ハルちゃんの帰省、川

 ハルちゃんの帰省二日目、今日は用水路で水質調査をするわ! マジックバッグから水質調査に必要な物を取り出して、みんなに説明する。


 まずはペットボトルで作った自作透明度計! 透明度計なんて大層な言い方をしているけど、ただの細長い筒ね。ここに水を入れて、何センチの深さまで見えるか計測するわ。

 正確な透明度を測る機械を購入するって手もあったけど……それよりは自作した方が「頑張った感」を演出できるわよね。しかも安上がりで済むし一石二鳥よね。


 それからCOD(化学的酸素要求量)を計測するパックテスト! 本当はBOD(生物化学的酸素要求量)を計測したいけど、BODの計測には採取した水を一定の温度で5日間密封静置する必要があって、かなり大掛かりになってしまうのよね。だから代わりに試薬を入れたらすぐに結果が出るCODを測って、そこからBODを推測するわ。

 この辺りの違いを丁寧に説明すれば「しっかり勉強した感」を演出できるよね。


 あとは、住んでいる生き物の評価ね。4段階の「水質階級」とそれぞれに「指標生物」が定められているから、それを基に水質を判断するわ。



「透明度に関しては観測者の主観が混じるから……」


「全員で測って、平均するのが良いかな」


「そうだね、そうしよっか」


 筒の底に設置したマークが見えているかどうかで測定する以上、この試験はどうしても主観が混じってしまうのよね。

 測定結果はこんな感じ。


ヒメ

1回目:54cm

2回目:61cm


ハル

1回目:45cm

2回目:55cm


ユズ

1回目:48cm

2回目:58cm


リン

1回目:61cm

2回目:48cm


「えーっと平均が……54cmくらいかな?」

「かなり綺麗だね」

「田舎って凄いね~!」


 と話していると、ハルちゃんのお母さんが「そりゃあそうだよ」と言った。


「昔は飲み水にしていたくらいだからね、綺麗じゃなきゃ困るよー」


「えっ?! このまま飲んでたの?!」

「確かにこれだけ綺麗だと、十分飲めそう」

「飲んでみようかな?」


「待った待った、この水に慣れていないあなた達が飲んだらお腹壊すかもしれないから?!」


「あ、そうですよね~」

「お腹、鍛えないといけないかな、いざって時の為に」

「いや、魔法で作れるじゃん」


 私たちの場合、水属性のマジカルバリアで飲み水を作れるからねー。やっぱり魔法って便利よね。



 次はCODを測ってみよう! まずはチューブの上部についてる蓋代わりの紐を引っ張り抜く。それからチューブをぎゅっと握って、スポイトの要領で水を吸い込む。


「すぐに転倒混和して……、えっとつまり、4、5回上下を入れ替えるように静かに振って、試薬を溶かすよ」


 後は数分間放置したら、試薬が反応してCODに応じて色が付くわ。結果は……。


「0.5mg/L以下みたいだね? うん、やっぱり綺麗だね」


「えーっと? 基準はどれくらいなの?」

「説明書によると、0が最高にきれい、雨水が1、下水になると10以上の値になるらしいよ」

「つまりこの水は雨よりも綺麗って事だね~」



 それから生き物の調査ね。うーん、サワガ二とかいたらいいのだけど……。


「いたよ!」


「ハルちゃんすご?!」


 いつの間にかハルちゃんがカニを掴んでいた。どうやって捕まえたの?


「その辺の岩をひっくり返したらいるよ」

「ホントだ、私も見つけた」

「あ、私もカニさん見つけた! 痛ったい! 挟まないで、挟まないでぇ~!」


 あらら、ユズちゃんが反撃を喰らっちゃった。カニはこうやって背中を持ったら挟まれないよ。透明な虫かごに入れて、色んな角度から写真をパシャパシャ。


「これでよし。それじゃあ、写真も撮ったしこのカニさんたちは逃がしてあげよっか」


「え、食べないの?!」


「え、食べるの?」


「素揚げにしたら美味しいよ!」


 なんとびっくり、ハルちゃんは食べるつもりだったみたい。ちらっと保護者の方を見ると、コクコクと頷いていた。


「いいわね、生だと寄生虫の心配があるけど、揚げたら食べられるわよ。ビールのつまみになるわね! だからもっと捕まえましょ!」


「やったー」


「それにしても、ハルってば、大人になったわねー。昔は『食べるなんてかわいそう! この子は飼うの!』って言ってたのに」


「あ、あれは子供だったから……! いや、今でも子供だけどさ。ハルは日々成長してるんだよ!」


 それ、成長したんじゃなくて、狩りに慣れただけじゃあ……。いや、何も言うまい。



 午後からはみんなで川へ行く事になった。水着を用意して、それから浮き輪、釣り竿も準備して……うん、ばっちりね!

 川遊びって楽しいよね。例えば浮き輪に乗れば自然の急流すべりを楽しめるし、滝があれば自然のシャワーを楽しめるし。こういうのは海には無い良さだよね~。


「へぇ! いい感じの場所ね!」

「これはなかなか」

「わあ~! 綺麗な場所だね♪」


「でっしょー! それじゃあ浮き輪を膨らませるね!」


 ハルちゃんおススメのスポットがあるとのことでそこへ向かうと、観光名所になっていても不思議じゃないってくらい綺麗な滝があった。高低差は大きくないのだけど横に広いからすごい迫力! まるで白糸の滝のようね。


 その滝つぼはプールみたいになっているわ。しかもそんなに深くはなさそうだから、安心して遊べるわね。


「こっちで釣りをするから、近づかないようにね~」


「「「「はーい」」」」


 私達が泳いで遊ぶ間、ハルちゃんのお母さんとおばあちゃんは釣りをするらしい。その辺に生えていた竹を使って釣竿を作っているから、なんだか風流に見えるわね。針は金属だし、糸はプラスチックだけど。

 あ、引いてる引いてる! お、何か釣れたみたいよ! 今日の晩御飯かな? なんて大人組を見ていると、首筋に冷たい物があたった。


「うひゃ?!」


「命中ー!」

「完璧なエイムだね、ハル」

「うひゃ、だって。可愛い反応~」


 振り返ると水鉄砲を持ったハルちゃん、私に銃口を向けていた。むむむ、良くもやってくれたなー!


「そんなプラスチックの水鉄砲よりも凄いのがこっちにはあるのよ! それー!」


「わわわわわ! なにそれ、面白そう!」


 私が装備しているのは竹筒で作った水鉄砲。ここへ来る前、竹を見つけたから作っておいたのよね。

 見た目は大きな注射器っぽいわね。まず程よい太さの竹を見つけて、ある節から次の節の手前までを切り取って、節に小さな穴を開ければシリンジ部分が完成。ピストン部分は一回り細い竹の枝に要らない布をぐるぐると巻き付けて作るわ。

 ハルちゃんの体目がけて一気に放水! 命中したわ!



 ダンジョンでは四人で協力して攻略するけど、こうして四人で競い合うのも楽しいわね!



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