跳ねて15分
「これは……結構キツイね」
私はミカンさんが出力してくれた衣装のレシピを見て、唸っていた。三人は、ミカンさんも合わせて四人はよく分かっていなさそうなので、少し詳しく説明していく。
「例えばこの『虹色蛍石』っていうアイテム、これは431から435層の迷いの森じゃないとドロップしないし、こっちの『リバイアサン(偽)の眼球』なんて860層のボスよ?」
「どっちも必須素材だよね……」
「あ、エフェクトがない服なら、その二つは要らないみたいだよ~」
一番簡単に手に入るエフェクト「キラキラエフェクト」でもこれだ。もっと凝ったエフェクトにするなら、さらに色々な追加素材が必要になるらしい。
ゲームと違って入手条件が厳しいなあ……。現実だと、課金さえすれば手に入るのに。
「リバイアサン(偽)が860層のボスなら、本物はいったい……?」
リンちゃんが良い事に気が付いた。そう、860層のボスでさえ偽物なのよね。本物は別の場所で合う事が出来る。
「本物はとある場所にある宝箱から入手できる〔大乱闘神話生物戦記〕の中に登場するわ」
「某有名ゲームみたいなタイトルの本だね!」
「そこはかとないB級映画感がする」
「本の中かあ~」
「実際に出てきて、戦う訳じゃないんだね~」
えっと、何を言ってるんだろ……? 私は〔大乱闘神話生物戦記〕の中に登場するって……。
ああ、そっか。こんな言い方をすると、物語に登場するって思っちゃうよね。
「あ、そうではなく。ダンジョンで手に入る本は開くとその世界へ行けるんですよ。だからただ物語に登場するって訳じゃなくて、実際に戦う事が出来ますよ。ダンジョン外に持ちだせる特殊階層……と言ったら分かりやすいかな」
「こっわ!」
「それ、知らない人が開いたら大変な事になるんじゃあ」
「いや、適正レベルに達していないと本を開く事すらできない仕様のはず。そして本を指さしながら〈次のステージはここ!〉って呪文を唱えないと物語世界には入れないの。だから、事故で物語の世界に閉じ込められる事は無いよ」
万が一物語世界に迷い込んだとしても、その中で死ねば元の世界に戻ってこれるわ。安心設計ね!
「ほえ~、それ楽しそうだね♪」
「実際、行ってきた子がインタビューで『海外旅行みたいで楽しかった』って言ってたよ。いつか私達も行きたいね!」
※当然、ゲーム内のキャラの発言である
◆
「あ、前に言ってた透明化機能は必要素材が違うよ~。『姿無き者の外套』だって、どうかな?」
「げ、やっぱりあるんだ……」
姿無き者の外套。それは追尾式の攻撃を無効化できるというぶっ壊れ性能の装備品兼素材であり、ゲームのキャラは「これを着たら、声をかけられずに町を歩ける!」と言っていたアイテムである。
ぶっ壊れ性能なだけあって、入手がものすごく面倒なのよね。いつか手に入れたいと思いつつも「まあ、後ででいいか」と後回しにしちゃうような。
「ヒメ、苦虫を嚙み潰したような顔してる」
「【アイドル】がそんな顔したら駄目だよ~」
リンちゃんとユズちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「え、私そんな変な顔してた? ごめんごめん」
「やっぱり入手は難しいの?」
「うん。今からでもチャレンジは出来るけど、まず間違いなく失敗するかと。でも、どうせいつかは取りたいアイテムだし、この機会に行っておこうか……」
「チャレンジは出来るの? じゃあ、やってみようよ!」
「諦めたらそこで……」
「それ以上はダメだよ~」
そうよね、チャレンジする前から諦めるのはダメよね。行くか……。行くかああぁぁぁ。いや、でもなああぁぁ。うーん、行くか!
「という訳でやってきたのは15層!」
「懐かしー!」
「てい。デコピンで倒せた」
最近はこんな低層にはほとんど来てなかったからね、すっごく懐かしいわ~。
あ、一応言っておくけどリンちゃんはデコピンだけで倒したわけじゃないからね。雷魔法をまとわせてたから倒せただけだよ。
「この辺りに兎さんの親子がいるはずなんだけど……。あ、いた!」
ぴょこぴょこと耳を動かしている兎さんが二匹、岩の陰で休んでいた。
「ユズちゃん、お話を聞いてみて」
「うん。えーっと、『前に学校で見た演劇、とっても良かったピョン! また見たいピョン!』『それじゃあ、見に行ってみるー? ここから15分ほど西へ跳ねたところに、劇場があるのよー』『行ってみたいピョン!』だって!」
「うさぎさんにも学校があるの?!」
「歩いて15分じゃなくて、跳ねて15分なんだ」
「兎さんだもんね~」
そう、跳ねて15分なの! こういうちょっとした言葉選びが可愛いよね。
さて、このセリフを聞いた後に西へ向かっていくと、あら不思議。地面に穴が開いているではありませんか。しかもご丁寧に「劇場はこちら→」って書かれた看板も立っている。こんな看板もさっきまでは無かったのに!!
不思議だなー(棒)
「この中に劇場があるんだね!」
「狭そうだけど……入れるの? ってハル?!」
「ハルちゃん待ってぇ~」
「わ、凄いよ! みんなも早くきて!!」
おっと、ハルちゃんが先に行っちゃった。私達も穴の中へレッツゴー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます