第22話 対ゴブリンライダー戦


「キャイーン!」


 時折ワーウルフの鳴き声とザシュッ!と剣が振られた音、アレクの中2チックな叫びが聞こえる。


「ワンコロの分際で同朋を使役するとは片腹痛いぜ!くらえぇ!竜巻旋風脚!」


 カプコンの格闘ゲームの技名が聞こえてきた。

 アレクの中にも中2がおり、発病しているとしか思えないけど言質はともかくとして、その直後にドゴン!と聞こえてきたから蹴り飛ばしたようだ。


 ここはワーウルフのテリトリーだ。

 本領発揮するシチュエーションに対し、こちらは木が邪魔で思うように戦えない。


 そんな中、僕の方にゴブリンが2匹来た。

 近くにレイラがいるようなので、これはレイラが僕の方に送り出したようだ。


「ムミムナ、右の方を頼むよ。倒さず時間だけ稼いで。レイラから僕への宿題だと思うから」


 弱体化していない魔物でもゴブリンなら何とかなりそうだ。


 ゴブゴブと叫びながら突っ込んできた。

 テレフォンパンチを躱しつつ剣を振るうと首を半ば切断したものの、父の業物とはいえ(数打ち品)首チョンパとは行かず、そいつは声が出ないようで必死に首を押さえている。


 もう1体の攻撃をムミムナは手に持った槍で捌いていた。


「お前の相手は僕だ!」


 そう言って石を投げると・・・勢いは良かったけど外れてしまった。


 主人公キャラだと見事に当たり、腕の1本でも砕いているのだろうけど、残念ながら僕は泥臭いモブだ。


 モブはモブらしく堅実な戦いをしたい。


 思う所があり、ゴブリンの攻撃を手をクロスさせて受け止めてみた。

 バトルスーツは耐衝撃吸収性に優れており、妹の冬奈が振るった竹刀だと軽い衝撃を感じる位だ。


 さてこのゴブリンは・・・

 受け止めると少し後ろに下がってしまい、腕が痺れた。


「中々力があるんだな。次はこっちの番だ。うおおおお!」


 小物臭のする叫びと共に僕は殴り掛かった。


 体がかなり小さいのでやり難い。

 バトルスーツがあるからと泥試合の様相を呈してきた。

 しかし、蹴りが入りうつ伏せに倒れたのでマウントし腕を取ると即時にへし折った。


 もうこれまでと思い、ナイフを抜くと喉を掻き切った。


 戦いが終わると見守っていたアレクとゼッチィーニは離れて行き、レイラが戻ってきた。


「今ので最後です」


「ちょっと斗升君、何やってるのよ!」


「武器を失ったら無手の戦闘になるから、ゴブリンとだとどんな感じになるのか試しておきたかったんだ」


 愛姉はジト目だ。

 はいジト目頂きました!ありがとうございます!


 皆が直ぐに戻ってきたが、手にはドロップを持っており、どうやら拾いに行っていたようだ。


「御主人様よう、あんた死にたいのか?倒したから良いが、人間が素手で殴ったって大して痛くないんだぜ!」


 アレクがもっともな事を言う。


「アレクの言っている通りだ。今回は実際に肉弾戦を経験しておきたかったんだ。まあ、蹴れば倒れたし、関節を決めれば骨は折れるようだね」


 それはともかく、レイラがすぐに襲われる位置に魔物の気配がないと告げたので、ドロップ品を集めて貰うとリュックへ入れる。


 レイラに少しだけ僕の方にも魔物を回すように言ってあった。

 諸説あるが、カーヴァントの使役者たる探索者自らが魔物を倒すと、上限があるようだが強くなれるそうだ。


 探索者適性がある者はその適正により人外の力を得る。

 適性がなくとも直接倒せば後天的に適性が身に付く。

 ただ、後天的な適性は、適性を生まれ持った者の劣化版と言われ、カーヴァントに戦わせるのが精一杯だ。


 ラビリンスから多少の魔素が漏れており、それにより適性者が生まれていき、今では2割の者がそうだと言われ、いわゆる二世は例外なく適性者だ。


 だから適性者はラビリンスに入るのが半ば義務化されており、愛姉は高校生の時に適性検査で適性有りとなったので探索者となったようだ。


 あくまで法律ではなく、社会的に半ば義務化されており、適性者が探索者にならなかった場合社会的に白い目で見られ、色々と不利益を被る。

 だから探索者をやらざるを得ない。


 父達先人は勿論後天的に適性が付いた。

 勿論中には化け物じみた天才がいなくもないが少数だ。


 愛姉を見ると、愛姉の方にも魔物が回っていたが怪我もなく倒していた。


 ムミムナは心配そうに僕の腕に回復魔法を掛けている。

 心配ないと言うも、カーヴァントの杞憂がなくなるならとやりたいようにさせている。


 ゼッチィーニとアレクはどちらが多く倒せたか競っていたようで、ゼッチィーニが僅差で勝ったようだ。


「なあ、頑張るのは良いんだけど、焦るなよ。ところで何か賭けていたようだけど何を賭けていたんだい」


「俺っちが勝ったらやらせろって言ったんだ!」


 ゴチン!


 レイラが拳骨をアレクにして引っ張っていった。

 何をやろうとしたんだろう?


「例え貴方が勝っても許されません。私もゼッチィーニの身も心も御主人様のもの。貴方に許されるのはミムナムを口説き番になる事よ。分かって!?」


 レイラが威圧を使ったのもあり「はい、分かりました」とアレクは返事をするしかなかった!


 僕が治療されている間にそんなやり取りがあった事を知らなかったけど、この風曲の森はゴブリンライダーが厄介で、森の入口近くで戦う探索者が多いのだとか。


 森を抜けた階段付近だとワーウルフの機動力を活かす木々がないから、比較的安全に狩れるからと階段付近に留まる者が多い。


 ここは3階層構成だというので下に行く事にした。

 森の中央に階段があり、2階層は直径1キロ程らしい。

 相変わらず僕は勉強不足で、呆れた愛姉が教えてくれた。


 森は5エリアに別れており、簡単に言うと入り口、中央、右、左、奥にいる魔物は違う種類だ。


 本来だとランク2や3のラビリンスにて半年程慣れた方が良いのだそうだが、僕のカーヴァントの力がもっと上のランク相当と愛姉が見ており、急遽2階層までの探索とするのを3階層のボス攻略に切り替えた。


 今は入り口エリアのゴブリンライダーを倒しきったから、リスポーン待ちになり、今のうちに中央へ向かう事にした。

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