決着、リュウオウ戦

 上空へ昇って行ったリュウオウの挙動を観察していると、そこに無数の閃光が走るのが見えた。無性に嫌な予感がするわね……。


 パチパチパチパチ!


 続いて地面の一部が光り出した。そこからパチパチと上空に向かう小さな放電が生まれる。


「パチパチ地帯から避けるよ!」

「絶対ここに雷が降ってくるって事だよね!」

「なんなの、このゲームみたいなシステム……」


 そりゃあ、ゲームだもん!


 10秒後、帯電していた場所目掛けて雷が落ちた。目の前で同時に何十本もの雷が落ちる様は、圧巻であった。こんなの、地上では絶対経験出来ない光景よね。


「ひょええええ! すごかったね!」


 私の腕に抱き着いていたハルちゃんが、キラキラしたまなざしで私の方を見た。怖さよりも興奮の方が上回ったようだ。


「こ、怖かったよう~……」

「よしよし」


 ユズちゃんは怖さのほうが上回ったみたい。リンちゃんに撫でられていた。

 ほほえまー。とか言ってる場合じゃないね!


「もう一発来るみたい!」

「ユズちゃん、しっかりしてー!」


「ひい~! 避けないと……!」

「ほら、ユズ。こっち」

「リンちゃ~ん」


 ユズちゃんが心配だったけど、リンちゃんに手を引かれて無事安全地帯に移動する。セーフ。


 ピシャシャシャシャン!


 天から雷が降り注ぎ、そして次の落雷場所がパチパチって音を立てて……という事が5回繰り返された。

 パチパチしてから実際に雷が落ちるまで10秒もある訳で、かなり余裕をもって避難できる。とは言え、なかなかスリリングだったよー。


「雷って高い所を狙って落ちるはずなのに、なんで私たち目掛けて落ちて来ないんだろうね~」

「それを言うなら、そもそも落雷前に『ここに落ちるよ』って合図があるのもおかしいよ」


「そも辺はあれだよ。ご都合主義ってやつだよ!」


 ともかく、雷攻撃が終わるとリュウオウが地上へと帰ってきた。攻撃チャンスである。


「フィーバー、行くよ」「OKだよ~!」

「〈マジカルフィーバー〉!」


 リンちゃんとユズちゃんが〈マジカルフィーバー〉で攻撃を畳みかける。


『クワワ!』


 カモノハシさんが猛毒を重ね掛け。


「氷を嫌がってたよね? 『ブリザード』」

「動けなくするよー! 『フロスト』」


 私とハルちゃんが進化属性で追撃する。



『リュオオ!』


 もちろんリュウオウもやられてばかりではない。リュウオウがその場で跳ね、ドスンと着地した瞬間、地面が大きく波打って私たちを吹き飛ばした。バリアが大きく削れ、体勢も崩される。


『リュウウ……オオォォォォ!』


「ブレス?!」

「ひえええ~!」

「危ない!」


 態勢を崩した上でそれは厄介ね! 這う這うの体で射程内から逃れ、事なきを得る。


「! リンちゃん、バリアがもうはがれてる! かけ直すね」


「ほんとだ、ブレスがかすったみたい」



『リュオオ!』


 再びジャンプするリュウオウ。さっきので味を占めたのかしら? でもそうはいかないよ!


「着地と同時にジャンプすれば避けられると思う! タイミングを見極めて!」


「ダンジョンはリズムゲーだった?」

「フィーバーもリズムゲーみたいなものだし、ダンジョンさんは音楽が好きなのかなあ~♪」


 3、2、1、今! ジャンプ!



 ドッスーン!



 ふう、ノーダメージでやり過ごせたね。タイミングもシビアじゃなさそうで助かったわね。


※この子達は十分過ぎる程のレベル上げに加えて強力なバフの恩恵を受け、結果ジャンプの滞空時間が1.5秒くらいあります。その結果「この子達にとっては」タイミングがシビアでないようですが、普通の人にとってはかなりシビアです。


『キエエェェェ!』


 今度は何かな? リュウオウの背中で魔法陣が光ってる?


 ボフン!


 なるほど、ヘドロの砲弾をランダムな方向に発射する魔法みたいね。次々に魔法弾が飛んでくる。


「追尾性はない……みたいだね」


「このくらいのスピードなら普通に避けられるね~」


※この子達は(以下略)



『キエエエエエェェェ!』


 再びリュウオウが大きな声で鳴き、そして天へと昇って行った。雷攻撃ね! そう思っていると、予想外のことが起こった。


「「「「え?」」」」


 曇っていた空が急に晴れたの。まさかの出来事に思わず拍子抜けしてしまう。

 あれ? 雷攻撃が来るんじゃなかったの?


「みんな! 地面見て!」


「え? これって……」


 ハルちゃんに言われて地面を見ると、太陽に照らされて明るくなっている中に、無数のシェルエットが浮かんでいた。


「缶瓶、ハンガー、傘。タイヤに自転車のシェルエットもあるね……?」

「どれも池に捨てられてそうなもの……。まさか!」


「「「「これが上から降ってくる?!」」」」


 ヒトの中には、川や池にゴミを投げ捨てるような人間もいる。一つ一つは小さな「まあいいか」でも、それらは積もり積もって環境に大きな悪影響をもたらす。

 この攻撃は湖の逆襲なのかもしれない。「君たちヒトに教えてやろう、物が上から降ってくる事の恐怖を」と言われている気がする。


「シェルエットがくっきり見えてるし、避けるのは簡単そうだけど」


「そうだね~。太陽の光は平行光線だから、影がそのまま出来るって習ったよね~。豆電球みたいな光源だとこうはいかないよね~」


「あれ、じゃあなんで飛行機の陰って見えないんだろー?」


「自然界の太陽には大きさがあるからだよ。ほら、蛍光灯の光で出来る影ってぼやけるでしょ? あれと同じ」


「なるほどー! じゃあ、ダンジョンの太陽には大きさが無いのかな?」


「いや、ただのご都合主義かと」


 なんて無駄話をしながら落ちてくるものを避けて避けて避ける。ちなみに地面と衝突した物はしばらくすると消えるみたいで、地面がゴミだらけになる事は無かったよ。これもご都合主義の一環かしら。



 さて、ゴミ降らし攻撃を終わらせ地上に戻ってきたリュウオウは、魔力を使い果たしたのか攻撃の威力が一気に落ちた。


「なんだか、これを袋叩きにするのは気が引けるね……」


「それじゃあ最後はフィーバーで終わらせない?」

「ちょうどこの音楽、ちょっと物悲しくて、レクイエムっぽい」

「レクイエム、日本語では鎮魂歌って意味だっけ? 確かに、この状況にあってるね~♪」


 このボスフィールドでは、一切の植物が枯れていた。はじめ私は「ボスが自然を壊したって設定なのかな?」と思った。けど、それは間違いだった。


 自然を壊し、穢し、そして殺したのは他でもない人間だった。死した自然の魂は人間に対する憎悪に呑まれ、あのような醜い姿になって私たちの前に現れたのだろう。

 私たちの鎮魂歌は音符と言う形で其れに届き、やがて其れは消滅した。ボス『リュウオウ』。それを倒した後、私たちがするべきことは何だろうか。きっとそれは……。



〔湖の主、リュウオウを討伐しました〕

〔報酬『リュウオウ戦の思い出』を入手しました〕

〔『壊れた自然の記憶』を入手しました。リーダーのロボマネージャーに転送されました〕



 やっぱり、記憶を入手したみたいね。記憶って言うのは……いえ、説明するより見てもらった方がいいよね。


「ロボマネージャーさん、『壊れた自然の記憶』をスマホに送ってくれる?」


 ピコピコ……ピコン!


 壊れた自然の記憶、それは一本の動画ファイルだった。憎悪に呑まれた自然が人間に牙をむき、最後に4人の少女が憎悪の化身を浄化するという流れの動画。


 私は三人にこの動画を見せる。見終わった後、ハルちゃんがぽつりと呟いた。


「これをわざわざ入手したって事は……そういう事だよね」


「うん、そういう事だね。この動画を公開するところまでが、このボス戦の意味って事なのかな」


 記憶系アイテム、それは一本の動画なの。メッセージ性が強い物から、特にそういう訳じゃないものまであるのだけど、今回は前者だったみたいね。





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