シルバーコード

 ブラックサンタを倒すと、いくつかのお菓子がドロップした。砂糖菓子ではなく、ちゃんと食べられるお菓子みたい。


「ジンジャークッキーにキャンデー。どれもおいしそうだね!」


 そして。ドロップアイテムを拾っていると、ガガガと大きな音を立てながらボス部屋の一角に穴が出来た。


「これは……お宝があるのか裏ボスがいるのか……」


「お宝だと良いなー」


 ここまで来たからには先を進むしかないよね! ……そもそも、来た道が閉ざされてるから、先を進まざるを得ないのだけど。

 通路と言うには未整備過ぎるが、洞窟と言うにはきれいすぎる。そんな通路を進む事しばらく、帰還陣を見つける事が出来た。そしてその前にはお宝のようなものが……!


「わあ、なにこれ!」

さかずき?」

「聖杯みたいなのかな? きれいだね♪」


 帰還陣の前にある大石には杯が置いてあった。……違う。置いてあるんじゃなくて、固定されてるわね。


「水を入れてみる? なんかそれっぽいマークがあるし」


 そう言ってリンちゃんは杯の内側を指さした。確かにそこには「ここまで水を入れましょう」と言わんばかりの目盛りが入っている。〈マジカルバリア〉!

 水を入れるや否や、注いだ水が輝き始めた。こ、これは!


 チーン!


 鐘の音と共に光が収まる。中に入った水は凍っていた。おおー! これが聖氷! すごーい。


 だけどさあ……。


「「「「電子レンジかよ!」」」」


 出来上がった音が「チーン!」だと雰囲気が台無しだよ!

 何はともあれ、聖氷ゲットね。たくさん作って持って帰ろう。



「という訳でミカンさん。これを〈合成〉して下さい!」


「え~っと。何が『という訳で』なのか分かんないけど……。うん、とりあえずやるね」


 調合釜で材料を〈合成〉する。その最中、ミカンさんが「蜂蜜を使うの~?」と困惑していたけど、気にしてはいけない。ゲームの調合なんてそんなものだから。


「出来たよ! これは……シルバーコード?! な、なんかヤバそうな物が出来ちゃったよ~!」


 あっさり完成。万歳!

 しかしミカンさんはプルプル震えている。「こ、これを切ったら誰かが死んじゃうの……」なんて言ってる。

 あーそういえば世間一般では、シルバーコードは「肉体と魂を繋ぐ糸」って考えられてるんだっけ?

 プルプル震えているミカンさんを落ち着かせるように、ユズちゃんが声をかける。


「大丈夫だよお姉ちゃん! これはそういうスピリチュアルでファンタジックな物じゃないから♪」


「そうなの~?」


「うん! シルバーコードはね、自分の気持ちを乗せることで、その性質が変化する特殊な糸なんだよ~」


「へえ~。……スピリチュアルでファンタジックじゃん!」


 うーん、デジャブ。


 ユズちゃんとミカンさんの掛け合いに既視感を覚えていると、不意にリンちゃんが私の腕をつついてきた。


「ヒメ、ヒメ。これ見て」


 そう言って彼女が指さすは調合釜の中。


「なあに? あれ、シルバーシルク以外の材料が残ってる?」

「ほんとだ! なんでだろー?」


「たぶん、シルバーシルク以外は触媒なんだと思う。あ、よく見ると蜂蜜もなくなってる」


 触媒とは、化学反応などで自分自身は変化せずに、化学反応を促進させる役目を担う物質の事。

 例えば、過酸化水素水から酸素を発生させる時に、二酸化マンガンを使うよね。この時、二酸化マンガン自体は変化せず、反応を促進しているだけ。この反応で二酸化マンガンは触媒であると言えるわね。小学校理科を思い出すわね~。


「じゃあ、この機会にどんどん作ってもらう?」

「だね」

「さんせー! 中性ー、アルカリ性ー!」


 ミカンさんのレベル上げの為にも、シルバーシルクはたくさん集めてるからね。この機会にいくつかストックしておこう。



 さて。シルバーコードのストックも出来たことだし、早速その使い勝手を調べていこうかな。と意気込むよりも前に、リンちゃんとハルちゃんが糸の使い方をマスターしていた。


「糸使いはやっぱり魅力的。『全て私の傀儡よ』ってね」


 糸を人形の四肢に取り付け、器用に動かしているのはリンちゃん。


「ヒメちゃん、みてー! スパイダーな人の真似!」


 ハルちゃんは手に持つ糸をバシュッと伸ばし、近くにあった小物を掴むパフォーマンスを見せてくれた。わーお、すごい。


「へえ~。自分の体重くらいなら支えれそう~」


 先をフック上にした糸を窓のヘリに引っ掛け、ぶらぶらと揺れるユズちゃん。


「……?」


 口をポカーンと開けているミカンさん。




 取り敢えず、危なっかしいからシルバーコードをダンジョン外で使用する事を禁止した。




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