ハルちゃんの帰省、山菜
「みんなかわいいねぇ~。見ているだけで元気になってくるよ~」
「一緒に歌えばもっと元気になるよ!」
「どうぞ、歌詞カードです」
大成功だね! ハルちゃんの元気が伝わっておばあちゃんが一層若々しくなった気がするね。孫の可愛い姿ってだけでも元気になれるのに、さらに〈
その後はおばあちゃんも巻き込んでみんなで楽しく歌った。いつの間にやら庭先に小鳥が集まってきてリズムに合わせてピヨピヨと鳴き始め、池では蛙がぴょんぴょんと跳ね始める。
「春陽もみんなもありがとね~。今、おばあちゃん、すっごくエネルギーに満ち満ちている気がするわ~」
「おばあちゃんが喜んでくれてよかった!」
ニコッと笑うハルちゃん。天使だ、天使がここにいるぅ……! ロボマネージャーさん、あの笑顔を写真に収めて!!
孫の笑顔程心穏やかになる物はないよね。――なんて、親にすらなった事がない私が言うのもなんだけど。
「ところで、さっきいた鳥とか蛙って……なに?」
「ダンジョンの中じゃないのに、みんな踊ってたよねー!」
「さ、さあ……? ユズちゃん、さっきのみんなの声は聞こえた?」
「聞こえなかったから、普通の生き物だと思うよ~」
「そっか。それじゃあ、ただの不思議現象だね」
よく分からない物はとりあえず「まあゲーム世界だし」って思って納得する。それがこの世界で健やかに生きるコツだよ。
「ただの不思議現象?!」
「なるほど。……っていやいや。それで納得しちゃダメでは?」
「も~リンちゃん! そんな難しく考えちゃだめ、ヒメちゃんがスルーを決めたならスルーしておくべきだよ♪」
「それもそっか」
◆
「そうそう。元気になったところで、一緒に山へ行かないかい? いろんな山菜が生えてるんだよ~」
そう言っておばあちゃんは家の裏手の山を指さした。そう言えば山を私有してるって聞いていたけど、それがあの山なのかしら。結構険しそうね。
「山菜採り? 行くー!」
「是非行きたいです、お願いします」
「お願いします。夏の山菜ってあまりイメージが湧かないけど……」
「お願いしま~す! そうだよね、山菜って春のイメージがあるかも」
「そうだね、一番の旬はって聞かれたら春だねぇ~。ただ、ここは標高が高いから、ちょっと時期が遅くなるのよ。それでも時期が遅めなのは間違いないから、遅れて生えてきた芽を頂く感じになるかな」
なるほど、確かにこっちに来てからちょっと肌寒く感じるわね。尖った枝とかとげのある植物もあるだろうし、この機会に長袖に着替えておこうかな。
「そうだね、かぶれるような植物は生えてないけど、何が悪さするか分かんないからね。みんな、長袖にしようか」
「「「はーい」」」
そっか、かぶれるって心配もあるのね。ウルシみたいな「かぶれる事で有名」な植物じゃなくても、何かの成分が炎症を惹起してアレルギー反応につながるかもしれないわ。山へ行くときは気を付けようね。
――なんだか教育番組みたいになったわね。
◆
「あそこに生えている桃色の花、あれはイワタバコって言って食用だね~。タバコとは無縁だから子供でも食べられるよ」
「あそこの木に巻き付いているツタ、あれはアケビだね。旬は9月だけど、もう取れるのもあるんじゃないかね~? ああ、あれとか食べられるね」
「ここら一体に生えてる広いはっぱを付けてるこの植物、これはフキだね。煮物にしたら美味しいよ」
「ここの川にはミズが生えてるよ。あ、正式名称はウワバミソウだよ~」
すご、おばあちゃんが案内してくれる先々に山菜が生えてる……! まさか探知能力でも持ってるのかな?! そんなスキルがあってもおかしくないよね。
そう思って聞いてみると。
「そんな特殊技能は持ってないよ、『この辺りはこれが生えてる』って事前に調べてるんだよ。それと一部は育ててるわ~」
「そうなんですね。こんな山奥で育てるって、すごく大変そう……」
「育ててるって言っても、ふと気になった時に行って、ちょっと雑草を抜いてあげるくらいしかして無いけどね~。特にイワタバコは繫殖力がそんなに強くないからね、雑草に負けないようにしてやる必要があるんだよ~」
「なるほど」
「っと見えてきたよ~。あそこにウドが生えてるよ。若い芽があれば」
まさに山と共に生きているって感じで、すごくカッコイイね。
ダンジョンから資源を得るのは一方的な利益の享受している感じだけど、ここで営まれているのはお互いが支え合う「共存」って感じで、素敵だなあって思った。
集めてきた山菜は、さっそく今日の晩御飯で食べる事に。だけど、しっかり下準備しないといけないんだって。
「特にフキはしっかりあく抜きしないといけないね~。何度か茹で汁を入れ替えながら、じっくりと茹でるよ」
そうなんだ。ぐつぐつ、ぐつぐつ。
調べてみると、生のフキにはピロリジジンアルカロイドって毒が含まれてるみたい。ピロリジジンアルカロイドは水溶性、つまり水に溶けるから、こうやって灰汁抜きするんだって。
「葉っぱはこれで良し。茎の方は筋を取らないと固くて食べれないんだよ~。こうやって、外側をめくるんだ」
なるほど、内側の柔らかい部分しか食べれないんだ。それじゃあめくってみようかな、それ! ――よし、いい感じ! さけるチーズみたいにぺらってはがせたわね。
「下処理はこれでおしまい。うむ、ちょうどいい時間だね。このままお夕飯にしようかね~」
ダンジョンでドロップする食品はほぼ全部そのまま食べてもOKだから、こういう下処理が必要っていうのは、なんていうか興味深いわね。
それでは、自然の恵みに感謝して――
「「「「いただきます」」」」
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