海老舗の○○

 スリップシュリンプのドロップアイテムは食用のエビ。エビフライ、エビチリとして頂いてもいいし、ピラフやスパゲッティーの具材にしてもいい。とっても美味しいわよね。

 だから今日も聖氷クエストの調査がてら、スリップシュリンプを倒していたのだけど、そこでエビ以外の物がドロップした。


「なんか変なのが落ちたよ!」

「なんだか罠みたいな見た目だね~。トラバサミって言うんだっけ?」


 そんなのドロップしたっけ、と思いつつ、二人が持ってきたドロップアイテムを見る。


「ああ、これかあ。これは罠じゃないよ」

「これって……かんじきだよね」


「「かんじき?」」


 おお、リンちゃんは知っていたみたいね。正解、これはかんじきって言う足装備の一種よ。


「これ、靴だったの?!」


「違う違う。見てて」


 リンちゃんはかんじきを靴に取り付けてみせた。


「かんじきは、こんな風に靴に取り付けることで雪の上を歩きやすくする、日本の伝統的な道具。接地面積が増えるからふわふわな雪の上でも歩きやすくなる。っておお、本当に歩きやすくなった」


 リンちゃんが説明してくれたように、この道具は靴に取り付けるものなの。小さなスキー板、とでもいえばイメージが沸くかな?

 さて、リンちゃんがこれを装備したという事は……ふふふ、面白い効果が現れるはず。私はハルちゃんとユズちゃんにも「軽くそこらを走ってみて」と告げる。


「? 分かったー。ってわわわ! 雪の上じゃないみたい!」

「すっご~い! なんだか不思議な感じだね♪」


「え? どういう事?」


 リンちゃんが、そしてユズちゃんとハルちゃんも私の方を見る。それじゃあ種明かしをしようかな。


「この装備の名前は『海老えびのかんじき』もしくは『うみ老舗しにせのかんじき』って名前の足装備なの。これを装備するとパーティー全体に〈悪路耐性〉が付与されるわ。雪の上だけじゃなくて、泥の上を歩く時にも役に立つんだよ」


「え? 『装備者に』じゃなくて『パーティー全体に』なの?」


「そう」


「ええ……」


 リンちゃんが変なものを見る目で自身が装備するかんじきを見た。あはは、そういう顔をするのも納得よね。

 これはゲームという性質上、仕方がなかった事だね。装備者だけに〈悪路耐性〉が付いたら、移動速度がまちまちになってしまうでしょ? ゲーム的にそれは困る訳で、だからこういう種類のバフはパーティー全体に付与される仕様なの。


「なるほどね、すっごく便利だね!」

「うん、謎な点はあるけど、便利ではある」

「だけど、その~。アイドル衣装には合わないよね」


 ユズちゃんが言うように、正直、アイドルのフリフリ衣装とかんじきはあまりにミスマッチなのよね。


「撮影外で使う感じだねー」


「そっかあ~」



「あれ~? あそこにいるのってライチョウさんじゃないかな?」


「ほんとだー! おはよう、ライチョウさん!」


『グア? グア~』


 召喚したわけでもないのに、こうしてばったり出くわす事ってあるんだ。ゲームではこんなことなかったけど……リアルだとこんな事もあるんだね。おーよしよし、いいこいいこ。相変わらずお前はもふもふだねー。

 その後、しばらくライチョウさんと遊んでいるときに、キツネ型の魔物が現れた。こっちももふもふだけど、魔物だからよしよししたりは出来ない。残念。


『グア! グア!』


「え~っと。ヒメちゃん、ライチョウさんが代わりに戦うよって言ってるんだけど、どうする?」


「そういえば、まだ一回も召喚したことなかったよね。じゃあ、この機会にライチョウさんの強さを見せてもらおっか。ユズちゃん、召喚してあげて」


「え、隣にいるのに?」


『グア、グア、グア―』

「そのままじゃ、ライチョウさんと魔物は戦えないからね」


 大前提として野生動物と魔物は、特殊なクエスト中じゃない限り互いに干渉しない。だから、今の状態だとライチョウさんは魔物に攻撃できないし、逆に魔物もライチョウさんに攻撃できない仕組みになってるの。

 ここで、ユズちゃんがライチョウさんを召喚すると、ライチョウさんは一時的に私たちのパーティーに入っている扱いになる。こうなって初めて、ライチョウさんは魔法を使えるようになる。


「すごい、ライチョウさんとヒメちゃん、すっごくシンクロしてた! 分かったよ、〈サモン・ライチョウ〉」


 ユズちゃんが魔法を使うと、目の前にいたライチョウさんがふっと消えて、再び目の前に出現した。なるほど、こんな風になるのね。


『グア!』


「「「「飛んだ?!」」」」


 ライチョウさんはバサッと狐の頭上目掛けて飛んでいった。君、飛べたんだ! いっつも歩いてるから、飛べないか飛ぶのが苦手だと思ってたよ。


『グーーア!』


 ライチョウさんが一声鳴くと、その体がバチバチと雷を出し始めた。おおー、やっぱりかっこいいね。ゲームではもうちょっと控えめだった覚えがあるけど、このド派手なエフェクトもカッコいいわね!


『グア!』


 バチバチバチ!


 鶴の一声、ではなくライチョウの一声で帯電していたその体から一筋の稲妻がキツネ型魔物に放たれた。キツネはその場でばたりと倒れて、ドロップアイテムに変化した。


「やっぱりなかなかの威力ね」

「「「つっよ!」」」


 あれ、三人ともそんなに驚く?


グアどや~』


「すっご。すっご! すっごくかっこよかったね!」

「想像以上に有能じゃん……」

「お疲れ様~。よしよし~」



 後からハルちゃんに聞くと「正直、あんなに強いと思ってなかった」との事。またリンちゃんは「失礼ながら、ただの癒し要員だと思ってた」とコメントした。


 ちなみに、ロボマネージャーさんが、ライチョウさんの雄姿を撮影していたのだけど、すっごくよく撮れてた。こうやって見ると、神々しさすら感じるわね。

 っていうか、ロボマネージャーさんって、召喚した動物にフォーカスを当てて撮影する事も出来たんだ。てっきり【アイドル】しか撮影できないんだと思ってた。





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