第23話 角の生えた兎

 一息つこうとしたが、ふと思い出した事がある。


 今日召喚するカーヴァントの数を含め人数分のプチスイーツを持ってきていたんだったなあと。


「なあレイラ、10分位休憩は大丈夫だよね?」


「お怪我をなさいましたか?」


「いや、少し動いたら小腹が減ったからおやつを食べようと思ったんだけどさ」


 レイラはほっと胸を撫で下ろす。


「私が警戒していますからお休みください」


「じゃあアレクとムミムナは最初警戒していて。後で代わるから」


「わかったぜ!」


「御主人様の仰せのままに」


 2人は即答で並んで警戒をしてくれた。


 座るところが無いので地べたに座ってもらい、ういろうを出した。

 これなら戦闘中に押しつぶされても大丈夫だからだ。


 カーヴァントは基本的に食事はいらない。

 だが食べて消化もできる。


 皆に配り食べさせると特にゼッチィーニの反応が凄かった。

 困惑するレイラの手を取り踊り始めたからだ。

 ただ、レイラは感情を出すのがうまくないのか、ニッコリするだけだ。

 僕の事になると饒舌になるのだけど。


 ナイトのモーモンは不思議そうにしながら食べると、しばらく呆けていたな。


「レイラ、ゼッチィーニ、悪いけど2人と交代してくれるかな?」  


 そうしてアレクとムミムナがういろうを食べた。


「あ、兄貴の眷属になれて幸せっす!死んだはずなのに今生きているのが不思議っすけど!」


「人間はこのような美味しいものを食べているのですね!」


 ムミムナは真っ当かつ僕の期待した反応だけど、アレクに関してはやんちゃな聞かん坊から完全に餌付けされた子分に成り下がったようだ。


 そして小休止を終え、森の中心部を目指す。


 すると、カサカサと下草から何かが動く音がした。


 横を見るとつぶらな瞳のウサギが出てきた。

 2泊分用の旅行カバン位の大きさで、頭に体格不相応な角があり、可愛いなぁと思いついついおいでをした。


 するとこちらに駆け出し、恐ろしい形相に変わったかと思うと僕に向けてジャンプした。


 あっ!と思うも木が邪魔で避けられない!

 そう思い咄嗟に左腕を前に出し顔を庇う。


 次の瞬間、痛みと共に前に突き出した左手に角が生えた。


 痛みに顔を歪めるが、皆驚いていた。

 気配を感じなかったようだ。


「いてええええ!何しとるんじゃあああ!」


 僕は貫かれた痛む左手でウサギの頭を掴み、地面に叩きつけた。

 すると霧散してカードが残った。


 それはランク1のホーンラビットだった。

 ゴブリンと並び最弱の魔物の一種で、そういえば中央はホーンラビットの群れがいるエリアだと聞いていたのにすっかり忘れていた。


 僕の声にホーンラビットが一斉に向かってきた。


 弱いと言ってもこのジャンプによる角を刺す攻撃は侮れない。


 ムミムナが慌てて僕の手の治療を始めてくれた。


「モーモンは愛莉様、ゼッチィーニとアレクは殲滅しなさい!私は御主人様を守ります!」


 レイラは僕の方に、アレクとゼッチィーニは周辺に駆けていく。


 ホーンラビットは単体だとランク1だが、群れるとランク3相当の厄介さとなり、強さの割に大した稼ぎにならないので初心者から嫌われている。


 特に気配が薄いので接近に気が付き難い事から、気が付いたらブスリとなっている事もある。


「御主人様申し訳ありません!私が気配に気が付かなかっただなんて!後に何なりと罰をお申し付け下さい!」


「僕のミスだから気にすんな!今は対処しよう!僕なら大丈夫だから殲滅に行って!」


「か、畏まりました!」


 レイラは恭しく礼をすると駆け出し、近くにいたホーンラビットに落ちていた石を投げて瞬殺していた。


 僕と違い物凄いコントロールに嫉妬すらするが、美少女のそれは格好良い。


 ゴブリンじゃなかったら惚れてしまいそうな位で、人じゃないのが悔やまれる。


「ちょっと斗升君?大丈夫なの?ホーンラビットを見付けたのになぜ皆に警告しなかったの?」


 愛姉に怒られてしまった。


「ウサギかと・・・」


「ちょっと君ねぇ!勉強不足にも程があるわよ!何でホーンラビットを知らないのよ!もう!帰ったらお勉強よ!」


 愛姉に怒られたけど、ムミムナのお陰で傷はすっかり治った。


「ムミムナありがとう!もう大丈夫だから自分の身を守るんだよ!」


「お安い御用ですわ」


 ムミムナは杖の代わりに槍を持っている。

 後で希望の武器を聞かないとな。


 あちこちからはあああ!とか、とりゃあ!とか掛け声が聞こえてくる。


 5分もすると戦いの音と気配は収まったが、僕は3匹、愛姉は2匹倒したようだ。


「もう!いくらなんでも数が多いわよ」


 息を整えつつ周りを警戒していたら皆がドロップを手に持って戻ってきた。


 レイラが皆を従え土下座を始めた。


「御主人様に怪我をさせてしまい申し訳ありませんでした。どのような罰も受け入れますので御命じください」


「ちょっとやめてよ。まず立って!ほら、怪我なんてないから。ちょっとレイラはこっちに来て。他は警戒しつつ休んでいて」


 森の皆から見えないところに行ったが、レイラは何故か上着を脱ぎビキニアーマー姿になった。


「怪我をしたの?」


「いえ。皆様から離れた所に来たのはお求めになられたからですわよね?」


「待て待て待て待て!違うから。違うから!服を着てくれ」


 着ようとしないので服を奪うと無理に着せた。


「今回は誰かが悪いわけじゃないんだ。強いて言えば僕の勉強不足の所為なんだ。この階層に出る魔物とその分布、注意事項が一般にも公開されているから、それを調べもせずに知らなかった僕に愛姉が呆れていたんだ。だから今回の事で責められるとしたら僕だから。だから皆を責めないで」


 再び土下座をし掛かったのでギュッと抱きしめた。

 レイラの感触も人の温もりと同じだ。


「レイラの悪い癖だ。全て自分に非があるかのように捉えるだろ。レイラは十分役に立っているし、今までに謝るような事を一度もしていないぞ!」


 そっと離すと渋々と言った具合で頷く。


 直ぐに戻ると・・・


「兄貴いくらなんても早いっすよ!もう逝ったんっすか?」


 レイラがジロリと睨みつける。


「貴方は馬鹿ですか!貴方が思うような事を今はなされておりませんし、貴方のより御立派なはずです!」


 何の話か分からないけど、スルーして先へ進む。

 幸い階段付近だったので直ぐに3階層へ降りていった。



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