ホラゲをしよう:ニューゲーム

 早速ゲームを起動する。風の音とヒグラシの鳴き声が再生される中、おどろおどろしい文字で「瘴恨と朱殷の花」とタイトルが表示される。その下にContinue、Load Game、New Gameなどのメニューが表示された。


「コンティニューする? それともニューゲーム?」


 私の問いかけにリンちゃんは一瞬迷った後、「ニューゲームでお願い」と言った。


「りょーかい、それじゃあゲームスタート」


 まずはキャラメイク。まずは素性をさむらい・狩人・かんなぎ・忍者・農民から選ぶみたいね。ざっくり言うとさむらいと狩人は物理攻撃、かんなぎは魔法攻撃、忍者は物理魔法を使い分ける、農民はハードモードって感じらしい。


「どれにする? リンちゃん的なオススメとかある?」


「うーん。私がかんなぎでプレイしてるから、他のも見てみたいかも」


「なるほど。それじゃあ……忍者とか面白そう! どうかな?」


「ハルも忍者、気になってた!」

「使いこなせばスタイリッシュでかっこいいらしいよ」

「良いと思うよ~。ドロンッ♪」


 好評みたいね、それじゃあ素性は忍者で決定。

 次は外見の設定。特にこだわらず、デフォルトのままにしておいた。こういうのは、素人が下手に弄るっても上手くいかないからね。いい感じにできたって思っても、ゲーム画面だとイマイチだったりするし。


「さーて、それじゃあ始めるね」


「おー!」「冒険の始まりだね~♪」


 ハルちゃんとユズちゃんは新しいゲームの開始にワクワクしている。いつまでその笑顔が続くかなあ。

 っと、オープニングムービーが流れ始めた。どれどれ……。


 神秘、れは全ての生命にもたらされる祝福であった。人がれを見出すまでは。

 人々はれを我が物にしようと画策し、儀式を以て神人を生んだ。

 嗚呼ああ、何と烏滸おこがましい事か。変化の寵愛を受けながら、神秘まで手に入れんとするとは。

 おお、力ある者よ。おお、我が代行者よ。

 ゆめゆめ忘れるな、神秘は秘められて初めて輝くのだと。


「……どういう意味?」


 ハルちゃんは口をぽかんと開けながらリンちゃんに尋ねた。リンちゃんは「私も何言ってるかよく分かってない」と答えた。


「ゲームしているうちに、分かってくるんじゃないかな~?」

「なるほど、そういう感じなんだね!」


「いやあ、そうかなあ? たぶんクリアしても訳分かんないまま終わるよ。きっと」


 こういうタイプのゲームって、NPCイベントを完遂して、アイテムの説明文(フレーバーテキスト)を読み込んで、マップ上に散らばっているヒントを全回収して、その上で何時間も考察しないとストーリーが見えてこないのよね。

 時間的にも労力的にも、今回はそこまでやり込むつもりはないから……。最後まで真相は謎のまま終わると思う。


 そう私が説明すると、リンちゃんがコクコクと首を縦に振った。


「ヒメの言う通りだと思う。お父さんに『どういうストーリーなの』って聞いたら、『よく分からなかったが、とりあえずクリアはした』って答えられた」


「「???」」


 ハルちゃんとユズちゃんが首をかしげている。あー、ストーリーが難解なゲームに慣れ親しんで無い人からすると、そういう反応にもなるよねー。


「人生と一緒だよ。最期まで目的が分かんないまま、がむしゃらに前に進むんだよ。ね、ヒメ」


 なるほど~。なるほど?


「ごめん、その例えはよく分かんない……」


「がーん」



 チュートリアルが始まった。ジャンプ、回避、攻撃、防御の方法を習得する。そして最後にはちょっと強めのモブが配置されている。最初は回避に専念して行動パターンを見て、それから反撃タイミングを計っていく。オッケー、討伐完了。


 ジーっという視線を感じる。ハルちゃんがやってみたそうにこちらを見ている。


「ちょっとやってみる?」


「うん!」


 コントローラーをハルちゃんに渡す。ハルちゃんはあまり丁寧に操作を覚えないまま敵に突撃! 「おりゃああー!」と言いながら敵に切りかかるも、見事に反撃を食らってしまった。


「はえ?」


 一度攻撃を食らってしまうと、体勢を崩してしまい、そこから立て直すのは難しい。ましてや操作に慣れていなければなおさらだ。

 ハルちゃんの最初の挑戦は、敵に一撃入れる事も出来ないまま終わってしまう。画面に大きくDEATHと表示される。


「何もできないまま死んだんだけど……。ハル、これ苦手かも……」

「最初はそんなもの。ヒメが上手すぎるだけ」


 この後、しっかりと操作を説明して、どうにかハルちゃんも強モブの撃破に成功する。


「つ、疲れた……。でも、かなり分かった! このまま先へ進んでみる!」


「待って。まだユズがやってない」

「あ、私は遠慮しておくよ~」


 クリアしたことに満足して、ユズちゃんの事を忘れていたハルちゃんをリンちゃんが諫めた。ハルちゃんは「あ、そうだった」と言うようにユズちゃんの方を見るが、ユズちゃんはプレイしないみたい。


「いいの? じゃあ、先に進むね!」


 チュートリアル用の洞窟を抜けると、開けた場所に出た。そこは広大なマップを一望できる高台。これから始まる冒険への期待が高まるわね……!

 プレイしているハルちゃんも横で見ているユズちゃんも、その美しいグラフィックに息をのんでいる。二人は知らないのだろう、綺麗なグラフィックのホラゲー程恐ろしいものは無いと。


 ともあれ、道なりに進んでいると第一村人を発見。ハルちゃんが話しかけに行く。


「こんにちはー! ……え?」


 村人はこちらを見るなり、鎌で襲い掛かってきた! ハルちゃんはびっくりしつつもギリギリ回避。一度攻撃を食らってしまうも、どうにか倒す事が出来た。


「このひと、敵だったんだ……。回復回復っと……ふぇ?」


 第一村人と戦っているうちに別の敵に見つかってしまったようだ。回復薬を飲んでいるところを攻撃され、体勢を立て直す間もなく攻撃の嵐に飲み込まれDEATH

 くっそーと言いながらリベンジするも、今度は何処から飛んできたのか分からない弓に射貫かれてDEATH


「……もうやだ、このゲーム。ヒメちゃん、代わってぇー」


「いいの? それじゃあ」


 村人はジャンプ攻撃でひるむからそれで嵌めて倒す。弓兵の場所を確認し、危険ゾーンに入ったらくねくね動いて弓を回避。敵の集団は煙幕を使って戦闘を回避。

 それでも何度か攻撃を食らってしまい、回復が底を尽き、HPももうギリギリって所でセーブポイントを発見。なかなかキツイね、このゲーム。


「ハルちゃん、リベンジする?」


 ぶるぶると首を横に振るハルちゃん。そして「ハル、やっぱりこのゲームには向いてないみたい」と言った。





◆ 以下、メタに注意 ◆





ヒメ「時間的にも労力的にも、今回はそこまでやり込むつもりはないから……。最後まで真相は謎のまま終わると思う(推測)」


作者「時間的にも労力的にも本品の雰囲気を壊さない為にも、ホラゲ内のストーリーを詳細に描写するつもりはないので、最後まで真相は謎のまま終わる(断言)」



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