変異種?

 ある日、みんなで散歩……ではなく聖氷の手掛かりを探すべく調査を行っているときの事だった。


「? あれってスリップシュリンプ?」


 そう言いながらリンちゃんが指さした先には、確かに巨大なエビのような生き物がいた。しかしながら、ここはスリップシュリンプがいる湖から離れた場所。何か異常事態かしら?


 今の所、向こうはこっちに気が付いて無さそう。よし、近づいて観察してみよう! 私たちは気づかれないように、だけど見失わないようにスリップシュリンプに近づいた。

 そして、ようやくスリップシュリンプの全身が見えると、それは奇妙な特徴があった。


「えっと……何あれ?」


 思わずそうつぶやいてしまう。そこにいたのは……


「スキーをしてるエビさんだね!」

「流石ダンジョン、相変わらず意味が分からない」

「よく見たら、スキー用ゴーグルをつけてるね~」


 ゴーグルをつけ、スキーをしているスリップシュリンプだった。え、スリップシュリンプってスケート以外の事もするの?


「ねえ、ヒメちゃん! あれはやっぱり何かのイベントかな!?」


「かもしれないわね。よし、後を追うわよ!」


 ようやく何かのヒントを見つけたかもしれない! はやる気持ちを抑えつつ、スリップシュリンプ(?)の後を追う。


「気づかれたら不味いよね~?」


「スリップシュリンプは聖氷を『守っている』らしいし、見つかったらダメな可能性はあるよね」


 後を追っているのがバレたら、クエストが中断されるかもしれない。実際、似たようなクエスト、つまり敵の索敵範囲内に入らずに何かをするクエストはいくつかあるからね。これもその一環なのかもしれない。


 後をつける事、30分。目的地についた。そしてそれは、私たちがよく知る場所だった。


「あれ?」

「いつもの湖?」


 あっちこっち巡った末に、いつもスリップシュリンプが踊っている湖に戻ってきてしまった。氷の上に立った瞬間、スリップシュリンプが身に着けていたスキー板とゴーグルはふっと消えて、スリップシュリンプは普通のそれと同じようにスケートをし始める。


「……クエスト失敗?」

「でも気づかれた様子はなかった」

「ただのミスリードだったのかな~?」


 ミスリードなんてことあるかなあ……? 変な個体、変な個体……。


「変異種、なのかなあ?」


「「「なにそれ?」」」


「変異種って言うのはその名の通り、他の魔物とはちょっと違う性質を持った魔物なの。例えば、普通は火属性の攻撃を仕掛けてくる魔物だけど、変異種は水属性攻撃をしてくる、みたいな」


「へえー、でもそれって危ないんじゃあ……」

「じゃあ、アレも普通のスリップシュリンプよりも強かったのかな?」

「見つからなくてよかったね~」


「うん、変異種って言うのはすっごく危険なの。だから、普通は600層より上にしか出ないはずなんだけど……」


「なぜかこんな低い階層にいたんだね、なんだか不安……」

「私、この展開知ってる。きっと、ダンジョンの力が強まってきてる。スタンピードの予兆だね」

「ええ~! そ、それは大変だよ!」


 リンちゃんが縁起でもない事を言って、それをユズちゃんが真に受ける。も、もしそうなら大変だよ! でも、そんな危険なイベント、この世界観に合わないよー!


「とりあえず、リンちゃんはラノベの読みすぎ! 怖いこと言わないの!!」


「ごめんごめん。つい」

「でも、リンちゃんが言うようなこともあり得るかもしれないよ……? 誰か詳しい人に相談した方がいいんじゃあないかな~?」


 うーん、でも有識者なんているかなあ?




 ……あ。




「GCショップの店員さんに聞いてみる?」



「……という事があって」


『なるほど、それでここに来たんだね! うーん……それが変異種だったのかーとかそういうのは私たちは知らないし、仮に知っていても教えられないんだよね。だけど、ダンジョンから魔物があふれ出す、なんてことは起こらないよ! ラノベじゃあるまいし』


 確かにラノベじゃないけど、ゲームじゃん。と心の中でツッコむ私。

 まあ、妖精さんがそう言ってるなら気にしなくてもいいのかな? そもそも、あの個体が変異種だった確証もないわけで。

 そもそも、変異種は生まれてから死ぬまで変異種のはずなんだよね。でも、さっきのスリップシュリンプは元の姿に戻った。あれは変異種ではなく、ダンジョンなりの遊び心なのかなあ?



 ちなみに、私が頭を悩ませている間、リンちゃんはと言うと妖精さんとラノベ談義に花を咲かせていた。


「あれ、妖精さんもラノベとか知ってるんだ」


『もちろん! 外の世界の流行はある程度知ってるよ、最近アニメが放送された『狂気の塔のラプンツェル』って作品、よかったなあー』


「分かる。詠唱とかかっこいい」


『そう! 原作も読んだけど、まだまだカッコいい詠唱があるから、二期も期待なんだよねー!』






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