質問きてた!

 質問きてた!


『【アイテム職人】でカンストしたのですが、昇進先が二つあるようです。どっちになるかテキトーに選ぶのは犯罪ですか?』


「結論、犯罪。無期後悔の刑になる」



 ……コホン。おふざけはここまでにして、事情を説明していこうかな。

 下級職業ジョブはカンストすることで、上級職業ジョブに昇進することができる。【魔法少女】が【アイドル】になるようなものね。


 ここで、【魔法少女】の昇進先は【アイドル】一択だったけど、実は複数の昇進先が用意されている職業ジョブもある。

 分かりやすいのが【火術師】の昇進先。火属性のみを極める【火魔導士】か、他の属性も使えるようになる【魔女】の二択が用意されている。


 さて、【アイテム職人】はというと、これも複数の育成ルートが用意されている……という設定だった。プレイアブルキャラじゃなかったから詳しくは無いのだけど、設定資料集は読んでいるからある程度は知っているよ。

 昇進先は【アイテムマイスター】【アイテムプロデューサー】という二つの通常ルートに加え、特殊ルートの【アイドルサポーター】がある。


【アイテムマイスター】

 マジックアイテムの製作を極める者。今まで以上に複雑な魔方陣を組むことができるようになり、完成品は一種の美術品のように扱われるだろう。


【アイテムプロデューサー】

 マジックアイテムの大量生産を目指す者。魔方陣を高速で編む〈魔方陣ミシン〉などのスキルが解放され、多くのマジックアイテムを生産できるようになる。


【アイドルサポーター】

 アイドルの為に様々なアイテムを作る者。アイドル専用装備しか作れなくなる代わりに、強力なバフが付与されたアイテムを作れるようになる。


 ちなみに、【ダンサーサポーター】という職業ジョブもあるが、これは【エンジニア】の昇進先であり、【アイテム職人】とは無関係。



 さて、今回私に質問してきた人は、例の部長さん。もう卒業して今は大学生だから、部長さんって呼ぶのは間違ってるかな?

 部長さんは大学生になってから今まで以上にマジックアイテムを生産するようになったらしいから、カンストに届いたみたい。すっご……。もっと深層のアイテムがないとカンストには届かないって予想してたんだけど、それ以上に部長さんが努力したって事だろう。


 さて、部長さんが条件を満たせてるのは【アイテムマイスター】【アイテムプロデューサー】の二つらしい。ふーむ。


 個人的には【アイドルサポーター】になってくれると嬉しい。が、それを押し付けることは出来ないだろう。

 部長さんはダンジョン関係者以外が使うようなマジックアイテムを作りたいと考えていると、ミカンさん経由で聞いている。だから【アイドルサポーター】は最初から眼中にないのだろう。


「結局は部長さんがどうなりたいか次第なのよね。商業的にアイテムを作って売りたいなら【アイテムプロデューサー】かなあ。いや、単純作業は他の人に任せて、自分は【アイテムマイスター】として活躍するって言う方が自然なのかな?」


 個人経営なら「社長自ら大量生産品を作る」っていうのも変ではないけど、部長さんは超お嬢様だから個人経営の段階はすっとばして、いきなり大企業を作ってそう。


 などを、いい感じにスライドにまとめて送っておいた。



◆ Side 部長さん



「わざわざスライドを作って送ってくださるなんて、まめな方ですわね」


 軽く相談くらいのつもりでメッセージを送ったら、パワーポ……ではなくスライドファイルが送られてきたものだから、少々驚いてしまった元部長。しかも相手は中学生と聞いているから、なお驚きである。


「ふむふむ、なるほど……。特殊ルート?」


 特殊という文字に思わず目が行ったようだ。そこには「部長さんの目指す姿ではないと思いますが」という前置きとともに、意味不明な事が書いてあった。


「【アイドル】専用装備を作る事が出来る? 強力なバフが付与される? ……そんな職業ジョブがあるのかしら?」


 ネットで調べるも、当然そのような情報は出てこない。


「そういえば、ミカンさんの妹さん達は『アイドルになりたい』と言っていたと聞いていますわ……。まさか、芸能人としてのアイドルではなく、そういう職業ジョブになりたいって意味だった……?」


 彼女は気が付いてしまった。芸能人としてのアイドルの職業ジョブは【芸能人】になるのだが、それとは別で【アイドル】という職業ジョブがあると。


「『部長さんはダンジョン関係者向けの装備ではないアイテムを作りたいと聞いておりますので、この線はないでしょう』という事は、【アイドル】はダンジョンを攻略する為の職業ジョブ? ということはまさか!」


 彼女はついさっきまで、「ヒメたちは芸能人としてのアイドルを目指しており、既にどこかの事務所に入っている。そこでダンジョン産の高級アイテムを貰って、自分たちに渡していた」と考えていた。

 実際、芸能人の中にはそういう事をしている人が多数いる。


 けれど、それは完全な間違いだった? 彼女達は自らの手で高級アイテムを取りに行ってた? 深層級のアイテムを? もしそうなら、【アイドル】は尋常じゃない強さの職業ジョブという事になる。


「一度聞いて……。いえ、辞めておきましょう。職業ジョブはその人の商売道具、教えてはもらえないでしょう。ましてやそれが強力なジョブなら、広めたくはないでしょうし」


 ああ……。どうしてそうなっちゃうかなあ……。


 しかし、彼女がこう考えるのも十分納得できる。むしろ、彼女の考えこそが自然だろう。


「異性との恋愛NG」という制限があるとはいえ、【アイドル】は誰でも簡単に就く事が出来る職業ジョブだ。その詳細が知られたら、瞬く間に【アイドル】が増え、ドロップアイテムの価値は下がるだろう。

 実際、過去に【アイドル】の取得条件を満たした人は何名かいた。しかし、彼ら彼女らはそれを隠したのだ。だから【アイドル】は広まらなかった。



 その日、やはりヒメは誤解に気づけなかった。



 ちなみに、手芸部元部長は【アイテムマイスター】になる事にした。


 さて、この職業ジョブにはヒメも知らない大きな落とし穴があった。それがレベル上げの難しさである。【アイテムマイスター】がレベルを上げるには、複雑で難解な魔方陣を組む必要があるのだが、そんな魔方陣を一から生み出すのは困難を極める。

 だから初めは誰かから高難易度の魔方陣を教えてもらって、それにアレンジを加えていくのが筋である。しかし手芸部元部長の周囲にそれを教えられる人はいない。


 手芸部元部長の未来や如何に……。



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