水族館デート、Part 2
シルバーアロワナは主にアマゾン川とその周辺の河川に生息する、体長一メートルほどの大きさになる巨大な魚らしい。
その水槽の前で小学生くらいの子が「わあ、おっきいさかなー!」とはしゃいでいる様子を、少し離れたところから私たちは見ていた。
「なんでだろ。ハルもついこの間までああいう巨大魚とかそういうのが好きだったのに、今は感動しない……」
「へえ、ハルちゃんたくましいね♪ 私が小学生の頃は怖がってたよ~」
「へえ、ユズって大きな生き物とか苦手だったんだ」
「え? もしかしてユズちゃん、ダンジョンも結構無理してる……?」
ニコニコしながら着いてきてくれてたけど、実はかなり怖かったのかも。ダンジョンの魔物なんてもっと大きくて怖いし。リュウオウとか。
「そんなことないよ~。こういうのが苦手だったのは小学生の頃だよ~。今はこんなの全然怖くないよ!」
「そっか、それならよかった。ゲーミングガーとか、この3倍はあったから……」
あれはほんとに大きかったわね~。
そういえば、実はまだお肉を食べきれてないのよね。久々にお料理動画でも挙げてみようかしら?
「! ヒメちゃん、それだよ!」
突然ハルちゃんが大きな声で私の方を指さした。ど、どうしたの? 取り敢えず……。
「ハルちゃん、シー! 大声を出しちゃダメ!」
公共の場で大声を出すのはいけません!
「あ、ごめんなさい。ともかく、それだよ! ハルがアロワナさんに感動しなくなった理由、それはゲーミングガーのせいで感覚が麻痺しちゃったからだよ!」
「なるほど。それは確かに」
「言われてみればそうかも~」
ええ? そうなの、
いや、それは私がこの世界のダンジョンをゲームって考えているせい? 生まれたときからダンジョンのある社会で生きていると、ダンジョンの魔物と地上の動物を同じ土俵で比較しちゃうのかしら?
「そう言われると、入り口のクジラの骨格標本が小さく見えたのも同じかもね~。だって私達、もっと大きさな魚を見たことがあるよね♪」
「タイパニック号のラスボスの、えーっと名前は忘れた」
「懐かしー! おっきかったよね!!」
「ああ、『サカナ王国の王・タイ=マンイータ=サカナ』ね。確かにアレは、全長50メートルはあるわね」
クジラの全長はせいぜい10~20メートルくらいだから、タイ=マンイータはその3倍近くあることになる。
重さって意味ではもっと差があるよね。つまり、クジラは細長い体型だけど、タイ=マンイータは私たちがよく見る普通の鯛をそのまま拡大したような体型だから、タイ=マンイータの方が圧倒的に重い事は言うまでもない。
「電気ウナギもそうだよ! 癒しのもふもふバードことライチョウさんも雷魔法を使うし!」
「なんなら私たち自身も雷魔法を使えるよね」
それは確かに。
私達がその気になったら、電気ウナギを超える電圧を生み出す事が出来るのよねー。まあ
「気づいてなかったけど、ハルたちはダンジョンを攻略する中で大きく成長してたんだね!」
「大抵の事で動揺しなくなった」
「かもかも! 今ならお化け……は怖いけど、怪物なら怖く無くなったよ!」
そっか、ダンジョンのおかげで三人は成長したんだね。良かった良かった。
え、常識が崩壊しただけだって? ……否定はできないわね。
◆
アマゾンエリアはちょっと物足りなかったけど、次のサンゴ礁エリアは凄く楽しめそう。
「見てこの魚、きれい~!」
「ドレスを着てるみたい」
ダンジョンにもカラフルな生き物がいるけど、どれも大きいから「可愛い」というよりも「ド派手」に見えてしまう。
けれどここで見られる魚はみんな小さくて可愛らしい。ダンジョンでは体験できない発見だね!
ちなみにダンジョンに小さい生き物がいない訳は簡単、小さい敵だと戦っている様子が地味になるからね。写真写りという意味で大きい敵の方が都合がいいのよね。
「みてみて、ヒメちゃん! この子、可愛い!」
「黄色いお魚さんだね、えーっとコンゴウフグって言うんだ」
ハルちゃんが指さす水槽にいたのは、フグ目の中のハコフグ科に属する魚、コンゴウフグ。その名の通り鮮やかな黄色をしており、そして泳ぐ姿が絶妙に不格好で可愛らしい。
「へえー! みてみて、コンゴウフグ!」
ハルちゃんがほっぺを膨らまして私の方を向く。手を顔の前でひらひらとヒレのように動かして、コンゴウフグを演じている。
「
思わず抱きしめてしまった。
「捕まっちゃったー! えへへ!」
天使ですか、この子は……!
この瞬間、私の寿命が100年延びたわ。(そんな事はない)
そしてその後。
「みてみて、こっちに変わった生き物がいる!」
体の大半を砂の下に隠していて頭だけ出してる細長い魚。白地に黒に斑点がついている様が犬の「チン」に似ているからチンアナゴって名前らしいわ。
「……なんでだろう? この魚、とっても特徴的だけど、なぜだか真似しちゃいけない気がする」
「チンアナゴの真似? 確かに、しちゃいけない気がするわね。近づかないようにしましょ」
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