リベンジ!
「リベンジするよー!」
「おおー! アリゲーターガー、待ってろー!」
「ゲーミングガーだよ」
「カモノハシさんにも見てもらおうね~。〈サモン・カモノハシ〉」
『クワー!』
もう数か月前の事になってしまったけど、シルバーコードを手に入れたのはこのため。今日こそあの謎生物を釣りあげて見せるわ!
あ、カモノハシさんもヒレを振り上げている。可愛い!
「えーっと釣り餌は……。釣り餌(中)が10個と釣り餌(上)が1個あるわね。まずは中から」
「仕掛け、セット出来たよ」
「ありがと、リンちゃん」
リンちゃんが針結び器を使ってシルバーコードと針を結んでくれた。こんな機械があるなんて最近まで知らなかったのよね。初めて見たときはびっくりしたなあ。
「じゃあ、ハルちゃんからやる?」
「いいの? じゃあやる!」
竿を受け取ってヒュッと仕掛けを飛ばすハルちゃん。糸の端を握っていつでも糸を強化できるようにしている。
そして待つこと数分、アタリがきた!
「うおー! 硬くなれー!! こっちにこいー!」
金属製のワイヤーと比べても遜色ない、むしろそれ以上に硬くなった糸をリールで巻き取っていく。しかしハルちゃんの小柄な体では地面との摩擦が足りないのだろう、ハルちゃんごと湖に引っ張られていく。
「みんなで引っ張るよ!」
4人と1匹で力を合わせて糸を引く。1メートル引けば50センチ戻される。そんな一進一退の攻防が繰り広げられ……。
「みえた! ゲーミングガー!」
「でっかいなあ……」
「きれいだね~」
『クワ!』
虹色に輝く魚が見えてきた。もうあと一息、ひっぱれー!!
ゲーミングガーとの距離が縮まる。10メートル、5メートル、2メートル、1メートル……釣れた!
〔ゲーミングガー(350cm)を釣り上げました! 記録更新です、おめでとうございます〕
〔ハイスコアを記録しますか?〕
「やったああ! 釣り上げたぞー!」
「こ、こうやって近くで見るとちょっと怖いね~」
自然に存在するアリゲーターガーは最大2~3メートルに成長するらしい。そして今回釣りあげたゲーミングガーは3.5メートル。いやはや、大きいなんてものじゃない、化け物サイズね。
さてと。それでこれをどうしようかしら……。
「これ、食べれるの?」
「一応食べられるらしいよ」
私のつぶやきにリンちゃんが答える。そっか、食べられるんだー。
「でも、私これを捌ける自信ないんだけど」
「包丁じゃ無理そうだよねー。のこぎりで捌くのかなあ?」
「ちょっと私達じゃ厳しいよね」
「記念撮影だけして逃がしてあげる~?」
「それがいいかなあ」
『クワクワ! クワワ!』
とそこで、カモノハシさんが何か抗議し始めた。えーっとなんて?
「『逃がしちゃうなんてもったいない! 剣士のおじいちゃんが捌いてくれます!』だって~」
剣士のおじいちゃん……?
凄く気になるけど、今日は釣りをしに来のだからそれを優先しようかな。マジックバッグに入れておけば鮮度も保たれるしね。
という訳で、順番に二回ずつ釣り餌(中)を使って釣りをした。ゲーミングガー以外にも、とっても大きな鮭やイカが釣れた。……「イカは海の生き物でしょ」って誰も突っ込まなかったあたり、私たちはダンジョンに毒されてきているのかもしれない。
「それじゃあ……。そろそろコレを使っちゃおうか!」
私は釣り餌(上)を手に取って見せる。
「釣り餌(上)!」
「いいね、どんなのが釣れるんだろ」
「クジラだったりして♪」
クジラかあ。昔は大切な食材の一つだったけど、絶滅が心配されるようになって食卓に出される機会はぐんと減ったのよね。
それがここで釣れたらラッキーね! クジラ肉、昔食べたことがあるけど、どんな味だったか忘れたなあ。また食べてみたい。
「誰がやる?」
釣り餌(中)はまだストックがあるけど、(上)は一個しか持ってない。さあ、誰が使おうか。
「ヒメちゃんがいいと思う!」
「賛成」
「やっぱりここは、リーダーのヒメちゃんがやるべきだよ~!」
「いいの? じゃあ頑張ってみようかな」
三人が私を推してくれたんだ、無理に遠慮する必要もないかな。
仕掛けに釣り餌(上)をセット。水深の深そうなところを狙って仕掛けを投入した。
「ナイス、ヒメちゃん!」
「いいね。これはビッグなのが釣れそう」
「ああ! もう引いてるよ~?!」
ホントだ! もうウキがグイって沈んだ!
「硬化! こっちに来なさい……!!!」
「うわわ! すっごい引かれる!」
「これはちょっと不味いかも~」
ハルちゃんとユズちゃんが私を支えてくれるけど、これはちょっと不味いかも?!
「『操糸』! ハルとユズは、こっちを手伝って!」
リンちゃんが別の糸で何かをしてくれた。
リンちゃんの持つ糸の一端は近くの木に結び付けられていて、もう一端をリンちゃんが持っている。その糸の中間地点で、釣り糸が引っかかっている。
「滑車にしてくれたんだ! ナイスアイデア!」
それは糸で出来た滑車だった。滑車をかませば引く力が半分で済むものね! しかも糸同士が絡まっている部分の摩擦を減らせば、摩擦によるロスをゼロにできる。
「「「「くうううううぅぅぅぅく…………」」」」
こうして工夫をしてもなお、湖の主(?)との攻防は難航した。1メートル引いても90センチ戻される。そんな感じ。
でもそれでいい。時間はまだまだあるんだから、少しずつでも確実に残りは短くなっているんだから。
少しずつ、少しずつ……。
「見て! 水面で虹色の物が暴れてる!」
「なんだろ~あれ?」
まだあんな所なの……? この調子じゃああと数時間はかかるよ?!
そう私が絶望した瞬間。それは起こった。
〔湖の主、リュウオウを釣り上げました!〕
〔ボスエリアに転送します〕
「「「「龍王?!」」」」
◆
その日、訳あって朝早くから調査を行っている人達がいた。彼はとある大手ギルドの探索班に属していて、地図と魔物の分布を調べる役目を担っているのだ。
「? あ、あの。なんか向こうの方から変な音が聞こえた気がします……」
女性の話声らしきものと水しぶきが上がるような音が聞こえた……気がした。
「言われてみれば? 特殊なイベントの可能性もある、様子を見に行こう。〈臭い消し〉〈気配消し〉〈暗殺の作法〉〈忍者の秘術〉」
「あ、はい。そうですね。〈友達ってなんですか?〉〈今日は誰とも話さなかった〉〈先生が二人組の相手〉〈ぼっちの秘術〉」
彼らの戦闘能力は決して高いとは言えない。だからこうして入念に隠密系スキルを発動するのだ。
ちなみに一人目は【忍者】の昇進先【地図の忍者】だ。マップ埋めに関しては非常に強力な
二人目は【影使い】の昇進先【プロフェッショナル陰キャ】である。これまた非常に強力なジョブだ。作者の
二人は慎重に声の聞こえた方へ向かい……やがて一つの大きな湖にたどり着いた。
「あ、えっと。誰もいませんね?」
「そうだな。気のせいだったか?」
こうして二人は去って行った。
言うまでもなく、この時彼らが聞いた声はヒメたちが発した物だった。しかし彼女らは、二人が湖にたどり着く直前にボスエリアなる異空間に飛ばされてしまったのだ。
偶然にしては出来過ぎているようなタイミングの悪さのせいで、やっぱりヒメは誤解に気づけなかった。
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