主人公
狐耳の美幼女ちゃんは、人々を物語の世界へと誘うNPCであると確定した。だけど彼女が言うには、この事は普通の人々にはバレてはいけない事らしい。
『どうしましょう?! 絶対怒られるぅ……!』
「落ち着いて、狐ちゃん! どんどん墓穴を掘ってるよ! ほら、深呼吸しよ! すーはー」
『すぅー、はぁー』
私の掛け声に合わせて狐ちゃんも深呼吸をする。彼女が息を吸うと全身の毛がふわぁと逆立って、息を吐くとそれがシオシオ~と元に戻った。なにこれ、可愛い。
「落ち着いた?」
『コン』
「それは良かった。ほら、よく考えて。今のところ、私が知ってるレベルの情報しか出てないから! だから多分セーフだと思う! でも、これ以上話すと、本当に不味い内容になるかもしれないから、ね?」
『コン……。そ、そうですよ! あなたってただの人間ですよね?! なんでこっちの事情を知ってるんです?』
そりゃあ、ゲームと言う形でこの世界の法則を知ってるからだけど……そんなこと言えないし。なんて誤魔化せばいいのかしら? ……ダメだ、なんにも言い訳を思いつかない。
「えっと、知ってたから?」
「答えになってない……」
「知ってたのだからしょうがない」
「いつ知ったのか覚えていない知識ってあるよね~」
『ええ……? そ、そういうものなんです?』
うーん、そういう物じゃないと思う。でも、何故か納得してくれたから良しとしよう。
「結局、狐さんは自分の物語のエキストラをスカウトしに来たんだよね? もし良かったら私たちがやる?」
「そうだね。浦島伝説みたいに、元の時代に帰ってこれないのは困るけど」
「どんな作品になりそうなの~?」
『お気遣いありがとうございます。ですが、ちょっとそういう訳にはいかなくって……。実は招待したいのはエキストラではなく主人公なので、こう、ビビッ!と来る人じゃないといけないと言いますか……』
物語へと誘われる人は主人公らしい。確かに浦島伝説でも亀さんに招かれたのは主人公だったよね。そして私達ではその役は務まらないらしい。うーん、残念。
「そっか、ハル達ではだめかあ」
「お眼鏡に叶わなかったか」
「『表現力』が足りないのかな?」
まさかの出演拒否されて三人は残念そうにする。なんで私達じゃダメなんだろ? ユズちゃんが言うようにステータスの問題かな?
そう思っていると、狐ちゃんが首をフリフリと横に振りながら慌てて言った。
『いえ! すみません、皆さんが良くないって訳じゃあないんですよ! ただ、何と言いますか、えーっと。どうせ色々と知られていますし、もう言っちゃいますと、
「そんなド直球な職業あるの?!」
「聞いたことないね」
「どんな
主人公……? ああー! そういえばそんな設定があった気がする!
ゲームのとあるシナリオでそういう展開があったのを今思い出したわ。あるキャラが「君は主人公だ!」って言われて物語世界へ連れていかれるってシナリオだったはず。
「そっか! そういえばそんなのあったわね。確か人には認識できない隠しステータス的な物だっけ?」
「隠しステータス!」「なんか凄そう~!」
「そんなのあるんだ、初耳」
『ですです、それも知ってるんですね! 隠し
「主人公補正……? それってやっぱり強いって事?」
「絶対死なないとかそういう感じかもしれないね♪ いいな~!」
「それか異常に人から好かれるとか? 初対面のお姫様と婚約できる、みたいな」
『あはは、まあそんな感じですね。そういう様々な恩恵を受けられる反面、物語の展開を崩さない為にいくらかの事物を認識できなくなるデメリットもありますね。花火の音で告白が聞こえなかったりとかそういう奴です』
な、なるほど! 難聴系主人公はそうやって生まれるんだね!
そういえばゲームで「君は主人公だ!」って言われる子は変なところで鈍感になっていたわね。なるほど、あれは主人公補正のせいだったのね。
「そっか、それならハル達じゃダメだね……。別に難聴じゃないし……」
「それじゃあ、鈍感そうな子を探す必要があるって事か」
「取りあえず、この村の人は全員違ったの~?」
『はい、そうなんです……。ええと、残念ながらこの村の人は皆さん違いましたぁ』
そっかあ。この子を「お稲荷様だ!」って信じて疑わない姿勢は如何にも鈍感な感じだったけど、主人公補正が原因じゃなかった訳かあ。
『早く運命の人を見つけないといけないのにぃ~! コン……』
そう言って狐ちゃんはしょんぼりしてしまった。その姿はまるで、なかなか契約が取れない営業の人のよう。うぅぅ、こんなにも小さな子が困っているのに、私達には何もできないなんて……。
神社内の空気が重くなっていたその時、狐ちゃんの耳がピーンッと立った! なんならピーンって効果音とエフェクトが出てた! 現実世界でもこういうエフェクトって出るんだね、流石はNPC!
『あ! ちょっとすみません、上の者から連絡が。コンコン、なんですか? ええ? もうこの人たちで良い? 一応【主人公】を持っている? でも私の眼にはそうは見えない……。はい? ちょっと、知らない方が良い事もあるってなんですか?!』
うん? なんだか不穏な言葉が聞こえてきたけど……。
『ええと?取りあえずテストで作った世界に招待するのはどうかって? えっと、そんな事許されるんですか? あ、はい。はーい。分かったです~』
「えーっと? つまりどういう事?」
『なんかOKが出たので、皆さんを私の世界にご招待します!』
「「「「そんなノリでいいの?!」」」」
『OKが出たので!』
そう言って嬉しそうにほほ笑む狐ちゃんからは金色色に輝くエフェクトが出始めた! ただのエフェクトだったその光は徐々に存在感が増し始め、いつしか狐ちゃん自身が神々しく光り始める。
「な?!」「うっ……」「すごっ……」「ひっ!」
【アイドル】として数々の魔物と相対してきたからこそ分かる、彼女の人知を超えた魔力の圧。あまりの変容に私達は思わず後ずさりした。
〈それじゃあ、よろしくお願いします!〉
〔Fluffy Foxにより、タスクが設定されました……完了〕
ダンジョン外にも関わらずシステム音声が聞こえる。〔完了〕という声と共に、一冊の本が虚空から出現する。
狐ちゃんはそれをひょいと拾ってにっこりと笑って言った。
『ありがとうございます! どうぞみなさん、呪文はご存じですか?』
神々しく光る狐ちゃんは煌煌と光り輝く本を手渡してきた。そっか、そういう事ね。
「はい、分かります。えっと、〈次のステージはここ!〉」
「「「〈次のステージはここ!〉」」」
言われるがままに呪文を唱えると、本がひとりでに開きそこから溢れる光が私達を包み込んだ。その瞬間、体の平衡感覚がなくなって、まるで宙に放り出されたような感覚に陥る。これはどこかに転移させられる時の感覚……!
『わぁ~! こんな感じなんだぁ~!! すごいです!』
「いや、なんであなたが驚いているんですかあぁぁぁー?!」
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