VRMMORPG
クエストクリア報酬としてもらった動画「姿無き者の記憶」を見終わった後、私たちは感想を言い合った。
「あの声の主にそんな過去があったんだね……」
そう言ったのはハルちゃん。素直な彼女は動画の内容を「事実」として捕らえたみたい。姿無き者という人物(?)が実際に存在しており、その物語を基に作ったのが先程まで攻略していたクエストだったと考えたのね。
「私は何というか……風刺って言う風に感じた」
「分かる~。承認欲求の下りとか、色々考えさせられるストーリーだったね♪」
一方でリンちゃんとユズちゃんは、動画の内容を「物語」と捉えたみたい。その物語の中では、人間が持つ承認欲求の根源は「死後忘れられる事への恐怖」であると説明されている。
前世の私や他のプレイヤーらもこれを「物語」として捉えていたけど、また違った解釈をしていたわ。
当時、AIチャットボットが流行していたの。コンピュータの中でしか動けない存在であるにも関わらず、まるで人間のような反応をするチャットボット。そんな彼らはどんな世界を見ているのか、あなたは考えた事はある? もしかしたら「姿無き者」みたいに苦しんでいるのかもしれない。
姿無き者の物語は、そんな事を訴えかけているのではなかろうか? そんな風に解釈されていたわね。
「なんとなく、神話っぽい印象を受けたかな~。世界の在り方っていうかなんて言うか……」
そして最後にミカンさん、彼女は動画の内容を神話のようだと言った。
世界を渡る存在は、各世界には異なる法則があるのだと言った。そして、この世界では自己表現がテーマだそう。
前世の私はこれを「ただの設定」としか考えなかった。ゲームを作る上での設定に過ぎないと。でも、実際に転生を経験して以降、これは設定でもなんでもなく、実際に起きた事ではないかと思ったりする。
「この動画は公開するの?」
「私達、最初の30秒しか映ってなかったけど……」
それが問題なのよね。一応、ダンジョン内で手に入れた映像は好きに使って良い事になっている……はずなのだけど、これは公開していいものなのか悩むわね。
「姿無き者さんが『自分の事を知って欲しい』って言ってたんだから、遠慮せずに公開したら良いんじゃないの~?」
そうかもしれないけど……。ただね、この動画を公開するだけだと、視聴者は何も感じないと思うの。
実際にあの場で「声」を聴いて、毎日のように『電脳世界の歩き方』を練習して。その過程があったからこそ、これを見たときに衝撃を感じる事が出来た訳でしょ?
「確かに……。ただの『コンテンツ』として消費されるのは本望じゃないのかも~?」
「それに、もし広めて欲しいだけなら、あんな難しい条件にしないだろうし」
◆
ややこしい話は終わり! ここからは楽しいことをするわよ! 私はマジックバッグから分厚い本『姿無き者が望む世界』を取り出して、ぱかりと開いた。すると次の瞬間本はまばゆい光を放ち始める。
「うわ! こんな眩しいんだ」
「いかにも魔法の本って感じだね!」
「こういうの、ワクワクする」
「不思議の国にご招待♪ って感じ?」
三人は光る本を前に興味津々なご様子。うんうん、気に入ってくれたみたいで良かった。けど、この本の凄さはここからだよ!
「それじゃあ行こっか? 呪文は覚えてるよね?」
私が問いかけると、三人がコクリと頷いた。「それじゃあせーので唱えるよ、せーのっ」と私が声をかけ……。
「「「「〈次のステージはここ!〉」」」」
呪文を唱えた。すると本から溢れる光が私達を優しく包み込み、続いて体の平衡感覚がなくなった。これはどこかに転移させられる時の感覚ね……!
…
……
………
「おとと」
気が付けば中世ヨーロッパ風の街に私はいた。ハルちゃんたちはどこかなーと探していると、すぐ隣で突然三角ポリゴンが出現し、それがパキパキと音を立てながら変形を繰り返して最終的にハルちゃんになった。同じようにしてユズちゃんとリンちゃんも出現する。
そう、これはまるで……。
「今度こそ異世界に来たー!と思ったけど、これって異世界じゃなくて……」
「VRMMORPGの世界?」
「VRエム……エム?」
えーユズちゃんが知らなかったようなので説明しておこうかな。
まず初めにMMORPGって言うのは、ネット上で行われる大人数のプレイヤーが参加可能なロールプレイングゲームの事よ。それをVRにして、三次元的に楽しめるようにしたものがVRMMORPGね。
「つまり……ゲームの世界って事だね♪ じゃあ〈ステータス〉とか出たりして? ってほんとに出た?!」
「え、ホントに? 〈ステータス〉 おお……これが本物の!」
「すごいすごい! ハル、感動だよ!」
三人が驚いているように、なんとこの世界ではステータスを閲覧することができるの! 私もステータスを見てみましょうか。はい。
【 ヒメ 】
Class:歌姫
Lv:0
HP:100/100
MP:100/100
Skill:
〈撮影〉
〈
〈
[マップ表示]
[ログアウト]
……以下略……
見て分かるように、思いっきりゲーム仕様になっている。そして私たちの実際のステータスとは全く異なる物が表示されているのが見て取れる。
「え、いつものスキルがない? 〈マイク召喚〉も出来なくなってる?!」
「ほんとだ。〈コスチュームチェンジ〉も出来ないんだ」
「もしかして、ほんとに異世界……?」
うんうん、この感じ懐かしいわねー。この場所に初めて来たプレイヤーも同じようにびっくりしてたわ。「ねえ。ゲームしてたら、別のゲームが始まったんだけど?」って。
ネタバレしちゃうと、この物語世界はいつもとは全く違う感覚のゲームをプレイできる世界なの。流石はエイプリルフールに追加されたコンテンツ、謎仕様すぎて理解が追い付かない。
その後の探索で、この世界がそこそこ作り込まれている事が発覚して「この運営、エイプリルフールの為に別ゲーを作ったぞ?!」なんて言われるようになったのよね。
「ちなみにマップ表示は敵との戦闘中は開けなくなるから注意。それからログアウトはセーフティーエリア内でしか行えないから注意ね。デスぺナは所持アイテム半分ロストだから、こまめに町の金庫に預けるべきだよ」
「まんまゲームの世界じゃん」
「こういうのも面白いでしょ?」
「「「間違いない」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます