この世界はイージーモード?

「この花、情熱の花なんて呼ばれているだけあって、地上のパッションフルーツとリンクしてるみたい」


「なるほど、じゃあハルちゃんの予想は正しかったみたいね」

「じゃ、じゃあ! まさかパッションフルーツを無限に生み出せる能力が手に入ったとか?! ってそんな訳ないか」


「そんな能力なら、ここまで驚かなかったのだけど……。こほん、少し話を変えるけど、パッションフルーツって漢字でどう書くか知ってる?」


 むむ、急に難読漢字クイズですか? えーっと。


「そりゃあ」

「やっぱり」

「“情熱果物”じゃないの?」


「ハズレ。実はパッションフルーツは“果物時計草”って書くんだ」


 へえー。いやいや、なんで?!

 パッションって部分がないじゃん!


「この花、細い花弁がいっぱいあって、中央に太いおしべとめしべがあるでしょ。この見た目から、パッションフルーツの和名は果物時計草なの」


「「「へえー!」」」


 そこまで説明して、リンちゃんは一呼吸置いた。そして、真剣そうな表情でこう語り始めた。

 ……真剣なリンちゃんの顔、カッコいいなあ。


「今回、ダンジョンで採取したこれは、和名が『情熱の花』だった。すると英語でなんて言うかも想像がつくよね。……そう『クロックフラワー』だった。そして、この種を吸収して得られるスキルは『時間の操作』らしい」


「「「え?!」」」


 時間の操作ってあの時間の操作?! 異世界物の主人公が、物語の終盤に手に入れる究極奥義的なアレ?! そ、そんなものが、こんな序盤で手に入って大丈夫なの?!


「過去に行ったり未来に行ったりできるの……?」

「時間を止めたり?」

「ずっとゴールデンウィークにできたりする~?」


「いや、そこまでの事は出来ないみたい。効果は『敵の時間を0.25倍に減速できる』っていう効果みたい。制限として『一日で最大1分しか使用できない』だって」


 な、なるほど。チートスキルって訳じゃないみたい? いや、十分凄いけど!


「とりあえず、試してみたい。いい?」


「「「うん!」」」



「じゃあ、いくよ。『咲き誇れ、クロックフラワー』」


 適当な場所にいたパニックバードをターゲットに、戦闘開始。すぐにリンちゃんがクロックフラワーの力を行使する。敵の周囲にクロックフラワーが咲き誇る。

 あ、パニックバードっていうのは、人を見るとクァー!と鳴いて、ランダムな方向に魔法を放つ鳥だよ。


『クァ?! クーーーーァーーーーーー?????』


 突然足元から花が生えてきて驚くパニクるパニックバード。バタバタと暴れ魔法を放つも、その速度が急激にスローになる。


「! これ、動きだけじゃなくて敵の放つ魔法の速度も落ちるんだねー!」

「我ながら、これは驚き」

「これなら、強い敵が相手でも、余裕だね♪ まあ今まで強い敵なんてあんまり見たことないけど……」


 まさかまさかの、弾幕の速度までゆっくりになってしまった。これは……。


「あ!」


 そういうことか! これって、ゲームで言う所の「お助けモード」ね!

 ゲーム『ダンジョンはアイドルのステージよ!』は、音ゲー兼アクションRPG。そのままクリアしようと思うとなかなか難しいのだけど、初心者向けの難易度も実装されていた。それが「お助けモード」、任意のタイミングで敵のスピードをゆっくりにする事が出来るの。まさに今みたいに。

 当たり前だけど、この世界では「メニュー画面を開いてお助けモードをオンにする」なんて事は出来ない。だから私は「リアルは初心者お断り?」と考えていた。


 だけどそうじゃなかった。この世界、序盤でこんなアイテムが手に入るのね! ちょっとアイテム収集に苦労するとはいえ、普通に【アイドル】をしていればこのくらいのクエスト、楽々とこなせるわ。この世界は私が想像してた以上にイージーモードな世界なのかも?


「どうしたの、ヒメ?」


「あー、ううん。これで色々戦闘が楽になりそうだなって」


「そうだね。ただ、カピ薔薇関連ではなかったけど」


 そういえば、本来の目的はそれだったね~。時間操作の魔法があまりに衝撃的だったから、私も目的を忘れかけていたわ。





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