未知と遭遇

 釣り餌(中)を使った釣りは最後の楽しみって事にして、まずは用意していたエサで釣りをすることにした。そして1時間弱経って、釣果はこんな感じになった。


・イワナやアマゴ、カワムツみたいな「普通の魚」が15匹

 その中でも、持ち帰れるサイズの物は5匹


・長靴、自転車のパーツみたいな「変な物」が20個

 その中でもドロップアイテムが落ちたのは5個、そのすべてが釣り餌(下)。


 うーん、ゲームなら割とポンポン連れたけど、流石にリアルではそうはいかないわよね。でも海釣りだと1時間粘ってもボウズ(全く釣れない)事がざらにあるし、この結果は普通に大漁よね。



「じゃあ、先に釣り餌(下)を使い切って、それからお待ちかねの(中)だね」


 マジックバッグの中に入れておけば問題ないとはいえ、釣り餌を持って帰るのもなあって思うし、この場で全部使い切ってしまおうと思う。


「(下)でも普通の餌よりはいいものが釣れる?」


 リンちゃんの質問に私は頷く。もしかしたら、すっごく大きなウナギとか釣れるかも! ウナギ、美味しいよね~。


「そのはず。じゃあ、まずはリンちゃんから行ってみよう!」


「楽しみ。任せて、すごいのを釣る。それ」


 さっきまでと違って、ちょっと真剣な面持ちでウキを眺めるリンちゃん。数分でヒットがきて、リンちゃんがリールを巻き始めた。


「! すっごい引いてる。今までと確実に違う……!」


「網、用意したよ~! 頑張って!!」


「ありがと。見えてきた……え? なんか光ってない?」


 リンちゃんが糸を巻くにつれて、魚の姿が見え始めた。それはなぜか光を発しており、明らかに普通の魚とは異なる。

 ……こんな現象、知らないんだけど?!


「ヒメ、あれって何?! 危ない物?」


「分かんない! けど、見たところ普通の魚だし大丈夫だと思う……」


「そっか。取り敢えず釣り上げるけど、危なかったら逃げよう。せーのっと!」


 リンちゃんが糸を引いて、ユズちゃんが魚を網に入れた。さて、いったい何が釣れたのやら……。

 私たちは恐る恐る網を覗き込んで中で暴れている魚(?)を確認する。


「虹色に輝いてるね……」

「もしかして、これがニジマス?!」

「いやいや、普通のニジマスはこんな無敵感あふれる見た目してないから。……でも、ダンジョンならあり得る」

「少なくとも、普通の魚じゃないよね~。やっぱり魔物なのかな?」


 その魚は虹色に輝く大きな魚だった。まさか本当に無敵……って事はないよね。でも、これはいったい何なんだろ?

 そう思っていると、突然リンちゃんが「は?」と言った。


「え、なにこれ……?」


 そう言って目の前を指さすリンちゃん。しかし、私たちの目には何も見えていない。


「どうしたの、リンちゃん?」

「そ、そこに何かいるの……?」

「突然のホラー展開……?」


「え、皆には見えてないの、これ? そっか……。えっとね、さっきこの魚を釣り上げたときに、こんな声が聞こえたんだ」



〔ゲーミングマス(50cm)を釣り上げました! 記録更新です、おめでとうございます〕

〔ハイスコアを記録しますか?〕



「「「え?」」」


 思わず「え?」って言っちゃったよ。えっと、なにそれ……? この世界のダンジョンって釣果にハイスコアが記録されるの……?! こんなのゲームには実装されてなかったんだけど!


「それで、今私の目の前に、名前を入力するパネルが浮かんでいる。とりあえず『記録する』でいいのかな?」


「たぶん……」

「でも本名は辞めた方がいいんじゃないかな? ゲームセンターに行った時、お兄ちゃんがそんな事を言ってた!」

「なるほど、GCショップの残高みたいに、見えない板がそこにあったんだね~」


「えっと、Linっと。〔記録されました〕だって。というか、ハイスコアに気を取られて忘れてたけど、これだけは言っておきたい。ゲーミングマスって何……?!」



 検証の結果、釣り餌(下)で釣りをすると、虹色に輝く魚が釣れるみたい。で、それはハイスコアとして記録されるみたいね。ゲーミングマス以外にも、ゲーミングウナギやゲーミングコイみたいな種類がいるみたい。


「じゃあ、最後は釣り餌(中)ね!」

「何が釣れるんだろ……」

「龍が釣れたりして」

「あり得るかも? 楽しみだね~」


 ハルちゃんが、勢い良く振りかぶってヒュンと仕掛けを飛ばした。お! なかなか良さげな場所に落ちそうじゃない?


 ぽちゃん……。


 …一分経過


 ……二分経過


 ………四分経過


 …………八分経過


「釣れない……? もしかしてエサが外れちゃった?」

「いや、さっきからウキがぴくぴくしてる。外れてはない」

「大物の前振りだったりして~」


 ドキドキしながらウキを見つめる私たち。


「「「「……あ!!」」」」


 そして開始から10分経った時、当たりが来た! 急いでリールを巻くハルちゃん。


「つ、強い! 引きずり込まれる……!」


「ハルちゃん! 捕まって!」

「すっご……。え、なに? サメでも釣れるの?」

「サメなら逃げないと~」


 ハルちゃん一人だとハルちゃんの方が池に引きずり込まれるレベルの牽引力。いったい何が釣れるんだろ?


「あ、見えてきた! 何アレ?! ワニ?!」

「もしかして、あれって」

「アリゲーターガー?」


 見えたのはワニのように鋭い牙を持った魚。地上にいるアリゲーターガーそっくりの生き物だった。もちろん虹色に光っているから、これがゲーミングガーとでも言うのかしら?


「すっごい大きいよ! 2メートル、いや3メートルはあるんじゃない?!」

「これは不味いんじゃない? 私たちだけだと厳しい! ユズ、仲間を出して!」

「え? う、うん! 〈サモン・カモノハシ〉! あの魚を毒で弱らせて!」


 水辺だったという事もあって、カモノハシさんを召喚したユズちゃん。カモノハシさんは『任せな!』と言わんばかりにウインクをしながら水に入ったのだけど……。


「「「「あ!」」」」

『クワワ?!』


 カモノハシを見て危機感を感じたのか、ゲーミングガー(仮名)は大暴れした末に糸を引きちぎって逃げてしまった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る