ハルちゃんの帰省、お稲荷様?

 川遊びに限らず、水辺で遊んだ後って無性に眠たくならない? 一説によると、温度変化に対応するべく沢山エネルギーを使うから疲労するらしいわね。


 ええと。まあそういう訳で川遊びしたその日に天体観測は出来ないわね。今日はゆっくり休んでしまいましょう。おやすみなさい~。



 そして三日目。夜に天体観測をするとして、それまで何をしようかと悩んでいると、おばあちゃんが「それなら見せたい物がある」と言って私達を村のはずれへと案内した。


「ここだよ~」


「これは……神社? こんなのあったっけ?」


「最近建てたんだよ」


 案内された先にあったのは小さな家……。いや、入り口に鳥居があるから家ではなく何かを祭っているやしろみたいだね。

 それを見てハルちゃんのお母さんが不思議そうに首を傾げる。お母さんが知らないって事は、これが建てられたのは本当につい最近の事みたいだね。


「最近建てた? こういう社ってそんなノリで建てる物なの?」


「それは入ってから説明するよ。ちゃんと一礼してから入るんだよ~」


 鳥居の前でペコリ。鳥居は「玄関口」だからね、一礼してから入るのがマナーなのよね。


「お稲荷様、失礼いたします。娘と孫を紹介させていただきたく……」


「おお、可愛い狐さんだ!」

「可愛いー!」

「わーお、綺麗な毛並み」

「もっふもふだね~可愛い♪」


 おばあちゃんが扉を開くと、そこにいたのは大きく美しい狐さん。大切にされているのだろう、毛並みは美しく整えられ、しっぽはもっふもふで、とっても可愛らしいわね!


「うわっ、でっかい狐!」

「こ、こら! 失礼な事を言うでない!」


 ハルちゃんのお母さんがとても正直な反応をして、おばあちゃんがそれを嗜めた。

 うん、気持ちは分かるよ。私達はダンジョンでこの何倍も大きい魔物を見ているから「ちょっと大きめだね」としか思わないけど、そうでない人からすると「でっか?!」って思うサイズだよね。



 ペコリ



「わぁ、お辞儀した!」

「すご~い!」


 へえ、狐ってこんな芸を出来るんだ。そういえばキツネは家畜化可能って聞いたことがあるような気がする。えーっと、それでこの子は……? そうおばあちゃんに尋ねてみると、おばあちゃんは誇らしげに語った。


「この方はね、私が山を歩いている時に出会ったんだよ~。ほんの10日ほど前、私が山を歩いている時にね……」


 なるほど。おばあちゃんが言うには山でこの子を拾ったらしい。野生の動物とは思えないほどに綺麗な見た目だったから、きっとこの狐はお稲荷様なのだろうと思い、急遽この社を作ったらしい。


「ええと、森で拾った時からこの毛並みなんですか? それって誰かが飼ってたんじゃあ……?」


「その可能性もあったからこの辺りに住んでいる人に聞いてみたが、みーんな違うって。だから間違いなく尊い存在だよ」


 そっか、それなら問題ないのかな? なんて思っていると、ハルちゃんとユズちゃんがお稲荷様(?)の目の前まで移動していた。二人はおばあちゃんの方を向いてこう尋ねた。


「おばあちゃん、この子、触ってみてもいい?!」

「私も触ってみたいな~♪」


「だ、駄目だよそんな罰当たりな事をしたら!」


 コンコン、コンコン


 おばあちゃんは二人を制止したけど、お稲荷様(?)は「いえ、構いませんよ」と言わんばかりに二人に近付いた。……?


「……良いみたいだね。優しく触るんだよ~」


「わーい! 失礼します……わあ、ふっさふさ!」

「すご~い! ねえねえ、二人も触らせてもらおうよ♪」


「……え? ああ、うん。そうさせてもらおうかな」

「うん。失礼します」


 私達がそっとなでると、くねくねと動きながら私たちにじゃれついてきた。か、可愛いわね! まるで「もぅ、くすぐったいよぅ」と言ってるみたい。……?


 それから少ししておばあちゃんが「迷惑にならない内に、そろそろ帰るよ~」と言ったので私たちは社を後にした。ハルちゃんが「ばいばいー!」と手を振ると、お稲荷様(?)も前脚を持ち上げてぶんぶんと振った。



 ……いや。



 ……あのさ。



「……絶対おかしいよね、あれ」


 リンちゃんが私の隣にそっと近づき、おばあちゃんに聞こえないよう小声で言った。うぅ、耳元で囁かれるとちょっとドキッてするわね。これって私だけ?

 うん、私もおかしいと思う。普通の動物とは思えない。明らかに人の会話を理解してたし。


「それに、撫でて一本たりとも毛が抜けなかったのもおかしいポイントよね。どれだけ健康な動物でも、全くもって抜けないって言うのは流石におかしいわ」


「そういえば。じゃああの子は誰かが召喚したダンジョン内の野生動物?」


「その可能性もゼロではないけど、私は違うと思う。もしそうなら、召喚主が返してもらいに来るかと思うから。それにライチョウさんを召喚した時、数時間で『時間だから帰るね』って言ってたから、10日もここに留まっているのは違和感があるかな」


「だよね。それにダンジョン内の野生動物なら、ユズが声を聴けるはずだよね。ユズ、ちょっといい? かくかくしかじかで……」


 リンちゃんはユズちゃんを引き寄せてさっきの議論を説明する。耳元で囁かれてユズちゃんは嬉しそうにしている。やっぱりASMRって良いよね! どうやら私だけではないみたい。良かった。


「なるほどね~。ええと、少なくとも翻訳されなかったよ。コンコンとしか聞こえなかったし」


「じゃあ……まさか魔物? 魔物がダンジョン外に出てくるって可能性もあるよね?」

「ええ?! あんなに可愛い子が魔物なはずないよ~!」


 魔物はユズちゃんのスキルを使っても声が聞けないのよね。だって今から倒す敵と会話できたら……嫌じゃん?

 だけど、魔物でもないと私は思う。ユズちゃんが言うように、あれだけ人懐っこい子が魔物と言うのは考えにくいし、そもそも魔物がダンジョン外に出てくることはあり得ないのよね。


「大丈夫、その可能性は無いから。詳しく話すと長くなるからまたの機会にするケド」


 少なくともヒソヒソと話すような内容じゃないわね。


「そうなんだ。危険が無いならそれでいいけど」

「じゃあ、あの子は一体……?」


「今日の午後、改めてここに来ましょ。それで本人から聞き出してみよっか」




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