第3話 登録

 僕はモブだ。

 友達はちゃんといるけど、顔はその辺にいる同い年の者と大して変らない。


 ハンサムではないが、変でもなく普通だ。

 本来だと高校へ入学するまで探索者として登録する必要はないのだけれども、父の事がバレるとめんどくさいので4月2日の最短で探索者登録をする。


 金を稼ぎたい奴等も登録する時期なので、金を稼ぎたいと言えばふ~んで済む。


 昨夜カードに血を垂らしたら変な事が起こった。


 いや、僕が、やらかしたんだけどね。


 ランク2のカードを最後に登録するつもりでその上にランク1のカードを重ねておいたんだ。


 1番上のカードは女の子っぽい。

 男のカードは腰布をしただけで、女の子はタンクトップに近い服を着ているのが多いからそう思うんだ。


 実際は腰布を外して男性器が有るか無いかを見るしか分からないんだけどね。

 まあ、動物と一緒だ。


 何故かカッターナイフで指先を切って血を垂らそうとしたんだ。

 普通は針を使うよね。

 今じゃダ○ソーやセ△アに指先から少し血を取る道具まで売っているのに・・・


 で、指先に刃を押し当てた所でくしゃみをしたんだ。

 ズボッ!

 ぶっ刺さりました。

 ドピューと血がカードに掛かりましたよ。

 1番上のカードの方に大量に掛かり、テーブルにまで垂れていったんだ。


 僕は慌てて指を押さえて妹にバンソウコを出してもらったんだ。

 押さえると血は直ぐに止まり、痛みも引いていった。

 一応バンソウコを貼ったけど、まあ明日になれば治っているかな。


 妹からお兄ちゃん馬鹿だねとジト目をされましたよ・・・あははは・・・はあ。


 実は僕のような2世は特殊能力を持っている事があるらしいけど、共通して怪我をしても回復がかなり早いんだ。


 ラビリンスに入って魔物を倒すと、魔素を吸収するらしいけど、その影響が子に出ると言うのが分かっている。

 既に2世の者達がラビリンスで大活躍している事から、2世は強いはずだとなっているんだ。


 でもバレたくない。

 その場合学校で検査されない唯一の道は自ら探索者ギルドの扉を叩く事しかなかった。


 妹もそうせざるを得ない。


 で、布巾でテーブルを拭いているとおかしな事があったんだ。

 カードがなくなっていたんだ。

 うん、その全部じゃないんだけど、1番上にあったゴブリンと1番下のランク2のワーウルフしか残っていなかった。


 不思議だ・・・

 で、ゴブリンのカードを見ると、種族はゴブリンだし名前はレイラのままだったが、容姿が全然違う。


 肌の色とかはまさしくゴブリンといった感じの薄い緑だけど、顔は人に近く、美人というか、美少女だ。


 おかしい。

 くちゃくちゃな醜いゴブリン顔のはずが、肌の色以外は人にしか見えない姿になったのだが何故?

 髪は赤茶色で、ポニーテールのようだ。

 しかもキリッとした超絶美少女。


 カードやテーブルの血を拭き取った後にカードを確認すると、僕の眷属、つまり僕のカーヴァントになった事が分かる。


 カードの内容はこうだ。


 名前 レイラ

 所有者 淺沼 斗升

 種族 ゴブリン

 ジョブ クイーン

 性別 女

 ランク 1 κ

 レベル1

 能力

 威圧

 献身

 幸運

 

 何だこれは?

 スキルなんて血を垂らしたゴブリンのカード全てになかったし、ランクの後ろの【κ】ってなんだ?

 聞いた事がないぞ。


 ジョブもそうだ。


 もう1枚の確認をしよう。



 名前 ジョーイ

 所有者 淺沼 斗升

 種族 ワーウルフ

 ジョブ なし

 性別 男

 ランク 1

 レベル 1


 能力

 猪突猛進


 ワーウルフの方は特に無いな。

 能力をスマホで調べてみる。


 猪突猛進 

 注意散漫になりがちでやや先走りがち。しかし、その攻撃力はワンランク上となる。


 ちゃんと指示を出してやれば使い所は多いな。


 で、レイラの方だ。ジョブのクイーンって情報ないぞ!


 威圧

 怒気をはらんだ気をぶつける事により己よりランクの低い物を萎縮させる事ができる。


 献身

 主に尽くし、主の危機に際して本来の力以上の活躍をする。


 本来もっと上のランクのカードが持っている能力のはずだけど、ランク1で持っているのはどうなのだろうか。


 幸運

 召喚主たる使役者と能力を持っている本人に幸運がもたらされる。

 

 幸運は強運、豪運等もっと上のラッキー持ちがあるらしい。


 取り敢えずカードホルダーに入れ、探索者ギルドの窓口に行く。


 多くの人でごった返しており、順番待ちをするのに発券機にて番号を得る。


 窓口は3つ有り、待ち番号が表示されているモニターを見ると10人待たないといけないようだった。


 で、僕の番は30分程で来た。

 窓口は・・・ラッキー!若いお姉さんだ。

 おっさんとおばさんがいたんだよな。


「探索者ギルド窓口へようこそ。本日はどうされましたか?」


 中々綺麗なお姉さんに少し慌ててしまう。

 いや、めちゃくちゃ美人だ!


「えっと、来週高校に入学するので、先に探索者に登録したくて」


「お早いですね。説明などがありますのでこちらにどうぞ」


 手振りでローカウンターへ案内されたが、お姉さんは・・・他の人に受付を代わって貰ったな。


「初めまして。私、璃音が担当させてもらいます」


「名字ですか?名ですか?」


「よく言われます。名字ですわ。貴方の名前と志望動機をお聞きしても良いですか?」


「あっはい。僕は・・・」


 名前と2世だからと伝えると表情が変わった。


「ま、まさかあの方の?」


「多分思っている人ですよ」


「少々お待ち下さい」


 そう言って上司と思われる人のところに行き、直ぐに戻ってきた。


「ここではなんですので奥へどうぞ」


 会議室に案内され、先程の上司も現れた。

 この窓口の課長だそうで、40代半ばの何処にでもいるような目立たないおっさんだった。


「申し訳ありません。2世の方にはこうやって個別に話をさせて貰っています。あの方のご子息との事ですが、この時期に登録されるという事は伏せる為でしょうか?」


「多分知っていると思うのですが、父は0号の方の隊の隊長でした。名前は母の名前にしていますが、父の名が出てしまうと悪目立ちするのでお金を稼ぎたくて探索者になる一般人を装いたいんです。僕はともかく2つ下に妹がいるので」


「分かりました。ただ、規則で2世

の方への対応は違いますが、人前では一般人として対応致します。ですが電話やメールでは特別扱いをしなくてはなりません」


「何も無い事を祈りますが。仕方がないですよね」


「私はね、君のお父さんには世話になった口で、というかお父さんは高校のクラブの先輩なんだよ。もしも特別扱いを言われたら亡くなった父の後輩がギルド職員で、その縁だとでも言えばよいよ。調べれば同じ高校の出身だと行き着くから。知っての通り嘘を見抜く道具があるけど、嘘ではないからね。まあそれだけじゃないけど。じゃあ璃音君、後は頼むよ。これ以上いると変に勘ぐられるから。斗升君、今後もよろしく!」


 握手をすると課長さんは離れていった。


 やはり母の旧姓も把握していたな。


 2世の特殊能力はまだ発露していないとしても、今後ラビリンスに入るとそのうち発露すると思うと伝えられ、治癒能力が高いかどうかだけを聞かれて答えに満足していた。


 彼女は普段受付をしないが、この時期は僕のように、2世を隠す者の登録があるから受付を臨時でしていると言っていた。


 その場で渡された最初というか、スタートパックのカードに血を流して主の登録をした。

 これは規則で、以前ラビリンスに入らずに転売した者がいたのでそれで転売防止に登録させているのだとか。

 ランク1が殆どというか10枚のゴブリンと、1枚のランク2のゴブリンウォーリアーだった。


 お姉さんは20代前半の薄く茶色のセミロングで、僕と同じくらいの背丈かな。

 うん。大人の女性だ!物腰も柔らかく、こんな人が姉だったらなといった姉御かな。


 そこからは登録手続きをしたり連絡先の交換等をしていった。

 仕事での連絡先交換じゃなかったら嬉しいけど、まあ、おっさんが担当じゃなく若く綺麗なお姉さんが担当なだけ有り難いと思うところだよね。


 その後探索者登録証を渡され、近くのランク1でここのギルドで登録した探索者が最初に入るラビリンスの場所を教えられ、ギルドを引き上げた。

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