第21話 フィールド階層

 モンスター部屋を出ると他の探索者の姿が見受けられた。


 各々ゴブリン、ワーウルフ、オークなど様々なカーヴァントを従えている。


「ここは人が多いわね。下の階層の方が人は少ないはずだからそっちに行こうと思うけど良いかしら?」


「よく分からないのでお任せします」


「ふふふ。きっと驚くわよ」


 アレクとゼッチィーニを先頭に先へ進むが、他の探索者が2階層への道程の魔物を倒しており1体とも遭遇しなかった。


 2階層へ降りる階段を進むと・・・眼の前の光景に唖然とした。

 そう、森が広がっていたからだ。

 ラビリンスの名前に森とついてはいたが、地名の事だと思いこんでいたんだ。


「隙あり!」


 ゼッチィーニが僕の眼前に来て、その顔が迫り・・・キスされなかった。


「貴女は何をしているのですか?」


 修羅のごとく恐ろしい怒り顔のレイラさんがゼッチィーニの襟首を掴みヒョイッと持ち上げた。


「御主人様の色々な初めては私が管理しますから勝手になさらないように!」


 レイラが聞き捨てならない事を言った気がするが、僕はハッとなった。


「フィールド型か!これは凄いや!」


 知識として知ってはいるし、写真もアップされているからフィールド型のラビリンスに驚く事もないような気もするが、体感するのはまた違う。


「あれ?今何かあったか?」


 何故かゼッチィーニが正座しており、レイラと愛姉から冷ややかな眼を向けられている。

 僕に向いていないから良いけど、美人の冷ややかな顔は癖になりそうな何かを感じる。


「ほら、ゼッチィーニも立って。先へ進むよ?」


「ゼッチィーニさん。次は容赦しないわよ!」


 愛姉がゼッチィーニにボソッと告げていた。


 身震いするゼッチィーニを見つつ、アレクが僕の肩を軽く叩いた。


「御主人様、女難いや、モテるねぇ!俺っちならもうやっちゃうぜ!ゼッチィーニはウエルカムっていててて!」


 何故かふくれっ面のムミムナがアレクの頬をつねりながら少し離れた所に引っ張っていった。


「なあムミムナはアレクと仲が良いな?」


「腐れ縁ですわ」


「何だ?幼馴染か?」


「よく覚えていないんだけど、こいつとはずっと一緒でして」


「夫婦揃って僕の眷属になったんだね!さあ行こう!」


「誰がこんなやつ!」

「そんなんじゃないです!」  


 2人の叫び声は斗升の耳には届かなかった・・・


「レイラ、あの2人は夫婦のようだ。色々配慮してやろう」


「それは知りませんでした。言われてみれば仲が良いですね」


 アレクとムミムナがその仲の良さから夫婦のようだと勝手に決める斗升だった。


 そんな斗升の勘違いは別の方向に話が行くとか行かないとか。


 レイラはレイラで2人のポジションを考える。


 ムミムナは貴重な回復役で、アレクはどうやらダメージディーラーのようだ。

 ただ、ダメージディーラーは攻撃特化型で防御に難がある。

 可能かどうか分からないが、装備の充実をどうするかについて御主人様に進言する内容を歩きながら考えていた。


 しかし、魔物の気配からレイラは思案を中止した。


「来ます!」


 1言言うのが精一杯だった。


 ここは森の中。

 木々の間を縫うようにワーウルフの群れがゴブリンを乗せて駆けて来る。


 囲まれたのが分かる。

 ランク2と1の組み合わせでゴブリンライダーとなっている。


 僕も剣を抜くが今はヘルメットを被っている。

 鍔のないドカヘルで工事用のそれと見た目は似ていてはっきり言ってダサい。


 繊維強化プラスチック製で軍隊で採用されているヘルメットの民生版だ。


 僕の使っているのは父の予備だ。

 警察官が持っている拳銃程度なら耐えられるが、ネックは重い事だ。

 僕がヘルメットをかぶると愛姉に笑われたな。

 自分でも分かっているけど、どう見ても似合わない。


 当時陸上自衛隊員であった父は新設された対魔物戦に特化した特殊部隊員だったが、通常の自衛隊員用の鉄帽と構造が違う。

 材料に魔粉を練り込み、自衛隊の鉄帽より重量が同じなのに40%強度が高い。


 探索者用のヘルメットもピンキリで、自衛隊のヘルメット、つまり鉄帽相当でも10万円する。

 父の装備は魔石を練り込んでいるので100万円はするはずだ。

 今では2000万円クラスのヘルメットすらある。


 愛姉は額当てとしてカチューシャを着けている。

 デザイン性を上げており、数打ちの日本刀ならこのカチューシャで受け止められる。

 線の攻撃には強いが、矢などの点の攻撃はカバー出来ない事が多いのが難だ。


 魔物の気配は20を超える。

 つまり最低でも10組のゴブリンライダーがいる事を意味する。


「あっ!待ちなさい!」


 レイラがアレクを制止しようとする声がした。


 アレクが行ってしまった。


「レイラ、構わない。どれだけ倒して来るかで実力が分かるだろう。レイラは愛姉を気にして欲しい。ムミムナとモーモンは僕の側を離れないで!ゼッチィーニはアレクと反対方向から斬り込んでくれ!」


 そうしているとヒュン!と音がし避けると槍が通り過ぎた。

 しかし、避けた所にも別の槍が飛んできて僕の頭に槍が当たった。


 ドゴッ!


 僕はその衝撃に後ずさりし、尻餅をついた。


「あたたたた。ヘルメットが無かったら死んでいるぞ!頭にきた!」


 ムミムナは僕に回復魔法を掛けている。


 ガキーン!


 また槍を投げてきたので剣で受け流したが、それを合図にしたかのように乱戦になっていった。

 槍を投げたゴブリンはワーウルフから落とされ、徒手空拳で向かってきた。

 つまり1射目が終わると数だけは倍になる。

 幸い一斉に投擲するのではなくバラバラだ。

 

 僕の前にはゴブリンが来た。

 どうやらレイラが僕の方にゴブリンを回そうとしているようだ。


 ワーウルフの方が強いから、それらはカーヴァント達が当たるようだ。


 ヒュイン!ゴブリンライダーの1射目は殆ど僕を狙ってきた。


 ゴドン!


 モーモンが1本の槍を弾いた。


 僕も剣で弾いたが、レイラは手持ちの槍を投げると僕の足元に落ちている槍を拾いに来ており、今は2本持っている。


 何本かは狙いが反れたのか木に当たり躱すまでもなかった。


「レイラとモーモンもゴブリンライダーを倒しに行って!僕の所にはムミムナがいれば良いから」


 最大戦力を遊ばせる手はない。


「御主人様御武運を!ムミムナ!貴女の命に代えてでも御主人様を守るのですよ!」


「イエスマアム!」


 何処で知った?と言いたいような敬礼をムミムナがすると、レイラはゴブリンライダーを倒しに駆けて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る