レベルアップって気持ちいいよね

 物語世界『姿無き者が望む世界』の中は別ゲームっぽい仕様だった! ここでは独自のステータスシステムが採用されているから、【アイドル】の魔法は一切使えなくなるし、レベルも0から上げていく必要があるわ。


 さて、まず私達は町をぶらついて世界観を把握することにした。MMOゲームなら、他のプレイヤーに狩りつくされる前にレベル上げしに行くだろうけど、物語世界ならそんな心配はない。この世界にいる「プレイヤー」は私達だけだから。


 まず見て回るのは、スポーン地点である広場。ここでは沢山の屋台が開かれているわ。


『いらっしゃいませ~! 美味しいパンが焼けてるよ~』

『新鮮なお野菜~! お野菜はいりませんか~?』

『くしや~きいも~♪ おにく~。ジューシーな串焼き芋はいかがですにゃ~?』


 NPCの皆さんの年齢・種族はバラエティーに富んでいる。パンを売っている女の子は子悪魔のようで、背中の翼をパタパタと動かしながら、尻尾をフリフリしている。とっても可愛いけど、口調が普通の女の子なのは残念ね。どうせ小悪魔コスをするなら、ドSな感じでやってくれないと!


 野菜を売っているのは爬虫類顔の……男性? いや女性? 竜人の性別って分かりにくいね。

 いや、そもそもこの世界の住人に性別はないよね。だってこの世界に住む人々は、キャラメイク次第でどんな姿にもなれるのだから。


 串焼き芋を売っているのは猫さん。ネコミミとか猫の獣人ではなく、猫そのものが串焼き芋を焼いている。


「良い匂いね。けどあれって何なんだろ?」


 私は串焼き芋の方を見ながらつぶやく。一応言っておくと、ゲーム版ではこんなの無かったから、これは本心からくる疑問だよ。


「匂いは串焼きだよね?」

「でも見た目はどう見ても芋」

「謎の食材だね~♪」


 後で必ず買いに来よう。そう思った。


 後にこれは、動物性のたんぱく質を蓄えるように遺伝子組み換えされたサツマイモであると発覚した。猫さん曰く『別の世界から来た人間が置いていったにゃ~』らしい。どんな世界から来た人なんだろ?



 広場を後にして、市街地へと入って行く。ウィンドウショッピングできる場所があったのでそこを散歩する事に。


「おおー、剣がいっぱい売ってる! かっこいいー!」

「あれって魔道具屋さんかな? 一つ欲しい……!」

「これはオルゴールかな? とっても綺麗な音色だね~」


 現実世界でも武器屋はあるけど、売買には制限があるらしいわ。詳しくは知らないけど。そんな訳で、こんな風に服を売るようなノリでショーウィンドウに武器を並べてあるのは新鮮に感じる。


 リンちゃんが目を輝かせてみている魔道具屋では、中二心くすぐられるアイテムがいろいろ売っていた。中央でエネルギー的な物が光っている真鍮しんちゅう製の天球儀とか、重力に逆らうように流れる水時計とか。

 店員さんに聞くと、ただのインテリアであり特に効果はないらしい。そっか……。そっかあ……。


「ちなみにおいくらで……5万GCか。なるほど、ここってミニゲーム扱いなんだ」


 値札を見ながらリンちゃんがそう言った。……待って、今とっても重要な事を言わなかった?


「え、そうなの?! ここってミニゲームなの?」


「あれ、ヒメも知らなかったんだ。そうらしいよ」


 え、ホントに?! この場所の通貨ってゲームコインなの?! じゃあ、ここでかなり稼げるじゃない!

 ひょっとしたら、高校卒業までにマイホームを購入できるかもしれないわね!


 オルゴール屋さんは普通(?)だった。ネジを巻いたり電池を入れたりしなくても回るらしいけど、まあこれくらい普通の範疇だね。(←感覚が麻痺している)



 一通り町の中は探索し終わったので、次はいよいよ町の外バトルフィールドへ。弱い魔物しか出ないらしい「東の草原」へとやってきた。


「記念すべき最初のモンスターは、やっぱりスライムかな?」

「そうじゃない?」

「でも私、町でスライム娘を見かけたよ?」


「いい着眼点ね、ユズちゃん! そうなの、この世界って色んな種族の人がいるから、魔物の形態が限定されちゃうんだよね」


 例えばミノタウロスを例にとってみると、私たちからすれば「二足歩行のお肉!」としか思わない(?)けど、獣人からすれば「仲間だ!」って思うよね。

 他にも、例えばさっき小悪魔がパン屋をしてたけど、そうなると魔族的な存在も人間サイド扱いになるわよね。


 じゃあ、後は何が残ってる? その答えがアレ!


 ――ぽよんぽよん


「わあ! レタスが跳ねてる!」

「なるほど、そう来たか……」

「植物形態の魔物なんだね!」


 私たちの前をぽよんぽよんと跳ねているのは、スライムっぽい挙動をするレタス。流石ダンジョンアイドルの世界、理解が追い付かない。私、人生で初めて「レタス」って主語に「跳ねる」って動詞を使ったわ。


 あ、レタスと目が合った。向こうに目はないけど、なんとなくこっちを見ている気がするわ。あ、レタスの頭上にHPバーが表示されたわ。アクティブ化した証拠ね。

 しばらくじーっと見つめ合っていた私達。先に動いたのはレタスの方だった!


 ――ぽよよん!


 ジャンプしたわ! レタスが高く高く飛び上がったわ……!


「おっと」


 ――ぽよよん?!


 私たちがすっと横にずれると、レタスはそのまま地面と激突した。ごろーんと寝転がったレタスの頭上で星マークがくるくると回っている。


「スタンしたわ! 攻撃チャンス!」


「〈マジカ……は使えないから、えっと」

「頭上に星マークが出るって……。ホントにゲームみたい」

「〈ノーツバースト〉だっけ~? あ!」


 ユズちゃんのつぶやきに反応して、音符が発射された。ペシンとレタスに命中し、HPが1/4ほど削れる。


「全員一発ずつ当てるわよ! 〈ノーツバースト〉」


「「〈ノーツバースト〉」」


 ユズちゃんに続いてハルちゃんとリンちゃん、そして私も〈ノーツバースト〉を発射する。攻撃を食らったレタスはギュイイイ……という鳴き声(?)を上げながらポリゴン化して宙に消えていく。ドロップアイテムは……なさそうね。残念。


〔テッテレー♪ ヒメはレベルが上がった!〕

〔魔力が回復した!〕


【 ヒメ 】

Class:歌姫

Lv:0→1

HP:110/110(10↑)

MP:110/110(10↑)


 やったー。レベルが上がったわ! 元々レベル0だったからね、レタス一匹の経験値でもレベルが上がったみたい。


「こんな風に、レベルアップを実感できるのっていいよね」


 そうつぶやく私に、三人は頷いた。




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