ゴールデンウィークの出来事

 カピ薔薇のドロップアイテムは「カピ薔薇印のボディーソープ、シャンプー、入浴剤」の三点の中からランダムで選ばれる。

 ボディーソープとシャンプーは使い切りサイズの物で、入浴剤も一回分しかドロップしないわ。これらは本来の用途で使うこともできるし、加工することでツルツルボムというアイテムにすることもできるわ。

 ツルツルボムは敵の足元に投げて爆発させたら、一定時間敵が移動しなくなるっていうアイテム。初心者用のお助けアイテムって感じね。


 もちろん私たちは本来の用途で使うつもり。アイテムありきで攻略しちゃうと、本来の自分たちの実力を見誤る事になるわ。


「そこそこドロップしたけど……」

「入浴剤だけ一個しか落ちなかったね~」

「どうする? 全員分が集まるまで周回?」


 困ったなあ。換金アイテムならお金にして四等分できるし、育成アイテムなら順番に使えばいいけど……。


「こういうアイテムは分けれないからなあー」

「食べ物なら、持ち帰ってみんなで食べれるけどね~」


 そうなのよね。あ!


「そっか。その手があるわね。前みたいにリンちゃんの家のお風呂を借りて、みんなで一緒に入るとか?」


「なるほど! その手があったね!」

「な、ナイスアイデア! 流石ヒメちゃん♪」

「ちょうどゴールデンウィークが始まったし、みんなでお泊り会しよっか」


 こうして、お泊り会が開かれることになった。



「ハル、入浴剤って初めて使うかも!」


「そうなの? じゃあ、初入浴剤だね」


「うん! だから、これ入れるのやってみていい?」


「もちろんいいよ」

「けど、ポイって入れるだけだよ?」


 ハルちゃんはこれが初めての入浴剤かあ。

 もう十年以上生きてるわけだし初めてって事はないんじゃあ、と一瞬思ったけど、思い返してみれば私もこっちに来てからは一度も使ってないわね。前世では使った覚えがあるけど。


「じゃあ、湯船につかる時に入れよっか? シュワシュワってなるの、見たいんじゃない?」


「? シュワシュワってなるの?」


 そこからかあ。

 ともかく、まずは体を洗わないと。前にみんなでお風呂に入った時と違って今日は気温が高めだったから、みんなで洗いっこすることになった。


 ごしごし

 ごしごし


「うーん」


 洗いっこしていると、ハルちゃんが私の方をじっと見てきた。


「どうかした?」


「ヒメちゃんの、前よりおっきくなってるね! ユズちゃんくらいある?」


 私の胸をジーと見つめた後、ハルちゃんがそう言った。


「そうかな? ハルちゃんのだって……成長してるじゃない」


「でも、四人の中で一番小さいし……どうすればいいかなあ?」


 ハルちゃんもそんなこと気にするようになったんだー。私はほっこりした気持ちになった。

 おっと、ハルちゃんは真剣に悩んでるみたいだし、私も真摯にならないとだよね。


「まだまだ成長期は続くんだし気にする必要もないと思うけど、気になるならマッサージするとか?」


「そんなのあるの?!」


 ハルちゃんが驚く。ちなみに、リンちゃんも一瞬こちらに目を向けたことを私は見逃さなかった。


「ほんとに効果があるかは分かんないけどね」


「どんなマッサージなの?」

「詳しく」


「えーっと。こう、リンパをほぐすように……」


「こんな感じ?」


 ぐりぐりと鎖骨の下を押すハルちゃん。うーん、ちょっと違うような?


「えーっと、一回代わりにやってあげるね。あ、触っていい?」


「うん、もちろんいいよ」


 言ってから後悔してもなんだけど、「触っていい?」なんて改めて聞いたのは変だったかな? 相手の身体に触るのなんていつもやってることだし。で、でも、服を着てない状態だと、こう、違うじゃん? まあ、まあハルちゃんが気にしてないみたいだし、過去の失言を気にし続けるのは辞めよう。


 その後、ハルちゃんをマッサージしていると。ユズちゃんが何かに気が付いたように「ああ!」と声を上げた。


「あのマッサージってそういう事だったんだ~!」


「「「?」」」


 後から聞いた所によると、ミカンさんが似たようなマッサージをしていたらしい。で、何をしているのか聞いたら「元気が出るマッサージ」と言われたから、自分も真似していたとか。

 ミカンさん、あなた……。いや、何も言うまい。



 体を洗い終わったら、いよいよ入浴剤の出番。「カピ薔薇印の入浴剤」は温泉に浸かるカピ薔薇のイラストが彫られた、バラの香りがする入浴剤よ。それをハルちゃんが湯船に沈めると、シュワシュワと泡を立てながら水が桃色に染まっていった。


「すごい、コーラみたいになってる!」


 ハルちゃんは入浴剤を拾い上げて手の上に乗せて観察しはじめた。ユズちゃんも一緒にジーっと眺めている。


「リンちゃん、ヒメちゃん! これって何が起こってるの?」


「炭酸水素ナトリウムと有機酸の中和反応で二酸化炭素が出来てる」

「お風呂から出たら実験してみよっか。材料、ある?」

「重曹とレモン汁だね。あるはずだよ」


 まあ、この入浴剤はダンジョン産だし、化学反応でシュワシュワしているのか怪しいけど。


「いいにおいだね」

「ねー! ヒメちゃんみたいな香りだねー」


 へ?


「あ、分かるかも、それ~。ヒメちゃんって、なんだかいい香りがするよね♪」

「姫香って名前なだけあって、高貴なにおいがするよね」


 私ってそんなにおいがするの?! というか高貴なにおいって何?!




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