お疲れミカンさん
「そうだ~! せっかくライチョウさんに来てもらったんだし、ダンジョン外の世界を見せてあげない?」
「なるほど、確かにライチョウさんはこういう形でしか外の世界を知れないものね。うん、いいんじゃないかな」
『グア~、グアグア~!』
「ライチョウさんも『面白そうなの、行ってみたいの~!』って言ってる! じゃあ、早速出発♪」
外に出ようとするユズちゃん。ちょっと待って、そのまま外に連れて行くのは不味くない?
「鳥を抱えて歩いてたら、周りの人から奇異な目で見られるよ!」
ダンジョン内みたいに人通りが少ない場所ならいざ知らず、東京の町を採りを抱えて歩くのはさすがに、ね。
「あ、確かに……。どうしよう、一人で行く?」
『グアグア』
「そっか……。えっと、ダンジョン外だとエネルギー供給が無いから、あんまり飛びたくないんだって」
「? ごめん、もう少し詳しく教えてくれない?」
ライチョウさんが教えてくれた内容は非常に興味深かった。簡単に言うと、ダンジョン内で生きている彼らは、ダンジョンから行動に必要なエネルギーを得ているらしい。それが今は絶たれており、飛ぶような激しい運動は出来ないらしい。
また、強力な魔法攻撃も封じられているらしい。生活に必要なレベルの魔法は使えるらしいけど。
「飛べないなら……鳥かごに入ってもらうとか? ハル、鳥かごってある?」
「ごめーん、持ってない……。虫かごならあるけど……」
なるほど、確かに鳥かごに入ってもらえば幾分違和感が減るかもしれない。けど、ここにはそんなものない。
「「「「うーん」」」」『グア……』
私達が顎に手を当てて考えていると、ライチョウさんも顎に羽を当てて考え始めた。……可愛いのだけど、ちょっとシュールで面白いわね。
「あ、そうだ~! 私、良い事思いついた♪」
「いいこと?」
「どうするの?」
「木を隠すなら森の中だよ!」
「「「?」」」
◆
えー。現在私たちはハルちゃんの家からユズちゃんの家まで散歩しています。ライチョウさんと幾つかのぬいぐるみを抱えて。
ユズちゃんの提案内容は「みんながぬいぐるみを持っていれば、ライチョウさんもぬいぐるみと思われるのでは?」という物だった。
幸い、ハルちゃんの家にはいっぱいぬいぐるみがあったから、一人二つか三つずつぬいぐるみを抱える事が出来た。
「確かに、あまり目立ってないね!」
「いや、十分目立ってる気が……」
「あはは~。まあライチョウさんだけ抱えてるよりはマシなんじゃない?」
道行く人がちらっとこっちを見ている気がするが、変な目で見られてはいない。途中で小学生くらいの女の子から「わあ、ぬいぐるみさんだ~」って言われたけど、鳥だけ本物だと気づかなかった。
こうして私たちはユズちゃんの家まで移動することが出来た。ライチョウさんに感想を聞いてみる。
『人がいっぱいでびっくりしたの! あと、途中で嗅いだ、甘辛いにおい、おいしそうだった!(ユズ訳)』
散歩中に通った、甘辛いにおい? あ、それって!
(ねえ、それって……)
(まさかとは思うけど……)
(でも、甘辛いと言えば、あれしかない)
(ど、どうしよう……)
((((それって焼鳥屋さんだ……))))
視線だけで私たちは全てを語り合った。どうしよう? いや、ライチョウとニワトリは全然違う鳥だし問題ないかもしれないけど……。
実際、ほかの鳥を食べる鳥だっているし、問題ない? でも、地雷だったら困るし……。
「あ、アレは高くて買えないけど、代わりの物なら作れるよ!」
「そ、そうだね! ハンバーグとかどう?」
「あと、牛カツとか?」
「いいね~! じゃあ、早速作るね~!」
『グア?』(なんか慌ててる?)
◆
その日、ミカンは「発展補習」を受けていた為に帰りが遅くなってしまった。発展補修とは、放課後に授業で取り扱わないような難しい内容の勉強をする授業の事で、希望者十数名が受けている。
ちなみに、今日議論した問題はこれ。
Q. 一辺2cmの正方形内に点を5つ打った。点同士の最小距離が√2cm以下であることを示せ。
そして解答はこうだ。
A. 田のように正方形を4分割する。点を5つ打つと、必ず4分割した物の内、少なくとも1か所で点が2個以上入っているはずである。(境界線上の場合、どちらか一方に属すとみなす)
点が2個入っている正方形に注目すると、その点同士の距離は√2cm以下である。
このように、「n分割した物にn+1個以上の物を入れると、少なくとも1か所で2つ以上入る」事を「鳩の巣原理(Pigeonhole principle)」と言う。
「ただいま~。今日の数学も難しかったなあ。こんなの初見じゃ思いつけないよ~」
そうぼやきながら、リビングに入ると……。
『グア~』
どういう訳か、真っ白な鳥がいた。
お皿に乗ったハンバーグを食べているようだ。
「……?」
理解できないといった表情のミカン。目の前で起きている現象があまりに非現実的だったために、彼女の脳がパンクしてしまったのだ。
例えば、家で鳥が食べ物を漁っていたら、一瞬驚くだろうがすぐに「どこかから入ってきたんだ!」と思うだろう。
また、鳥がお皿に盛られたご飯を食べていたら、一瞬驚くだろうがすぐに「妹が連れてきたのかな?」と思うだろう。
しかし、ミカンが見た物はそのどちらでも無かった。
『グア~?』
彼女が見たのは、ナプキンをつけた鳥が、ナイフとフォークを器用に使ってハンバーグを食べている姿だったのだ!
「……どうしよう。勉強のし過ぎで幻覚が見える……。今日、鳩の巣原理を勉強したからかなあ……」
『グア~。グア~グア~』
「部屋で休もう……」
ミカンは目頭を押さえながら、自室に戻っていったのだった。
◆
「あ、ライチョウさん食べ終わった~? じゃあ、お皿洗うね」
『グアグア~。グア~』(ごちそうさまでした~。とっても美味しかったの~)
「はい、お粗末様でした~。お口に合ったようでよかった♪」
『グア~』(そろそろ帰らなくちゃなの~)
「そうなの? じゃあ、またね~」
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