新陳代謝

 突然だけど新陳代謝っていう言葉、知ってる?

 これは「次々と古いものが新しいものへと置き換わっていくこと」を指した言葉よ。また、転じて細胞が次々と入れ替わっていくことを意味することもあるわね。


 この言葉を初めて聞いたとき、「代わるはともかく、なんで謝るって漢字を使うのかしら」と疑問に思ったわ。それで調べてみると、謝るって言う感じに「さる」っていう読みもあるみたい。つまり「新しいものに代わって、古いものがっていく」って意味みたい。


 えーっと。なんで急にこの話をしたのかと言うと、今回手に入れたアイテムが新陳代謝にまつわる物だったから。


 手に入れた経緯をざっくり説明すると、まず渦巻き型の模様が入った変わった花、名前は「グルグルしてそう」、のクエストを進めたことで「毒抜き薬」っていうアイテムが手に入ったの。毒状態を回復してくれるアイテムらしいのだけど、私たちにはハルちゃんがいるし、使いどころがないよねーって思ってたの。

 ところがどっこい、これを手に入れた直後にリスさんが現れて、私たちに『子供が病気なんです、助けてください!』って言ってきたわ。で、リスさんにこの薬を渡したら『ありがとうございます! 病気がすっかり良くなりました』って感謝された。


「病気?」

「毒じゃなくて?」


『ええ。もちろん毒にも効果がありますが、これは病気にもよく効くんですよ。その薬には代謝を高める効果がありますから』


「へー!」

「なるほど」


『そういえば、この薬をこの階層にいる魔物に飲ませたら、何か面白いことが起こると聞きました。試してみると良いかもしれません』


「「「「!」」」」


 という経緯で、私たちは「毒抜き薬」改め「代謝薬」を手に入れたという訳。そして今からこれをカピ薔薇に食べさせてみる予定なの。



 二匹のカピ薔薇がいる所へ移動した私達。さーて、見つけたはいいものの、これをどうやって食べさせれば?


「無理やり口をこじ開けるとか?」


 リンちゃんがなかなかバイオレンスな提案をしたけど、それはナシで。


「はいって渡せば食べてくれるんじゃない? ほら、美味しいよ~」


『キュルー?』

『カピー?』


「あ、こっち向いた」

「かわいいね~」


『キュルー!』

『カピー!!』


「こっちに走ってきた!」

「ちょ、これは不味いんじゃ……」


 カピ薔薇の集団はユズちゃんの手の上に乗せられた薬を食べようとする。……いや、そうじゃなくってこれは!


「ユズちゃん、手を引っ込めて!」


「え? きゃあ!」


 カピっと……ではなくカプっとユズちゃんの手に噛み付くカピ薔薇。すぐさまユズちゃんは手を引っ込めたけど、手からは血が……。

 カピ薔薇って魔物だもんね。近くに人がいたら、そりゃあ攻撃するよ。そしてそれはクエスト中だって同じ事。

 この世界は色々とイージーでご都合主義な世界。ダンジョンから脱出したらけがは治るし、死んでも生き返る。だから、つい私は気を緩めてしまった。反省しないと。そしてユズちゃんに誠心誠意謝らないと。


「〈ヒールソング〉! ~♪」


「あ、ありがと……。うう、怖かった~」


 ハルちゃんがすかさず回復魔法を使って事なきを得る。けれど、かなり怖かったようで、ユズちゃんはハルちゃんに抱き着いて涙目になっている。

 このやろう、よくもユズちゃんを泣かせたな! 私たちは二匹のカピ薔薇に攻撃しようとカピ薔薇の方を見て……。


「な、なんかプルプル震えてる?」

「何かを我慢してる……?」

「グスン、何かを振り絞っているように見えるね~」


 プルプルと小刻みに震えるカピバラ。そして次の瞬間!


『『カピー!』』


「「「「頭の薔薇が生え変わった?!」」」」


 なんと頭部についていた薔薇が抜け落ちて代わりの薔薇が咲いた。ええー! この薔薇って髪の毛みたいに生え変わる物なの?!


 あー、新陳代謝ってそういう事だったのね……。


「えーっと。取り合えずこの薔薇は回収しするよね?」


「うん、それでいいかと。それで、新しい薔薇が生えて満足そうな顔をしているそこカピ薔薇、どうする?」


「もちろん倒す! ユズちゃんを泣かせた罪を償ってもらう!」

「ユズを泣かせた。それは万死に値する」


 ハルちゃんとリンちゃんはやる気満々。ユズちゃんも魔法を準備してる。

 秒で二匹のカピバラはドロップアイテムに変わった。





 こうして、ちょっとした事故はあったけど、これでカピ薔薇の調査は完了! 次はスリップシュリンプについてだね。




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