魔法陣の意味、Part 1

「外は暑くなってきたけど……」

「ここは涼しくていい」

「ダンジョンって便利だよね~。いっそここで過ごしたい~」


 夏が近づいてきて気温がどんどんと上がる中、ダンジョン内はいつものように雪景色を保っていた。設定上、ここは異空間で外界とは遮断されているからね、外の気候は関係ないわ。

 それならば、ユズちゃんの言うようにダンジョンの中で永住すれば快適なのでは? ダンジョンの中に都市を作ればヒートアイランド現象も解決よ! と思うよね。けど、そういう訳にもいかない理由がある。


「けど、ここに人工物を立てることは出来ないんだよね……。ダンジョンに穴を掘ったり物を建てたりしても、一日もあれば元通りになってしまうから」


「そっかあ~」

「世の中、そう上手くはいかないか」


「GCショップでマイホームを買えば、快適な生活を出来るようになるだろうし、それまでの我慢だね」


 と話していると、シャーシャーという変な音が聞こえ始めた。この階層に、こんな音を出す敵はいないと思うんだけど……?


「あ! スキーしてるエビだ!」


 あ、そういえばそんな奴いたわね。スリップシュリンプは基本的に中央の湖でスケートをしてるのだけど、何故か湖以外の場所でスキーをしている個体がいるのよね。

 初めて見たときは変異種、突然変異を起こして強化された個体、と思って焦ったのだけど、実際はそういう訳では無さそうなんだよね。謎。

 今後はこれをスケートシュリンプと呼ぼう。


「後ろをつけてみよ!?」

「前は何もわからなかったけど、今回は何か分かるかも♪」


 ハルちゃんとユズちゃんがやる気だ。そうだね、じゃあ今日はスケートシュリンプの追加調査をしよう!


「そうだね。あ、そうだ! ライチョウさんに手伝ってもらお!」

「上空から観察すれば、何か分かるかも」


「ナイスアイデア~! 〈サモン・ライチョウ〉!」


『グア~』


 こうして私達四人+一匹によるスケートシュリンプ(仮名)調査が始まった。



 スケートシュリンプはあっちへ行ったりこっちへ行ったりグルグルと回ったりしつつ、最終的にはいつもの湖へと入って行った。


「うーん、特に成果なしかあ……」


 特に意味のない行動なのかなあ。でも、ダンジョンがそんな事をするかなあ?


「どこかからの帰りだった……とか?」

「かなあ~? ライチョウさんはどう思う?」


『グアグアグア~。グアグアグアグア~』

(うーんなの。ただ遊んでいるだけじゃないの~?)


「遊んでいる、かあ」


『グアグア~。グアグア、「グアグア?」「グアグアア!」』

(そうそう~。「なぜ滑るのか?」「そこに道があるからだ」、みたいな~)


 なんでライチョウさんがマロリーの名言を知っているのかしら……。

 ちなみに「なぜ山に登るのか」「そこに山があるから」は誤訳で、正確には「なぜエベレストに登るのか」「そこにエベレストがあるからだ」が正しいって聞いた事があるわ。


「ん?」

「ちょっと待って?」


 今のライチョウさんのセリフ、ちょっと変なところがなかった?

 そう思ったのは私だけではなかったみたい。リンちゃんも違和感を感じたようで、私たちは顔を見合わせた。


『グア?』

(何か変なこと言ったの~?)







「「道ってどういう事?」」


 彼はランダムにあっちこっち適当に走っていた……ように私には感じられた。だから「そこに道があるからだ」はおかしな表現に思えたの。「そこに雪があるからだ」なら分かるのだけど。


『グア、グア~グアア? グアグア、グア~グアグア!』

(あれ、気づかなかったの? あの海老さん、道の上を走っていたの!)


「道って……」「魔方陣の事?」


『グア』

(そうなの)


 そっか、そうだったんだ。変な動きをするなあって思ってたけど、これって魔方陣の上を走っていたんだ。

 もしそれが正しいなら、一つの疑問が浮かんでくる。それは。


「つまり、スリップシュリンプは魔方陣の形を認識している……って事になるよね?」


 私たちは先ほどまで歩いてきた場所を見る。何処までも白いそこに道なんて見えない。ライチョウさんのように上空から見れるならともかく、地上にいる状態で「道」を見ることは不可能に思えるのだけど……。


「スリップシュリンプは雪の状態を感じ取れる、のかなあ」

「『あんな、雪って2種類あんねん』、って感じかな♪」


 どこかで聞いたことがあるセリフだね、うん。


「それか、ダンジョンに住まう者には分かるとか」


「なるほどねえ。確かに、ダンジョンによって書かれた魔方陣なら、ダンジョン関連の存在にはくっきりと見えているのかも?」


 そう私はつぶやいた。リンちゃんはそれに「そうそう、そういう事」と同意した。

 しかし。この何気ない言葉に違和感を感じた者がいた。ユズちゃんとハルちゃんが待ったをかけた。


「待ってヒメちゃん! 今何か重要な事を言った気がする!」

「ヒメちゃん、もう一回さっきのセリフ言って~!」


「え、私何か変なこと言った? えっと『ダンジョンによって書かれた魔方陣なら、ダンジョン関連の存在にはくっきりと見えている』?」


 何か変なこと言ってるかな?








「そう、そこ! 『ダンジョンによって書かれた魔方陣』って部分! それ、」

「これってダンジョンが生成した魔方陣じゃないんじゃないかな~?」


 え、どういう事?

 でも、これはダンジョンのギミックだよね……。まさか他のアイドルが描いてる、なんてことないだろうし……。


「ハル思うんだけど、この魔方陣って、獣道みたいな物なんじゃない? スケートシュリンプが通った道が魔方陣になっている! みたいな」

「ヒメちゃん言ってたよね、ダンジョンに生じた変化は元に戻るって~! だからスリップシュリンプは定期的にスケートをしてるんじゃないかな~?」


「「魔方陣を維持するために!」」


 ハルちゃんとユズちゃんがびしっと指を前に出して決めポーズをとった。

 はい、可愛い。……じゃなくって。


「そんな事考えもしなかった……」

「そう考えると、聖氷の説明と合致する」



 ……覚えているだろうか、聖氷に関するヒントを。



 そこにはこうあった。



“氷上を舞うえび守る・・聖氷”



 スリップシュリンプは守っているんだ、聖氷を。



「つまり、スリップシュリンプは『ダンジョンによって魔方陣が消されないようにすることで、聖氷を守っている』ってこと……?」




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