剣士のおじいちゃん
リュウオウを倒した翌日、私たちはカモノハシさんが暮らす村にお邪魔していた。
『クワクワ! クワワワ!』
(待っててね! 剣士のおじいちゃん連れてくる!)
目的はゲーミングガーをはじめとする巨大魚を捌いてもらって、そしてみんなで食べる事! 剣士のカモノハシさんかあ……どんなカモノハシなんだろ? 歴戦の戦士って感じのカモノハシなのかなあ?
『クワクワ~』『クワワ!』『クワワー!』
あ、噂を聞きつけたのか、たくさんのカモノハシさんが集まってきたわ! 可愛いなあー。けどいつ見てもシュール!
「いろんなカモノハシさんがいるねー!」
「あの子みて~! 赤ちゃんをおんぶしてるよ~! 可愛いね♪」
「あのカモノハシは杖をついてる。四足歩行すればいいのでは?」
おんぶ紐で赤ちゃんを背負うカモノハシさんに、杖をついて歩くカモノハシさんと、みんな人間さながらの生活をしているんだよねー。子供向け番組の世界に入り込んだ気分になるわね。
あ、杖をついたカモノハシさんが近づいてきた。周りのカモノハシが尊敬のまなざしを向けているし、村のお偉いさんなのかな?
『クワワワ? クワワクワクワ!』
(どでかい魚を釣り上げたんだって? それを儂に捌いて欲しいとか)
え? この方が「剣士のおじいちゃん」なの?
杖をついているけど重労働させて大丈夫なのかな、と不安になる。
「はい、えーっと、こんなのでして」
『ほう、これはすごいのぅ。腕が鳴るわい』
『うわあ! 化け物だあ!』『おじいちゃん、こんなのほんとに捌けるの?』
『ふぉっふぉっふぉ。儂にかかればこの程度、1秒もあれば捌けるよ。ビニールシートを敷いとくれ、その上に乗せてもらおう』
(ユズ訳)
少し混乱している私とは対照的に、ハルちゃんは状況を飲み込めてるみたいで、おじいちゃんカモノハシに話しかける。
「あのー! どんな剣を使うのですか?!」
『
おじいちゃんカモノハシは手に持っていた杖を見せる。えーっと? その杖でどうやって魚を捌くの……?
は! もしかしてその杖は!
「「仕込み刀?!」」
おじいちゃんカモノハシが杖の先を弾くと、ギラリと光る刀身が姿を見せる。すっごい! かっこいい!! ハルちゃんとリンちゃんも目を輝かせている。うんうん、仕込み刀って中二心をくすぐるよねー!
なるほど、歴戦の戦士じゃなくて「お師匠様キャラ」なのね。RPGゲームで言う所の、山の奥の方で静かに暮らしてて、主人公に秘伝を教えてくれる感じの。
もっとも、見た目がカモノハシだから威厳はなく、むしろ可愛らしいけど。
◆
ビニールシートが広げられ、その上にゲーミングガーが乗せられた。おじいちゃんカモノハシはその頭部を眺めている。
3メートル越えの肉食魚と50センチ程のおじいちゃん。……傍から見るとおじいちゃんが食べられそうになっているみたいに見えるわね。
『クワワクワクワワ。クワクワワ、『クワクワーワワ』〈クワークワ!〉!』
(これが儂の奥義だ。とくと見よ、『浮蘭手蓮流剣技』〈夕霞の剣舞〉!)
「「「「え?!」」」」
消えた! おじいちゃんカモノハシが蜃気楼が如くゆらりと消えた……!
――ヒュッ!
直後、ゲーミングガーの尻尾側で剣が振るわれる音がした。そちらに目をやると、刀身に付いた血を払っているおじいちゃんカモノハシがいた。な、なにが起こったの……? 瞬間移動?
おじいちゃんカモノハシの気迫にあてられたのか、カモノハシ村がしんと静まり返った。そして5秒ほどの静寂――。そして。
――ガラガラ!
突如としてゲーミングガーの鱗がすべて剥がれ落ち、その肉が綺麗に捌かれた状態になったの。うっそー?! な、何が起こったの?!
「あまりに速い剣技で、見る事も出来なかったって事……?」
「かっこいいいー!!」
「これは……すごいね」
「わあ~! すっご~い、アニメみたい!」
おじいちゃんカモノハシだけ世界観が違うんだけど、登場するゲームを間違ってるんじゃない?!
いや、この剣技を人間じゃなくてカモノハシがしているあたり、ダンジョンアイドルの世界らしいと言えるのかしら?
この後みんなで、ゲーミングガーを焼いたりフライにしたりして食べた。とっても美味しかったよ! めでたしめでたし。
◆
後から聞くと、おじいちゃんカモノハシの使った剣技は「浮蘭手蓮流」というカモノハシに伝わる秘伝らしい。なんでも彼の一族は毒針が退化しており、代わりに剣技を覚えているんだそう。
「久々に強敵と戦いたくなってきたわい。強敵と戦う事があったら、是非儂を呼び出しとくれ」
こうしてユズちゃんが召喚できる対象が一匹増えた。
さて、浮蘭手蓮の読みは「フラテハス」である。元ネタは分かる? そう、カモノハシの英語名“platypus(プラテパス)”だね。
この分かるか分からないか微妙なラインのギャグがなんともダンジョンアイドルらしいわね!
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