アイドルサポーターを試す

 ミカンさんが【アイドルサポーター】に昇進した。これでミカンさんはアイドル用の衣装を作れるようになり、同時に縫える魔法陣の種類が一気に増えたはず!


「わあ~、いっぱいスキルを貰えたよ♪」


「ほうほう!」


 ジョブが変わったときは使えるスキルが一気に増えるからね。ミカンさんのワクワクする気持ちがこっちまで伝わってきた。


「早速使ってみていい?」


「もちろんです」


「それじゃあ使うね。〈コスチュームエディタ、ブート〉」


 ブートってBoot起動するのことかな。コスチュームエディタって言うのが起動するのだろうか。

 そう考えていると私の足元で何かが輝き始めた。目線を下に向けると、そこに魔法陣が描かれている事が分かる。あれ? ミカンさんはもちろん、他三人の足元にも魔法陣が出来ているわね。


 そして浮遊感というか回転するように感じた。あーこの感覚はあれね。どこかに転移させられるわね。ダンジョンへ入る時やGCショップへ行くときも同じようなに感じるから。


「ふえ~?」


 この中で唯一転移に慣れていないミカンさんは困惑顔でキョロキョロしていた。新鮮な反応、ありがとうございます!


……

………


 はい到着、ここはどこか……な?!!


「嘘?! ここって『試着室』じゃない! え、これもあるの! マジで、マジで?!」


「ヒメちゃん、どうしたの?」

「ヒメが珍しくびっくりしてる」

「試着室って言ってたね~。ってわわわ! お姉ちゃん大丈夫?」


「きゅ、急に目の前がぐにゃあってなって……びっくりして腰が抜けちゃった~」


「最初はびっくりしますよねー」

「転移酔いって奴ですね」

「すぐ慣れると思うよ~」



 私達が転移させられたのは、服屋さんとダンススタジオがくっついたような場所だった。服屋さんと思われるスペースには色々な布や衣装が飾っていて、ダンススタジオっぽい場所には正面と横に大きな鏡があって自分を360度観察出来るようになっている。


 そしてこの場所に私は見覚えがあった。これはゲームで「試着室」と呼ばれていた場所なの!!


 前に説明した通り、ゲーム『ダンジョンはアイドルのステージよ』において衣装を入手するには、なんらかの条件があった。

 その解放条件が無料で揃うならいいのだけど、有償アイテムが必要な場合もある訳で。そういう場合「実際に買う前に、キャラに着せてみたい」と思う事があるわよね。

 そこで使うのが「試着室」なの。解放済みかそうでないかに関わらず、服を着せてみる事が出来る。それで「いいじゃん、これを着せて攻略したい」と思えば購入するし、気に入らなければ別のを探すって訳ね。


 リアルとなった今、課金要素なんて無いわけで、試着室機能は無いと思っていたのだけど。まさかこんな形で存在していただなんて!


「ヒメちゃんー! おーい!」

「どうしたの?」

「知っている場所なの~?」


 三人の声が聞こえて私の意識が現実に戻された。やっばぁー、なんて誤魔化せばいいかな……。


「あ、ごめん。ついつい。えーっと、知っているというかなんというか。この場所と似た場所を知っていた物だから」


「なるほど、そういう事あるよね!」

「デジャブってやつだね」

「始めてきた場所なのに、何故か見覚えがあるってことだよね~」


 どうにか誤魔化せた……いや誤魔化せてない?

 まあいいや、それでこの場所はどうやって使えばいいのかしら? ミカンさん、分かります?


「ちょっと待ってね~。えっとここにメニュー画面が見えてるんだけど、これを操作すればいいのかな?」


 そう言ってミカンさんが何もない空中を指さす。あーそれはミカンさんにしか見えてないウィンドウみたいだね。私達には見えてないという事を説明する。


「そうなの? それじゃあ、私が頑張らないと! えっとえっと、ここからプリセットを選んで……。これで良いのかな? 〈アプライ〉」


 ミカンさんが空中に表示されているであろうウィンドウをポチポチと操作する。そして、〈アプライ〉と言った瞬間にそれは起こった。


「あ、服が!」

「変わった」

「可愛い服だね~」


 突然私たちの衣装が変化した! それはいつも着ている魔法少女服よりもシンプルな、何の飾りもついていないコスチュームだった。

 さっきミカンさんが「プリセット」って呟いていたし、これをベースに色々と飾り付けしていく感じなのかな?


 あ、ちなみに。服は一瞬で切り替わったからエッな事にはなっていないのでご安心ください。


「わあ、凄い! このままちょっと試すね~。〈エフェクトエディタ、オープン〉それで……はい! 〈アプライ〉」


 引き続きミカンさんが何やら操作すると、服の周りにハートマークがふわふわ浮きながら表示されるようになった。


「最後に〈レシピ、エクスポート〉。えっと『布素材』『糸素材』『魔法素材』が必要と。うん、大体わかった♪」



 それからもいくつか検証を行って、その後ミカンさんが〈コスチュームエディタ、シャットダウン〉と言うと現実世界へと戻ってくることが出来た。時計を確認すると、内部で過ごした時間分時計の針が進んでいた。

 時間が止まってるなら、夏休み延長作戦を計画していたのに。そう都合のいい話はないみたいね。


「それでミカンさん、さっきの部屋の使い方を改めて私たちに説明して頂けますか?」


「は~い。まずさっきの部屋はヒメちゃんが言ったように『試着室』の役割があるみたい。実際に服を作り始める前に、衣装を試す事が出来るんだね♪」


「つまり、さっきまで来ていた服は完成予想図であると?」


「そういう事! 微調整を重ねて、確定版の衣装デザインが出来たら〈レシピ、エクスポート〉を使うの。そしたら、こんな風に服を作るのに必要な物品のリストが出てくるみたいだよ~」


 そう言ってミカンさんは一枚の紙を私たちに見せた。あ、羊皮紙だ……! かっこいいなあ。それ、契約書の時にも使ってよぅ。

 それはともかく、中身を読ませていただこう。ふむふむ、なるほど。そこにリストアップされていたのは多種多様な素材。全部ダンジョンでドロップする物ね。


「これを集めてきたらいい訳ですね?」


「そうだね~。これが全部集まったら、あとは私が切ったり縫ったりしたら完成するみたいだよ」


 なるほどなるほど。レシピに載っているドロップアイテムを集めるだなんて、如何にもゲーム世界らしいシステムね!



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