釣りは待つのも楽しみ?
ある週末、ハルは家族と釣りに行くことになった。なんでも、最近彼女の父が釣りにハマったかららしい。
「はい、これが春陽の釣り竿な」
父親から安物の釣り竿を渡されるハル。安物と言っても3000円くらいするから、中学生目線ならそれなりに高いものかもしれない。
「おおー! ……どうやって使うの?」
「ああ、まずはここを伸ばして……」
「すごー! んーこの鈴はなあに?」
「おお、それは魚がかかって竿がしなった事を知らせるための鈴だ」
「へー?」(そんなの、見たらわかるんじゃあ……?)
父に教えてもらいながら、釣り竿の準備を整えたハル。さっそく仕掛けを遠くに投げ飛ばし……。
「あー違う違う! ここではその場に垂らすんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ、そうなんだ」
それに仕掛けを飛ばすときは投げるんじゃない。竿を使って飛ばすのが正解だ。
ただ、それを伝えると「やって見せてよー」と言われ、面倒な事になると思った父は、投げようとしたことにはツッコまなかった。
「それじゃあ、魚が来るまで気長に待つかー」
「え? こう、ひゅっひゅ!ってしたりしないの?」
「あー今使ってる仕掛けはそういう事はしないんだ」
「そ、そうなんだー」
何かと予想を裏切られてばかりのハル。そして、追い打ちをかけるように更なる裏切りが……。
「あ、あの? 全然釣れないね? もう何十分も待ってるけど、ハル、一匹しか釣れてないし……」
「あーいや。これでも多い方だぞ?」
「ええ……」
ちょうど横で、ハルの兄(あ、居たんだ)の竿に初めての当たりが来た。食べれるサイズだったからバケツに入れて、エサを変えて再び竿を垂らしたハルの兄は、読書を始めた。
ここにきてようやく、ハルは竿についている鈴の意味を理解した。ついさっきまで、ハルの知っている釣りは「ボクセルな世界で建築をするゲーム」の釣りだった。竿を垂らしたら長くても数十秒で魚がかかる、そんなご都合主義な世界。
しかし、現実は違う。よっぽどいいロケーションじゃない限り、そうはいかない。それをハルは今日知った。
暇を持て余したスマホを立ち上げ、ハルは四人のグループトークに愚痴を言う事にしたのだった。
◆
【夜桜の香り(4)】
――――――――――
〔ハル〕
今日は釣りに来てるんだけど、全然釣れない! ヒマー!
9:26 既読 3
〔リン〕
そんなにひどいの?
9:27
〔ヒメ〕
海?川?
9:27
〔ハル〕
To. リン(そんなに……)
一時間いるけど、まだ一匹しか釣れてないんだー
9:28 既読3
〔ハル〕
To. ヒメ(海?川?)
海だよー、こんなところ!
9:28 既読3
<海の写真>
<魚の写真>
〔ユズ〕
一時間で1匹~!? それは、なかなか辛いね……
9:29
〔リン〕
まあ、釣りってそういうものだから
釣りなんて、魚は二の次、海を眺めてぼーっとするのが目的みたいなところあるし
9:29
〔ヒメ〕
海かあー
釣れたと思って喜んだのもつかの間、針にはフグが付いていて「違う、お前じゃない!」ってなったときが一番ショックだね!
9:30
〔ハル〕
To.ヒメ(海かあー釣……)
それ、パパがなってた!
9:31 既読3
〔ユズ〕
え、すご~い! フグなんて釣れるんだ~!!
美味しいよね♪ まあ、捌けないから宝の持ち腐れなんだろうけど……。
9:32
〔ヒメ〕
To.リン(まあ、釣り……)
あくせくした日々を送る現代人が忘れたのんびりした時間を取り戻せーって事だね!
9:32
〔ハル〕
去年の理科の先生が言ってたね! フグ毒、テトロドトキシン!
9:33 既読3
〔リン〕
そうそう。体の電気回路を壊すから、神経、心臓、筋肉が動かなくなる。
9:33
〔ユズ〕
怖いね……。
9:33
〔ハル〕
あ、お兄ちゃんが地球を釣っちゃった
9:35 既読3
〔ユズ〕
え、地球?
9:35
〔リン〕
たぶん、海底に引っ掛かったって意味
9:35
〔ユズ〕
あ、なるほどそうなんだ~!
一瞬、地球の支配権がハルちゃんのお兄さんの手に渡ったのかと……
9:35
〔ハル〕
うん、リンちゃんが言ってくれたように、海底に引っ掛かったって意味だよー
9:36 既読3
〔ハル〕
ねえー、もっと釣れる方法ってないーー?!
退屈で退屈で、ハル、今にも暴れ出しそう!!
9:38 既読3
〔ユズ〕
釣りは詳しくないからわかんないけど、釣り堀りに行くとか?
9:38
〔リン〕
テトラポッドで穴釣りしたら、そこそこ釣れると思うけど、危ないんだよね
最近は立ち入り禁止になってることも多いってお父さんが言ってた。
9:39
〔ハル〕
釣り堀、お父さんに聞いたら「高いし……」って言われたー。
しかも、バンバン釣りたいなら、ゲームをするしかないって笑われたー!
9:39 既読3
〔ヒメ〕
まあ、釣り堀はけっこうお高いからねー。しょうがないよ。
ダンジョンでも、そうポンポンと釣れるわけじゃないし……
9:40
〔リン〕
ちょっと待った、ダンジョンって釣り出来るの?
9:40
〔ハル〕
ダンジョンで釣り?!
9:40 既読3
〔ユズ〕
でも、前に小川を覗いたとき、ヒメちゃん「ここで泳いでる魚は捕まえられないよ」って言ってなかったっけ?
9:40
〔ヒメ〕
あれ、みんな知らない?
ユズちゃんが言ってくれたように、ほとんどの場所は釣りができない仕様になってるけど、逆にいくつか釣り出来るスポットも用意されてるんだよ。
9:41
〔ハル〕
へー! 今度四人で行ってみたい!
9:41 既読3
〔ユズ〕
私も興味あるかな~。釣りってしたことないから、やってみたい!
9:42
〔リン〕
いいね。ヒメ、その場所って今の私達でも行ける場所?
9:42
〔ヒメ〕
お? みんな興味ある? じゃあ行ってみよっか!
9:42
〔ヒメ〕
To.リン(いいね。ヒ……)
うん、今のレベルなら十分行ける場所だよ。確か、ピンクマッシュルームがいた森の奥の方にある湖が釣りスポットだったはず
9:43
――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます