聖氷を求めて

何の成果も得られ無かったわけではない

 シルバーコードの材料の内、唯一まだ見つかっていない「氷上を舞うえびが守る聖氷」、その調査の為にスリップシュリンプが生息しているエリアにやってきたわ。


「相変わらず滑ってるねー!」

「知ってはいたけど……やっぱりシュール」

「今日の晩御飯はエビフライかな~」


「あー。ユズちゃんが楽しみにしているところなんだけど、今日はスリップシュリンプは倒さないでおこうと思ってるの」


 私がそう宣言すると、三人が「え、なんで?」という顔をする。


「今日は地形的に怪しい所、例えば不自然にくぼんでる所とか、がないかをしっかり確認したいの。あとは、攻撃しない事で何か分かるって可能性もあるし」


 私たちプレイヤーはそうやってクエストのヒントを探してきた。魔物と戦うのも大事だけど、戦いを避けて探索するのも重要なのよね。


「なるほど、人間の注意力には限度がある。戦わずに探索するのも一つの手」


「そういう事!」


 一週間ほどかけて42層全体を、念のために41~50層も、探索したけど、関係してそうなものは見つからなかった。



 ただ、収穫がなかったわけではない。まずは植物関連で「アイスウィード」っていう半透明の花を咲かせる植物を見つけたわ。クエストをクリアすると、アイスウィードの種を入手! 一定範囲に「寒冷」を付与する事が出来るみたいね。


「使いどころが少なそう? 『体表に火が露出している敵に対し、火属性攻撃力を10%ダウン』って制限、厳しすぎない?」


「確かに何匹かそういう敵はいるけど……」

「正直、使いどころは少なそうだよね~」


 リンちゃんが、そして他の二人も言っているように、この植物の効果はそんなに強くない。だけど、使い道がないというのは間違いで。


「これはフィールドの飾りつけ用だね。映えないスポットに彩りを持たせる為の物なんだよ」


「あ、なるほど」

「ハルたち、攻撃の事ばっかり考えてたけど。そっか、そういうアイテムもあるんだね!」

「強さばかり求めたらダメって事だね! なるほど~」


「それに、使える種の数に制限はないからね、持っておいて損することはないし」


 他にもいくつか植物関係のクエストは見つけたけど、どれも重要じゃなかったから割愛。



 次は動物関係を、歩き疲れてのんびり休憩している私たちに、それは近づいてきた。そして吠えた。


『グアー!』


「「「「?!」」」」


 敵の襲撃かと、慌てて後ろを振り向くと、そこには一匹のずんぐりむっくりした鳥が。


「わあ!」

「かわいいー!」

「もふもふだね~」


 ハルちゃんユズちゃんは、そして私も、その何とも可愛らしいフォルムをみて、思わず近づく。リンちゃんはというと、一歩離れたところから私たちを見ていた。


「これって、もしかして、あの某お菓子で有名な?」


「うん、ライチョウみたいだね」


『グア~。グアグア~』


 私たちの目の前に現れたその鳥の名前はライチョウ。国の特別天然記念物で絶滅危惧種にも指定されているこの鳥を、まさかこんなところで見られるなんて。

 いや、ダンジョン内にいるものは、外にいるそれとは別物だけど。


「なんて言ってるか分かる?」


「えっと、『人間さんなの~。こんにちはなの~』だって。こんにちは~」


「「こんにちはー」」「どうも」


 え、えっと……。なかなか可愛い語尾ね。小説とかで「セリフにキャラ付けしたいとき、無理やり使う語尾ランキング」の第38位くらいにありそうよね。あ、エビデンスがある訳じゃないよ。

 にしてもこのライチョウ、とっても可愛いね。とってももふもふ~。


『グア~』

「『何してるの~?』だって。えっとね……」


 ユズちゃんがここまでの経緯を説明する。なお、その間ライチョウはユズちゃんの膝の上で撫でられていた。うーん、かわいい×かわいいでとっても絵になるわね! あ、ロボマネージャーさん、あとで写真送ってねー。


『面白そうなの~。でも、私は何も知らないの~。ごめんなの~。あ、そろそろ帰らなくっちゃなの~。また話そうなの~。困ったことがあったら、手伝うの~(ユズ訳)』


 こうしてライチョウが仲間になった。え、クエストクリアしなくていいの?

 ……そういえばライチョウは人懐っこいって聞いたことがあるわね。だからクエストをこなさなくても良かったのかな?

 それか、ユズちゃんの撫で方が上手かったから……? その可能性も否定しがたいわね。


『グア~』


 そう言って、ライチョウさんはどこかへ歩いて行った。飛ばないんかい!





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