先入観
「お姉ちゃんから色々アイデアを貰ったよ~」
「ハルも、お兄ちゃんに衣装のアイデアを出して貰ったよ!」
衣装のデザインについて話し合った結果、私たちだけでは良いアイデアが出ないと悟ったので、他の人に意見を仰ぐことになった。
そして一日経った今日、ミカンさんとハルちゃんのお兄さんからアイデアを頂いた。
「じゃあ、まずはミカンさんの意見を聞いてもいい?」
「うん! えーっとね『カラーバリエーションを変えられる服』だって」
「……と言うと?」
「例えば赤い衣装が青色に変わったり、って事じゃない?」
「それは属性チェンジでやる事だよね……。あれ、もしかして言ってなかったっけ? 魔法少女服と同じで属性チェンジ時に色が変化するから、火属性用の衣装なら赤系統、水属性なら青系統、土属性なら黄色系統の色しか使えないの」
「あ、そっか~!」
よって色調が大きく変わるような服は却下せざるを得ない。仮に作ろうとしても、スキルが発動しないって設定のはず。
「あれ、じゃあミカンさんには一人三着作ってもらうの?」
「ううん、その必要はないよ。一着作れば自動的に他の属性用の衣装も生成されるから」
「そっか、それならよかった」
リンちゃんはそう言って納得したように頷く。しかし私は見逃さなかった、彼女が納得のいかない表情を浮かべているのを。そうだよね、一着作ったら色違いが自動生成されるなんて納得いかないよね。
まあ、そこはゲーム世界特有のご都合主義って事で。深く考えてはいけません。
「コホン、一つ目の案は残念だったけど、次の意見は面白かったよ~! 『くノ一の服みたいに、衣装のあちこちに暗器が仕込まれている服』だって♪」
「それは面白いコンセプトだね、なるほど」
「懐からすっとクナイを取り出す感じかなー?」
「これはカッコイイね。着てみたいかも」
なるほどねえ。変形やイリュージョンとはまた違った「非現実的」な服だね! これは面白いのだけど……。
「私達って物理攻撃はしないから、ちょっと合わないわね……」
「むむむ、確かに」
「ハル達、武器っぽいものは使わないもんねー」
「でも、何か道具が出てくるって言うのは面白い発想よね。
最近の私達は「物を収納するならマジックバッグ」って考えが定着しちゃってるものだから、こういうアイデアは浮かばなかったのよね。
ナイスです、ミカンさん!
◆
「次はハルちゃんのお兄さんのアイデアを聞かせてくれる?」
「うん! えっとね、光学迷彩が面白いんじゃないか、だって!」
「な、なるほど……? えっと、アイドルとはあまり関係無さそうな話題ね」
「技術としては面白いけどね」
「そもそもアイドルは目立つことが仕事だよね~」
ここで言う光学迷彩とは、光の進路を曲げることで自分の姿を消す物の事。要は透明人間になれる服って事ね。軍事や医療分野で役立つと期待されている技術よ。
「そうなのよね。非現実的で面白い衣装だけど、これはちょっと使えない……事もない?」
没にしそうになったけど、この案は凄く大事な気がする。
今まで私達は服を「上に乗せるもの」として捉えていた。肌の上に下着を、その上にワンピースを、その上にブローチを、その上にホログラムを……というように、要素を追加していく事ばかり考えていた。
つまり、私はいつの間にか「装飾は足し算である」という先入観にとらわれていたのね。
だけど、光学迷彩は足し算ではなく引き算。要素を削除する機構と言えるわ。これってすっごく大事じゃない?
そう私は三人に説明した。
「なるほど、確かに!」
「面白い視点だね」
「う~ん。あ、そうだ♪ じゃあ、光学迷彩を使って、こんな衣装を作るのはどうかな~?」
ユズちゃんが何か思いついたみたい。
「
三層構造にするの♪
まず一層目が光学迷彩! ここで素肌を完全に隠してしまうの。
二層目は薔薇のツタみたいなのを網目状に張り巡らせる。
そして三層目に薔薇のコサージュを付けるのだけど、このコサージュは蕾から徐々に開花するように変形するの!
光学迷彩を使わずにこの服を作るなら、肌が見えないように二層目のツタ層を隙間なく張り巡らせる必要があるけど、光学迷彩があればその必要がなくなるよね♪
どうかな?
」
「なるほど、その使い方ナイスね!」
キワドイ衣装でも安心安全ってわけだね。スケスケ衣装ならぬ、体まだ透ける衣装って事ね。
「体を覆う必要がないとなると、デザインの幅が広がる事は間違いない」
「それなら、前に出たこの案も組み合わせて――」
こうして会議は進んでいった。
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