水族館デート、Part 5

 お昼ご飯を食べ終わった私たちは、次に「日本の渓流エリア」って所を見て回ることにした。その名の通り、綺麗な川で生息しているような生き物が展示されているみたい。


 展示エリアには小さなせせらぎが流れていて、サラサラと心地のいい音を立てていた。


「こうやって綺麗な水の音を楽しみながら生態系の勉強を出来るって、なかなかいい展示ね」


「だね。将来はせせらぎのある家に住みたい」

「地上に作るとなると大変だろうけど、マイホーム内ならいけそうだね~」


 と私たちがちょっとズレた視点で展示品を見ている中、ハルちゃんが一つの水槽にトテトテと駆け寄って行った。


「見てみてー! アカザがいる!」


 ハルちゃんに呼ばれて私たちは移動する。これは……なに? 見たこともない魚がそこにいた。アカザって名前なんだ。


「あ、すごい。赤っぽい色なんだね」

「ひげが生えてる。ナマズの一種?」

「面白い顔~」


「リンちゃん正解! そう、この子はナマズの一種で、日本にしかいない珍しい魚なんだ! 絶滅危惧種にも指定されてて、貴重な魚なんだよ」


 そんな貴重な魚だったんだ! 初めましてアカザさん。よろしくねー。


「って、ハルちゃん詳しいね?!」


「うん! まだ小学生くらいの時に捕まえた事があるんだー。その時、背びれの毒針に刺されちゃって、ちょっと印象に残ってて」


 まさかの発言に私たちは「え?」と言う顔でハルちゃんを見つめた。このナマズさん、どこかマヌケで可愛いらしい顔をしておきながら、毒なんて持ってるの?


「え?! 刺されたってそれ大丈夫だったの?」


「ちょっと痛かったけど、平気だった!」


「そっか、よかった……」

「それはなんというか、貴重な体験だったね」

「どこで捕まえたの~?」


「あはは、今から思い返せばいい思い出だよー。えっとね、確かおばあちゃんの横の用水路で捕まえたんだ!」


「なるほど」

「え? 渓流にしかいないって説明されてるけど、用水路にいたの?」

「誰かが捨てた……とか?」


「あ、用水路って言ったら汚いのを想像するよねー。そうじゃなくて、すっごく綺麗な用水路。おばあちゃんの家、すっっっっごく田舎にあるから!」


 ああ、都会のあまり綺麗じゃない用水路を想像しちゃったけど、そうじゃないのね。

 用水路が渓流並みに綺麗な場所かあ。アニメでしか見ないような世界ね……。いつか行ってみたいわね。



 アカザの水槽を後にして、隣にあった水槽を覗き込む。この水槽は……あれ、何も入っていない?


「ここにいた! ほら、砂の中から顔だけ出してるよ~」


 ユズちゃんが指さす方を見ると確かに何かが砂の中から顔をのぞかせていた。


「これは、えーっと。なるほど、日本ウナギの水槽なのね」


 ウナギの寝床なんてことわざがあるように、ウナギは狭い場所を好むことで知られている。こうして砂の中に潜ることもあるのね。


「これがかの有名な日本ウナギ!」

「美味しい奴だ」

「高級だよね~」


 狙っていたのか偶然なのかは分からないけど、また毒を持つ魚ね。


「ウナギには血液と粘膜に毒があるのよね」


「だから刺身が一般的ではないんだよね?」


「そそ。まあ、食中毒の正式な記録は無いらしいし、食べようと思えば一応食べられるらしいけど」


 あんなに美味しいウナギに毒があるって不思議だよねー。あ、焼けば無毒になるから安心してね!


「にしても動かないね……」


 せっかくなら動き回ってるところを視たかったのに、このウナギは微動だにせず動く気配がない。少し残念。


「夜行性らしいよ」

「ホントだ、ウナギさんは夜型なんだね~」


「夜型って、人間じゃないん……だから……」


 ダメ、ウナギが深夜までゲームをしている様子が思い浮かんじゃって、思わず笑ってしまった。


「ゲーム中毒のウナギ……。それはそれで可愛いね!」

「でも、ダンジョンで生きてるウナギならそのくらいしてそう」


 ゲーム三昧のウナギかあ……。なんか、あまり美味しく無さそう(←ド偏見)





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る