レベル不足

「お姉ちゃん、これを作って欲しいんだけど~!」


「は~い、なあに?」


「この魔方陣!」


 ユズがミカンに見せた写真は、地上絵に画像処理を加えたものだ。上空映像そのままだとゆがみが発生しているからと言って、ヒメがいい感じに補正したのだが、詳しい事はユズにもわかっていない。

 図案をしばらく見ていたミカンは、「うーん」と困った表情でこう問いかけた。


「これは……魔方陣なの~?」


「えーっとね。ミステリーサークルというか、地上絵の図柄なんだけど、魔方陣っぽいから一度作ってみて欲しいなって」


「あ、なるほどね~。一応作ってみるね、けど、多分上手く行かないよ……」


「? どういうこと?」


 ミカンは【アイテム職人】になって以降、魔方陣を見ればそれが何を示すのか分かるようになっていた。その力を使って、魔方陣の調整や開発を今まで行ってきた。

 しかし、この図柄には反応がない。だからミカンは「多分上手く行かない」と思ったのだ。


「なるほど、そっか……」


「で、でも、作ってみたら何か効果が表れるかもしれないから! うん!」 


 しょぼんとするユズを見て、慌ててフォローするミカン。……果たしてフォローになっているのかはともかく。



 さて、図面があまりにも細かかったため、ミカンが持っているチャコシート(図面を布に移すための道具)では対応できなかった。そのため、目印となる場所に点を打ってそこを繋ぐ作業となる。

 そのため、幾度かミスをしてしまい、結局完成までに一週間ほどかかってしまった。


「遅くなってごめんね~完成したよ!」


「わあ、綺麗! ありがとね、お姉ちゃん! これで何か効果が現れたらいいんだけど……」


 一週間の間ユズ達はこの模様に関して、別のアプローチで調査をしていたがそっちは進展なし。だから、「これが魔方陣であれば」と願っているのだ。


「じゃあ、早速起動してみるね。えい!」


 ユズが魔方陣に魔力を流し込んだ。すると……。


「……熱い! って魔方陣から煙が出てる!」


 魔方陣は壊れた電化製品のように煙を上げて発熱した。


「! 大丈夫?! 冷水、冷水を持ってこないと!」


「大丈夫だよ、このくらい。その、ゴメンね、お姉ちゃんの力作を台無しにしちゃった……。やっぱりこれは魔方陣じゃなかったのかなあ……」


 しょんぼりと申し訳なさそうにするユズに、ミカンはこう声をかける。


「謝らなくていいよ! それに、これ、やっぱり魔方陣だよ、きっと!」


「でも……」


 魔方陣が縫われていた布に目をやるユズ。未だ黒い煙を上げているそれは、明らかに失敗作に思えるが。


「そもそも魔方陣ですらない模様は、魔力を流しても何も起こらないんだ~。こんな風に発熱するのは、失敗作の証拠なの~」


「そうなの? でも、図面と全く同じに見えたけど……」


「えーっとね。魔方陣は糸の重なり方、つまりどっちが上でどっちが下か、が質に影響するの。特に複雑な魔方陣は、その順番如何いかんが重要で、少しでも間違えば失敗扱いになるの」


「ええ?! ……でもこの魔方陣、交差点が無数にあるよね?」


 まさか全部試さないといけない……? ユズは不安そうにミカンを見る。


「レベルが上がれば、魔方陣の鑑定精度が上がるの。そうすると、見れる情報が増えるんだ。だから、総当たりしなくてもいいんだよ。ただ、今の私のレベルだと、魔方陣の情報どころか、これが魔方陣である事すら見破れなかったから……」


「なるほどね~! つまり、レベルが上がれば、この魔方陣を作れるようになる?!」


「たぶんね! だけど、もうすぐ期末試験があるから……」


「あ、そうだよね……」


 ミカンさんは特待枠で受かっている以上、いい成績をキープする必要がある。まだ期末試験まで二週間はあるけれども、そろそろ勉強を始めないといけない。


「う~ん。あ、そうだ! 部長さんに頼んでみる? 私よりもレベルが高いはずだよね! 昇進したって言ってたし!」



 部長さんの職業ジョブは【アイテムマイスター】。魔方陣を日々研究し、芸術の域に達することを目標とする職業ジョブだ。彼女であればこれを研究・製作できるかもしれない。


 こうして魔方陣の図案は部長さんの手に渡ったとさ。



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