無邪気って怖い
アニメ鑑賞会が終わったころ、ミカンさんが高校から帰ってきた。そっか、ミカンさんはまだ夏休みじゃないんだね。あ、明後日からなんだ。
「ただいま~」
「「「お帰り~」」」
「「「お邪魔してます」」」
『クワ!』
『グア~』
「……?」
ミカンさんが何か混乱しているような顔をしていた。あ、もしかして動物が苦手だったりする?
「ユズちゃん、ミカンさんって動物が苦手だったり?」
「? そんなことないと思うよ~。あ、そういえばお姉ちゃんには紹介してなかったね、カモノハシさんとライチョウさんだよ~」
あ、そっか。そういえばミカンさんにこの二匹を紹介したことはなかったね。だからびっくりしていたのだろう。
そりゃあ誰だって家に知らないお客さんがいたらびっくりするよね。
「え、えっと。初めまして、ユズの姉のミカンです? よろしくお願いします?」
『クワーワ』『グアグアグア』
ミカンさんは母親の方を助けてほしそうに見る。すると「二人とももふもふだよ~。二人とも賢いから、噛みついたりしないから、触ってみて~」と言う。
「う、うん。よしよし~。わあ~ホントに柔らかいね♪」
『クワワ』『グアグア』
最初はおっかなびっくりしていたミカンさんだったけど、すぐに二匹を気に入ってくれたようだ。
「え~っと。みんなで何をしていたの?」
一度部屋で制服から私服に着替えたミカンさんは、リビングにいる私たちにそう問いかけた。
「さっきまでアニメを見てたんだ~」
「なるほど~」(動物と一緒に? なぜ?)
「この子がね、人間の文化を知りたいって言ったんだ~」
『クワクワ』
「そっか~」(……? あ、そっか。きっとあれだ、魔法系の何かなんだね)
「それが終わって、今はライムと一緒に遊んでるの♪ これ!」
「これって……?」
私達は今、ライムちゃんが持ってきたおもちゃで遊んでいる。それは長い歴史のあるパズルゲームである。
「なあに、これ?」
「かめさんゲームだよ~。ママにかってもらったんだ~」
幼稚園でこのゲームを知ったライムちゃんは、何故かすごく気に入ったらしい。それを見たユズちゃんのお母さんは、「知育玩具だし、買ってあげようか」と思ったようで、こうして家にあるらしい。
亀さんゲームは「父亀・母亀・姉亀・妹亀」の四匹の亀と、三つの石からなるパズルゲームよ。
はじめ、亀さん家族は一つの石の上で休憩している。ここから一番上に乗っている一匹が別の石に移動し、続いてまた別の一匹が移動し……と順番に移動していき、全員が別の石に移動したらクリアである。ただしこの時、大きい亀が小さい亀の上に乗ってはいけない。
大中小の三匹の例で説明すると……
0.(大中小)()()
1.(大中)(小)()
2.(大)(小)(中)
3.(大)()(中小)
4.()(大)(中小)
5.(小)(大)(中)
6.(小)(大中)()
7.()(大中小)()
と7手で移動させる必要がある。この方法だと「一匹ずつ」「大きい子が小さい子の上に乗ってはいけない」の両方を満たせているわね。
とライムちゃんが頑張って説明する。
はい可愛い。小さな子が頑張ってる姿ってとても癒されるよね。
「なるほど~。(えーっと、つまりハノイの塔って事?)」
私の方を見て、ぼそっとそう聞くミカンさん。私はぼそっと(はい、その通りです)と答える。
このゲームはハノイの塔と呼ばれているゲーム、それを子供でも楽しめるように改良した物ね。ハノイの塔の公式設定では、64枚の円盤を先ほどのルールに従って動かす事になっているわ。そしてそれが完了したとき、世界が滅びるんだって。なんでそんな設定にしたのだろ?
『グア~』
「ハトさん、じょうずだね~」
『グアア……』(ハトじゃないよ……)
ライムちゃんが説明する横で、ライチョウさんが羽を器用に使ってハノイの塔を解いていた。
羽でやるんだ、てっきりくちばしを使うのかと……。いや、前にハンバーグをご馳走したとき、羽でナイフとフォークを使いこなしていたし、このくらい出来て当然なのかしら。
「ちなみにミカンさん、リンちゃん。最短手数を計算できますか?」
「あ、なんだっけこれ。聞いた事あるけど忘れた」
「あ、数学の授業で解いたことがあるよ~。忘れちゃったけど!」
このパズルは最短手数を数学的に求める事が出来るわ。その方法が数学的帰納法を使う方法と漸化式を使う方法の二種類あって、どちらも綺麗な証明だから話題になりやすいのよね。
「……の二通りで証明できて、N枚の円盤なら(2のN乗)-1手になりますね」
「おおー。これは綺麗な証明」
「漸化式ってもうすぐ習う分野だ~。なるほど、こんな感じなんだね~」
「面白いでしょう?」
なんて二人に説明していたのだけど、ふとライムちゃんたちの方を見ると、大変な事になっていた。
「う~ん。う~ん? むずしい……」
そう悩んでいるライムちゃんが、ひょいとライチョウさんを掴んで、自分の頭の上に乗せたのだ。
『グア?』
「こっちをうごかす! で……」
頭に乗せたまま、パズルを解き進めるライムちゃん。
『グアグア?』
そして頭の上に乗せられたライチョウさんは困った顔で私たちの方を向いた。
岩肌や木の枝に捕まるなら爪を使えるけど、まさかライムちゃんの頭を鷲掴みにするわけにはいかない。そんな焦りをライチョウさんからは感じた。
「ラ、ライムちゃん! ライチョウさんを降ろそうねー、うん」
危なかった。はあ、無邪気って怖いわね。
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