アイドルサポーターになる
「お姉ちゃんのレベル、カンストしたみたい〜」
水族館デートから数日経ったある日、ユズちゃんからそんな報告を受けた。ようやくね!
「やった、これで衣装のカスタマイズ出来るね!」
「わー(パチパチ) 不思議衣装、楽しみだね!」
「だね。どこまで実現可能で、どんな風に出来上がるのか気になる」
改めて説明しておくと、ゲームの時は衣装リストが用意されてて条件を満たすことで衣装を開放できるシステムだったの。
例えば主人公たちが「ハロウィン衣装を作ろう!」って話すストーリーを開放&既読することでハロウィン衣装がアンロックされる、みたいな感じね。他にも課金で開放される衣装もあったわね。
要はプレイヤーが衣装をデザインする事は出来なかったのよね。ゲームである以上これは仕方がないことよね。カスタマイズ機能なんて入れようものなら、バグの温床になることは目に見えている。
そんな訳で、衣装製作の詳しい流れはほとんど不明なのよね。どうなるのかなあ。
「えっと、あとはヒメちゃんがスキル〈サポーター指名〉を使えばいいんだよね?」
「その……はず。何が起こるのか、その過程で何が必要かは全く知らないけど……」
私がスキルを使ったら強制的に相手を【アイドルサポーター】になる……って訳にはいかないよね。これはミカンさんにとって命運を分ける大きな決断だもの、互いの合意がしっかり取れていないといけないわ。
「スキルを使ったら、契約書でも出てくるのかしら?」
「魔法での契約……。それ、かっこいいね」
「確かに!」
契約者同士を囲うように魔法陣が出てきて、羊皮紙にサインする……みたいな感じかしら。なんだかちょっと楽しみになってきた。さっそく今からミカンさんに会いに行こう。
四人でユズちゃんの家に行く。リビングに入るとライムちゃんが何か白いものに抱き着いていた。よく見るとそれはずんぐりむっくりした鳥だった。……え?
「ライチョウさん?!」
「捕まってるー!」
「なんでここに?」
びっくりして思わず大声を出してしまった。そんな私たちに、ライムちゃんは「え、私何かやっちゃいましたか?」みたいな顔を向けてきた。
「違うよ~。あれはお姉ちゃんが作ったぬいぐるみだよ♪」
「へ?」
「そうなの?! そっくり!」
「すごい。ミカンさん、ぬいぐるみも作れたんだ」
「最近、指先が器用になったのか、かなり複雑な物も作れるようになったんだって!」
なるほど、レベルが上がって器用のパラメータがグンと伸びたからね。ミカンさんは生産職だから回復力、攻撃力、防御力、持久力などが初期値からほとんど変化しない分、器用に関するパラメータがどんどん成長する。
その結果がこのぬいぐるみなのだろう。
「さわってみる~?」
私がじろじろ見ていたのを、触りたがっているのだと解釈したのだろう。ライムちゃんが私にライチョウさんぬいぐるみを手渡してきた。
なんていい子……! きっと将来は慈愛に満ち溢れた天使のように育つわね!
「いいの? ありがとね。うわあ、これほんともっふもふ!」
これはすごい。柔らかさ、触り心地、弾力、全てがライチョウさんご本人にそっくりである。思わず「ほんとにぬいぐるみなの?」と思ってじっとお顔を眺めてしまった。目とかくちばしが布で出来ていたから、ご本人ではないと分かった。
「ハルも触ってみたい! ライムちゃん、いい?」
「うん、いいよ~」
ライムちゃんの許可がが下りたので、ハルちゃんは、そしてリンちゃんもぬいぐるみを受け取って触り始めた。
「これすごい……!」
「すっごい触り心地が良いね」
「あはは~。気に入ってくれたみたいで良かった♪ 作った甲斐があったよ~」
私たちがぬいぐるみをもふもふしていると、ミカンさんが近づいてきた。すごいですね、これ! 一瞬本物かと思ってしまいました!
「そうなの! こんなのを作りたいなって思ったら、その設計図が頭の中にふっと浮かぶの。自分でもびっくりだよ~」
「すごいですね……。それじゃあ次は私たちの衣装をお願いします!」
「頑張っちゃうよ~。ここでするのもなんだし、私の部屋へ移動しよっか?」
◆
「それじゃあ改めて。ミカンさん、私たちの事を支えてください」
「うん、頑張るね~」
命運を分ける大きな決断のはずなのにこの余裕。流石ミカンさん、おおらかを具現化したようなお姉さんね!
「それでは行きます――〈サポーター指名〉」
さて何が起こる? 魔法陣が出てくるの? 羊皮紙にサインするの?
〔サポーター申請を『美柑』に送信します〕
〔契約内容を表示します。確認の上、〈 OK 〉か〈 Cancel 〉を選択ください〕
目の前にウィンドウが現れた。……あれ、これだけ? もっとこう、何か演出とか無いの?
これじゃあまるで、ソフトウェアの利用規約じゃん! 誰も読まない奴じゃん!
※みなさんはちゃんと読みましょう
「あ、何かメッセージが届いたよ~。オッケーを押せばいいんだよね?」
「えっと、念のためにしっかり読んでおいた方が良いかと……!」
「そう~? ……とっても長いね」
「……ですね」
元社会人としてこういうのはしっかり読んでおこうと思う。えーっと、まあ既に説明してある通りの事しか書いてないね。「ミカンさんは今後、私が特別にお願いしない限り他のアイドルユニットの服を作れなくなる」とか「どちらかがジョブをリセットした場合、契約が解消される」などなど。
「特に変な事も書いてなかったですね」
「だね~。それじゃあ……」
「「〈 OK 〉」」
〔サポーター申請が受諾されました〕
〔『美柑』が【アイドルサポーター】に昇進します〕
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