ブラックサンタ
「元部長が魔法陣の意味を解読してくれたみたい」
「おおー! 氷を作る魔法陣だったのかな?」
「なんだったんだろ。私の予想では浄化みたいな魔法なのかなと」
「聖氷だもんね~」
三人はこの魔法陣が聖氷を製氷する魔法陣だったのではないかと考えているみたいね。私もそう考えていたんだけど……。
「どうやら違うみたい。この魔法陣は概念上の季節を12月に固定する物みたいよ」
「「「?」」」
これだけ言ってもよく分かんないよね。私は自分が発表した小論文の内容と絡めながら、この意味を説明した。
「なるほどなるほど。あれ、じゃあ氷は?」
「浄化でもなかったんだ~。じゃあ、どういうことなんだろ?」
そうなのよね。絶対これが聖氷関係だと思っていただけに私も混乱している。
「あ、そういう事か」
しかしリンちゃんは何かを思いついたみたい。「何か分かったの?」という視線を受け、リンちゃんはこう問いかけた。
「『聖』って漢字はどういう意味がある?」
「『良い人』みたいな意味じゃない? ほら、聖人みたいな!」
「他に『清らかで穢れがない』みたいな意味もあるよね」
「聖域、みたいなことだよね♪」
こう考えると聖という漢字一文字で、複数の意味が考えられるのね。他の意味もあるかな?
「私も聖氷って聞いて『清らかで穢れがない氷』って意味だと思った。聖火リレーの聖火と同じように、ね。だけどそうじゃないんだよ。ユズ、聖夜ってどういう意味?」
「クリスマスの夜って意味だよね~。恋人たちの時間だね♪」
「そう。聖って漢字はクリスマスのって意味もある。聖氷もそうなんじゃないかな。『神聖な氷』ではなく『クリスマスの氷』なんだよ。きっと」
「「「なるほど!」」」
つまりスリップシュリンプ達は魔法陣を描くことで、特定の領域を概念上クリスマス当日に固定しているわけだ。そうすることで「クリスマスの氷」を生み出していると。
「上空から撮った写真とカレンダーを合わせて、12月25日に当たる部分を探そう」
「オッケー!」
◆
次の日の早朝。ダンジョンでその場所に向かうと、大きな石が三つ正三角形の形に並んでいるのを見つける事が出来た。いかにも怪しいわね。
それらの石をじっくり観察すると、雪に埋まっていた側面部分に小さなダイヤルが付いているのが分かった。それぞれ「昨日の日付は?」「今日の日付は?」「明日の日付は?」と書かれている。
答えはもちろん「昨日も今日も明日も12月25日」だろう。
「なるほど、これは魔法陣の存在を知らないと解けないギミックだね」
偶然クリスマス当日にここに来て、このダイヤルに気が付いたとしても、解けないようにしてるって事だね。カチカチっと全部のダイヤルを12月25日にセットして様子をうかがっていると。
ゴゴゴゴゴ……
地面がガタガタと揺れ始めた。よかった、正解だったみたいね。
地面が左右に分かれるように開いて穴が出来る。覗き込むと地下へと続く階段が見える。
「下へ行けって事……だよね?」
「楽しみだね!」
「隠されたダンジョン、みたいな?」
「クリスマスに関連したステージなのかな~?」
螺旋階段を降りる。はじめは無機質な階段だったのだけど、下へと下っていくにつれて装飾が付き始めた。キャンドル、ベル、オーナメント、クリスマスリース。クリスマスパーティーにでも向かっている気分になるわね。
「あ、一番下に付いたみたいだよ!」
「うわあ~! きれいだね~」
地下で私たちを待っていたのはクリスマス仕様の地下遺跡だった。あちこちにクリスマスを彷彿とさせる装飾がついた地下迷宮。ナニコレ……。
『スノー』
『スノスノー』
遠くの方では、とんがり帽子をかぶった雪だるまが踊っているわね。可愛らしいけど、あれは敵かしら?
「雪だるまさんがこっちに来たよ!」
「杖が光ってるよ~! 攻撃かも、〈マジカルバリア〉」
『スノー!』
吹雪が私たちに迫ってきた。
「やっぱり敵だったのね、〈マジカルバースト〉」
「「〈マジカルバースト〉」」
『スノノー!』『スノー!』
強くはないようで、軽く倒す事が出来た。ドロップアイテムは雪だるまの形の砂糖菓子だった。
「これって美味しいのかな? ぱく……甘い! 甘過ぎるよ!」
「ハルちゃん?! 砂糖菓子は砂糖の塊なんだから、食べれないよ?!」
ハルちゃんはうへーと言いながら水を飲んで口をゆすいだ。
「じゃあこれ、どうするの?」
「溶かして料理に使う、とか?」
「そっかあ……」
「これでクッキーとか作ろうね!」
「クッキー! うん、食べたい!」
他にトナカイ型の魔物、大砲を乗せたソリ、クリスマスツリーのように飾りつけされたトレントなど、クリスマス関連の魔物とエンカウントしたよ。倒すと砂糖菓子がドロップするみたいね。
◆
探索を続けると大きな扉があった。ボス戦かな?
中にいたのは大砲を積んだそりを引っ張るトナカイの魔物。御者はサンタの格好をした雪だるまである。
「ハル、知ってる! ブラックサンタってやつだね!」
ブラックサンタとは、悪い子にお仕置きをするサンタクロースの事。もしほんとにブラックサンタがいたとしても、大砲は使わないんじゃないかなあ……?
「まあ、せっかくクリスマス仕様なんだし、私達もそんな風な魔法で倒そっか? 『オーナメント』」
「さんせー! 『ホワイトクリスマス』!」
「浄化の光が天より落ちる、『ホーリーサンダー』」
「え~?! えっとえっと、ぷ、プレゼントだよ! 『プレゼントボム』!」
なんかそれっぽい技名を言ってるけど、全部ただの進化属性魔法よ。
私が使った「オーナメント」は球形の炎が飛んでいく魔法、ハルちゃんが使った「ホワイトクリスマス」は吹雪の魔法、リンちゃんが使った「ホーリーサンダー」は落雷の魔法ね。十字型の魔法がブラックサンタ集団(仮称)に直撃!
これぞまさしく「サンダークロス」ね! サンタクロースなだけに!
ノリのいいハルちゃんとリンちゃんとは対照的に、どうしたらいいのか分からず戸惑うユズちゃん。咄嗟に思いついたのはプレゼントの形の爆弾を飛ばす魔法だった。
な、なかなか凶悪ね……。これってつまり「はいプレゼント」「ありがとう! 何かな?」ドッカーンって事よね? まさにブラックサンタ。
『スノー!』
あ、プレゼントボムがとどめになったみたい。ブラックサンタ集団(仮称)は光の粒子になって消えていった。
そのさなか、私たちはこんな声を聴いた。
『もう働かなくていい……ありがとう……』
……え?
「なんか言ったよ?!」
「もう働かなくていい……?」
「サンタさんのお仕事ってやっぱり大変なのかなあ? 成仏できてよかった、でいいのかな~?」
なんてセリフを言い残すのよ?! あのサンタさんも社畜だったのかなあ。
いや、まさか……?
「はあ。私は気づかなくていい事に気付いてしまったわ」
「「「?」」」
「ここって毎日がクリスマスじゃん? ってことは、サンタさんは……」
「そっか! じゃあ、毎日が労働……」
「それは大変だ」
「ブラック企業もびっくりなスケジュールだよ~。あ、もしかして!」
あれはブラックサンタならぬブラック企業サンタだった!
Fin.
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