。こんなもの、使う予定なんかねぇよ。そう言いながらもとりあえず鞄の奥に入れておくのが自分でも情けない。

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