あっちこっち

 カピ薔薇を普通の方法で倒しても頭についている薔薇を入手することは出来ない。ただ、もしかすると特定の方法で倒すとドロップアイテムが変わる可能性もある。


「それって、倒し方でドロップアイテムが変わるってことー?」


 ハルちゃんが不思議そうな顔で私に問いかけてきた。ちょっと上目遣いで私をじっと見てくるハルちゃんの視線を受け、私の寿命は10年延びた。

(※そんなことありません。たぶん)


「こほん。その通りよ。例えばカニの魔物を土属性で倒せば生のカニ肉、火属性で倒せば茹でガニ肉がドロップ、みたいにね」


「そういえばそんな事もあったねー!」

「じゃあ、色々縛りを付けて倒す?」

「水属性だけ、火属性だけ、歌だけ、色々考えられるよね……」


 ユズちゃんが言うように、縛りと一言で言っても色々考えられる。それを全部試すのはあまりにも大変。

 あ、ネットで検索するって言うのはナシね? そんな事をしちゃったら、せっかくのダンジョン探索が台無しになっちゃう!


「そうなんだよねー。……やっぱり薔薇だし、植物関係のクエストなのかなあ?」


「じゃあ、とりあえず周りに咲いてる花に〈花言葉〉が使えないか調べる?」


「そだね、よし、じゃあ明日は久しぶりにお花畑フィールドね!」



 結論から言うと。あっちこっちの花に〈花言葉〉が反応を示した。どれもカピ薔薇関連っぽいような、そうでないような……と言う感じの記載。しかも、見つかった物の多くは私も知らないクエストだから、除外することもできない。


「どうする、ヒメちゃん?」


 三人の視線が私を向く。けど、ごめん、私も分かんない!


「うーん、全く見当がつかないわね……。リンちゃんは何か気づいた事とかある?」


 花言葉のスキルを使った本人なら、何かに気が付いたりしたかも?


「全く。ユズはどう思った?」

「うーん……。サイコロでも振る? ハルちゃんはどう思う?」


 あらら、リンちゃんもダメみたいね。


「一周してハルに戻ってきた! えー、分かんない……。どれも気になるしー。じゃあ、ただの勘だけど『情熱の花』とか?」


 情熱の花っていうのは今回の探索で初めて見つけたつる性の植物よ。鮮やかな色で遠くから見たらきれいな花なんだけど、近くで見たらおしべとめしべの形が独特で、あんまり可愛くなかったわね。


「ちなみになんで?」


「情熱の花って英語にしたらパッションフラワーでしょ? 名前がパッションフルーツみたいだし、おいしそうだなって!」


 カピ薔薇と全く関係ないじゃん! ま、まあ中学生の興味なんて、あっちこっちに揺らぐものだから。


「でもこのクエスト、割と時間かかりそう? まあ、一週間くらいあればいけるか」


 リンちゃん、それってフラグじゃあ……。



 そして。現実とは無情なもので、リンちゃんの予想の二倍、つまり二週間もかかってしまった。

 というのも、ドロップが本当にツイてなかったのよね。レアドロップがなかなか落ちなかったり、逆にノーマルドロップが欲しい時はレアばっかり落ちて。

 あと、途中で調合が必要な場面が出てきたのだけど、ここでもなかなか成功を引けなかったんだよー。調合の本職である【魔法薬師】や【薬師】ならともかく、ミカンさんが調合した場合は一定の確率で失敗するシステムになっているのよね。


 調合に失敗すると、ボフンと煙が出て炭が出来上がってしまう。その煙のせいか、ミカンさんが涙目になってしまってちょっと申し訳ない気持ちになった。だから、ミノタウロスの肉でも取りに行って、ミカンさんに焼き肉をご馳走しようと思う。



※ミカンさん「この素材、絶対高級なやつだよね! だってきらきら光ってるもん! 失敗できない、失敗できない……。ああ、また失敗。(泣)」

※ミノタウロス「なんだろう、とんだとばっちりを食う未来が見えたような……」



「な、なんだか時間がかかってしまったね……。危うく本来の目的を忘れる所だったよ」


「あはは、確かに! よーし、これで美味しいパッションフルーツを食べるよー!」


「ハル、それ目的じゃない」


 などとおしゃべりしながらリンちゃんが〈植物との友誼プラントフレンドシップ〉を使用。クエストのクリアが認められて、アイテムがドロップした。


「これは……種?」


 リンちゃんの手の中にあったのは一つの種。キラキラエフェクトをまとっていて、いかにも大事そうな雰囲気があるわね。


「もしかして、植えたらパッションフルーツの木が生えてくる?!」

「パッションフルーツって有名だけど、実物は見たことないんだよね~」


 確かに。マンゴー、パイナップルとかは食べたことあるけど、パッションフルーツって食べたことないわね。どんな味なんだろ? ってそうじゃなくて!


「違うよ、これは私が吸収できる奴。そうだよね、ヒメ?」


「うん、そうだろうねー。当たりだったけど、カピ薔薇関連ではなかったね……」


 なかなか使いどころがなかったから、ここで改めて解説。リンちゃんのスキル〈花言葉〉〈植物との友誼〉を使うと、特定の花から「種」というアイテムが手に入る。

 そして、ここで手に入った「種」の力を吸収することで、戦闘時にスキル〈花園ガーデン〉を使えるようになるの。これを使うと、例えば「火の花」という花の力を手に入れたなら、フィールド内に火の花を咲かせることで敵に火傷ダメージを与える……みたいなことができるわ。


「情熱って名前だし、やっぱり炎関係なのかな? ハルちゃんはどう思う?」


「ハルはツタで敵を捕まえる攻撃だと思う! ユズちゃんはどう?」


「えーっと……。元気を与えてくれるスキルとか? バフみたいな。リンちゃん、この中に正解は合った?」


 私達三人の視線はリンちゃんに。リンちゃんは「すぐに確かめる」と言って、種を自分の胸に当てた。種の周りを飛んでいたキラキラエフェクトがまばゆく光って、リンちゃんに吸収される。


「「「じー」」」


「そんなに見なくても、私は逃げないから。えっと効果は……え、これマジ?」


 リンちゃんが驚いた顔をする。果たしてどんな力が手に入ったのかな?



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