第4話 いざラビリンスへ

 僕は翌日、璃音さんに言われた時間通りに地下鉄のメンテナンス用出入り口に来ていた。

 勿論ラビリンスの入口の1つにだ。


 今日の出で立ちは父の使っていた胸当てと、同じく予備のバトルスーツを着ている。

 僕の着ている父の使っていたバトルスーツは非売品で、3世代程古いが、当時の金額でBMWが新車で買えるほどの金額だったらしい(一般隊員用の量産型での事)

 


 父の荷物を整理していたら出てきた荷物の1つだった。

 洗ったりメンテナンスに出したりするから、装備品については幾つかのセットを持っていたようで、母の手前売らずに僕が使う事になった。

 世代は古いのだが、今も売れば100万円にはなるらしい。


 このバトルスーツは父がラビリンスで行方不明になった時に、遺品として自衛隊から貰った物だ。

 但し、10年間売らない約束でだ。

 自衛隊からは父の使っていた物で、家にある物については遺品として引き取る許可を貰っていたが、その中の1つだった。


 生きている可能性に縋りたいのもあり、10年間売らない約束を母は受け入れた。

 そんな母も今は無理が祟り疲れ切っている。

 お金を稼がないとなので母は無理をしていた。

 父の遺族年金だけでは苦しいんだ。

 勿論家を売ればもう少し楽なはずだけど、母の意地で絶対に売らないと、父が帰ってきた時の居場所を残す事にしていた。


 僕が探索者をするのは、間違いなく二世特有の測定結果からラビリンスへ半年後には潜る義務が生じる為だ。

 自ら探索者になれば学校での検査は不要となり、僕が2世だとバレにくくなる。


 それは母に対して話す建前だ。

 母が申し訳ないと思わずに済む為の詭弁でしかない。

 本音は僕が稼いで母がパートに出なくて済むようにしたい!

 楽をさせてあげたいのと、妹が2世だと分かると色々面倒事に巻き込まれ兼ねないからでもある。 


 それに探索者はモテる。

 モテたいんだよ!

 彼女が欲しい!

 2世だと分かると親の七光りと言われるだろうが、そうではなく・・・


 それで今はラビリンス入り口に来たんだけど、ラビリンスの入り口には自衛隊の監視員がいる。


 璃音さんから渡された探索者実技試験の試験票と仮の探索者登録カードを見せる。

 合格すると探索者証として正式に使えるようになる。

 この試験は1人で挑まなければならない。

 不正による合格を防ぐ為だ。

 ならば試験官が一緒にと思うかもだけど、どうしても頼ってしまう者が出るのと、手の内は仲間以外に晒したくない探索者が多いので、結局単独踏破となり、10年以上そうなっている。


「淺沼斗枡さん、15歳で間違いないですか?」


「あっはい」


「同意書にサインをお願いします」


「書いたのがあります」


 そう、何があっても自己責任で最悪死亡もあり得る旨が書いてある。

 時折突如としてラビリンスのランクが上がり、己が対処できないランクの魔物が出たり、スタンピードが起こったりとそのラビリンスのランク通りにならない事があるから、同意書を渡され、よく読むようにと言われていた。


「ほう。旧式だけど、自衛隊の装備だね。お父さんが探索者をしていたのかい?」


「あっ、はい。物心付いた時には行方不明になっていましたが」


「そうか。無理をせずに生きて帰ってきなさい。最奥に今日のワードが書かれた看板があるから、そのワードを伝えてくれたら合格だ。くれぐれも他の試験を受けている者に聞いたり教えないように」


「了解です」 


「知っていると思うが、スマホとかは扉を入った外入り口にあるロッカーに入れるんだぞ。1時間して出てこなかったら我々が救援に向かうからモタモタしないように。では幸運を祈る」


 敬礼をして送り出された。


 貴重品はラビリンス入り口手前にある外扉から入った所にあるロッカーに入れる。

 ロッカーへの出し入れは探索者証で行い、カードをピピッ!とすると聞いている。


 扉を開けると奥にもう1枚扉があり、壁沿いにコインロッカーのようなのがある。

 違いは扉にFeliCaのようなカードを翳す装置がある位だ。


 ロッカーの扉を開けるとサイズがおかしい。

 大きいんだ。

 知ってはいたけどいざ目にすると違和感がある。

 ラビリンスから出たアイテムで中を拡張してあり、本来の倍は入る。

 驚いて少し呆けていたけど、はっとなり財布やスマホを入れる。

 次からは何食わぬ顔で使えるから、璃音さんの前で恥をかかずに済みそうだ。


 ラビリンスの中は電子機器が壊れてしまうから、入れないと後で悲しい思いをする事になる。

 先程注意されたのはラビリンスの中にスマホを持ち込むとかなりの確率で壊れるからで、絶対に持ち込んではいけないと冊子にもあった。


 写真もデジタルは駄目なので、フィルムタイプのになる。

 デジタルカメラが当たり前で、フィルムは特別な趣味の品になるはずだったけども、ラビリンスのお陰で小型でマニュアル操作のカメラが重宝されるので別の意味で進化していった。

 ピントもマニュアルで合わせないとだ。

 オートフォーカスは電子機器が使えないので無理だった。


 自衛隊が苦労したのは電子仕掛けの兵器が使えなかったからだ。

 また、スナイパーライフルは威力が高いが咄嗟の戦闘に不向きで、ラビリンスの外に出てくる魔物の撃破にこそ貢献したが、ラビリンスの中では使い物にならなかった。


 小型で軽く威力の高い武器は射程が短い。

 そんな銃が好まれた。


 砲弾系統は味方に被害をもたらした事から特に手榴弾は早々にラインナップから消えた。


 意外に役に立ったのはクロスボウだ。

 装填に時間が掛かるが、貫通力がある。


 探索者がタワーに入る時の携行武器だが、剣や刀が好まれる。


 刀剣類は街中では布で包み運ぶ。

 ラビリンスの外で人相手に使用すれば銃刀法違反になるのでしっかり封をしてから出掛ける。


 僕は父が使っていたコンバットナイフを腰に下げているけど、これはサブウェポンだ。


 メインはショートソードだ。

 ただ、剣術は習っていないから扱いには注意が必要だ。

 これも父が残した武器だ。


 僕は恥ずかしいからバトルスーツの上にシャツと膝丈のズボンを履いている。


 例えばマリンスポーツで着るスウェットスーツやGA○TZのスーツのようなのがあるとして、あれだけを着て街中を歩けないよね。

 だから上から服を着ているんだ。



 聞いていたのは初めてラビリンスに入る時は例外なく試験用のラビリンスに入り、問題なく最奥へ踏破出来る事を確認すれば探索者として合格だという事だ。

 不合格だと探索者証を没収され、研修の後再チャレンジだそうだ。

 

 僕は頬を叩き気合を入れるとラビリンスの中へと進んでいった。




後書き失礼します。

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