カモノハシ
カモノハシ。哺乳類にも関わらず卵を産むという変わった性質を持つことで知られる生き物ね。のっぺりしたくちばしとずんぐりした体形が何とも可愛らしいが、実は強力な毒を持っており犬くらいなら殺せるという恐ろしい一面もある。
なんでこんな話をしたのかというと、今私たちの目の前に一匹のカモノハシがいるから。あ、もちろんここはダンジョンの中で、目の前にいるこの子はそこに生息(?)する野生動物よ。
「これがカモノハシなんだー! ハル、初めて見たかも! へー、くちばしっぽい所に鼻がついてるんだね」
「何があってこう進化したのか気になる」
なんて話している間、ユズちゃんが〈ききみみずきん〉と〈アニマルフレンドシップ〉を使ってお話をしている。
この子の発見経緯だけど、荒野フィールドを歩いているとばちゃばちゃって言う水の音が聞こえたの。「水のないステージのはずなのにどうして水の音が?」と思って見に行くと、狭い水たまりにこのカモノハシがいたっていう訳。
カモノハシが「どどど、どうしよ。もう水がなくなる……」と言っているのを聞いたものだから、〈マジカルバリア〉で綺麗な水をあげたら喜んでくれて、お話に応じてくれて今に至る。
「何か分かった?」
「うん。カモノハシさん、元々水の多いところに住んでいたみたい。でも、大雨で川の水が増えたときに流されちゃって、気が付いたらここにいたんだって」
「でも、このあたりに川なんてないよ?」
「そうなんだよね……。でも、カモノハシさんも分からないらしいから~」
うーん。いったいどういう事なんだろー(棒)
あ、はいそうです。私は知ってます、このイベント。という事で、謎解き(という程の事でもない)は他三人に任せてみようと思う。その方が動画映えすると思うし。(撮影中)
「ねえ、ちょっといい? これみて」
お!? リンちゃんが何かに気が付いたみたい。どれどれ?
「「「石?」」」
「うん。この石、よく見て。何か気が付かない?」
「普通の石だよね?」「丸ッとしてて、可愛いね♪」
「……」チラ
リンちゃんが私の方を見てきた。あーうん。ハルちゃんもユズちゃんも気付かなさそうだし、私が答えを言おうかな。
「ねえ、この丸っとしてる石。この辺りじゃ見かけないよね? ほら、他の石は角ばってる」
「確かに! 言われてみれば周りの石はどれもゴツゴツしてる!」
「丸っとしている石は川の流れがないと出来ないんだよね? 理科の授業で習ったね~」
今度は私がリンちゃんをちらっと見る。リンちゃん、後は任せた!
「そう。つまり、こういう石が落ちていた場所は、過去に水が流れた可能性がある」
「「!」」
「つまり、丸っこい石がある方に進めば……」
「うん。この子がどこから来たか分かるかも」
◆
自然界なら、こんな方法で干上がった川を遡るなんて出来ないだろうし、仮に出来たとしても途中で分岐があったりして先が分からなくなると思う。けれど、ここはダンジョン、全てのギミックは解けるように作られている。
「わ! 洞窟だー!」
「……いかにも過ぎる」
「く、暗くて怖いね……」
水が流れていたと思しき場所を辿っていくと、一つの洞窟にたどり着いた。ゲームではカモノハシさんと一緒じゃないと入れない、何なら見つけられないようにできていたけど、ここではどうなんだろ? ま、いつか調べてみよう。
(その後の検証で、カモノハシさんがいないと洞窟は見えない事が分かった。どうなってるんだろうね? 不思議)
「〈マジカルバリア〉 よし、これで明るくなった」
火属性にチェンジして、マジカルバリアを発動。これを松明代わりに、先を進もうと思う。するとリンちゃんから待ったが入る。
「え? 洞窟で火は危ないのでは……」
「ああ、大丈夫よ。魔法の火は酸素を消費しないから。でも、普通の火を持って洞窟に入るのはNGだよ!」
よい子は真似しないようにってね!
「よし、じゃあ洞窟探検に出発だねー! ハル、楽しみ!!」
「おー!」
「お、お~!」
『クー!』
おー! 私達が拳を天に向かって突き出すと、カモノハシさんも鳴き声を上げた。尻尾をバタバタさせているのが可愛らしい。
…
……
………
「なんだか、空気がジメっとしてきたような」
リンちゃんにそう言われ、はっとする。さっきまでカラッとした空気だったのに、ここの空気は湿っぽく感じるわね。
「やっぱり、大雨の時にだけここに川が出来る説は正しそうだね」
…
……
………
「知ってる? カモノハシってUVライトで光るらしいよ」
「え、そうなの?! 知らなかった……」
「へー!」
「何のために~?」
「さあ? 本人に聞いてみたら?」
「そうだね! なんでなの?」
『クー! クー! クー!』
「『むしろなんで人間は光らないの?』って聞かれた」
「……そっか」
…
……
………
「ねえ、ヒメ。これ、動画的に不味くない? さっきから会話が全然続かない」
「……きっと編集で全部カットされるね」
「そうだよね……」
◆
数十分歩き続け、ようやく私たちは洞窟を抜ける事が出来た。ふう、なかなかに疲れたわね。結構な坂道だったものだから、レベルが上がってスタミナのパラメータがかなり高いはずの私達でさえヘトヘト。
「「つっかれた……!」」『クワワワ……!』
ユズちゃんとハルちゃん、そしてカモノハシさんが地面にぐでーんと寝転がる。お疲れ様、三人とも。いや、二人と一匹?
「やっと。やっと私たちは太陽の下に戻ってきたわ!」
日光を手で遮りながら、私はそうつぶやく。肌をじりじりと焼くこの感覚がとても心地よく感じる……!
「ヒメ、ここはダンジョンの中だから、あれは太陽じゃないと思う」
「確かに!」
「「「「あはははは~」」」」
はあ。ひとしきり笑った後、私たちは改めて周囲を見渡す。そこはジャングルの中だった。荒野とは全く違うバイオームがあるのは変に感じるかもしれないけど、実はこれにはカラクリがある。
「ねえ、ヒメ。もしかしてこれって、さっきとは違う階層?」
「鋭いね、リンちゃん。その通り、ここはさっきまでいちゃ場所とは階層自体が違うよ」
「……やっぱり知ってたんだ」
「あ。ここはオフレコでお願いね」
「で、どういう事? いつの間にか転移魔方陣をくぐってたって事?」
「ううん、そうじゃないわ。実は魔方陣をくぐらずに階層間を移動する手段ってがいくつかあるの。これはその一つね」
「へー」
と私とリンちゃんがダンジョンについて話している間に、ユズちゃんとハルちゃんがいつの間にかカモノハシの群れに囲まれていた。
「なんて言ってるの?」
「『もう会えないと思っていた、うううう。旅人さんや、この子を助けてくれてありがとう』だって! あ、それと『旅人さんも、何か困ったことがあれば、我々カモノハシを頼ってください』だって!!」
「どういたしまして、そしてその時はよろしくお願いします、だね!」
「良かったね、ユズちゃん。これで、カモノハシさんを〈
「わ~い!」
◆
その後、リンちゃんの家に遊びに行った時の事。
リン「そういえばさ、ヒメ。野生のカモノハシって群れないはずなんだけど」
ヒメ「あはは……。それを言うなら、野生のカモノハシは、去っていく人間にヒレを振って別れを惜しんだりしないよ?」
リン「確かに。あれは可愛かった……!」
ヒメ「ね~」
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