癒しのユズちゃん

※ Attention! ※


 ユズは5人家族という設定になっています。ご両親と姉(ミカン)と妹(ライム)です。しかし、あろうことか作者の中でライムちゃんの事がすっかり抜け落ちていました。ほんとゴメン、来夢ライムちゃん。

 そして、ライムちゃんの事を思い出すや否や「バレンタインデーの後日談、Part 1」を修正しました。元々は「ご両親が出張」という設定でしたが、修正後は「お父さんは出張へ、お母さんは幼稚園のイベントでライムと共に旅行へ」と変更しています。

 以後、このような事がないよう気を付けます。


 長々と失礼しました。それでは本編どうぞ。




 19時少し前、自室でのんびり過ごしていたユズを母親が呼び出した。


「なあに~ママ?」


「あのね、ライムの寝かしつけをしてくれないかしら~?」


「うん、いいよ~、けど私にできるかな~?」


 ライムはまだ幼稚園児、19時には寝ることになっている。しかし、ライムは少々寂しがり屋さんのようで、誰かが隣にいないと眠れない子。しかも、なかなか寝付いてくれない。

 いつもは母親が、母親が無理ならミカンが寝かしつけをするのだが、今日は二人が忙しいようで、ユズに白羽の矢が立ったようだ。


「子守唄を歌ってあげたら、寝てくれる(……はずよ♪)」


「う、うん。頑張るね~」


 母親がぼそっと言った「はずよ」に一抹の不安を覚えつつも、ユズはライムを寝室へ連れていきベッドに入れた。


「……目を閉じないと眠れないよ?」


「分かってる、けど。あのね、お姉ちゃん……。暗いの、怖い……」


 そう訴えるライムに、ユズは自分が幼稚園児だった時の事を思い出す。悪夢を見るのが怖くて眠れない、という時期が自分にもあったような覚えがあるようなないような気がしなくもない。(超曖昧)

 ユズはライムを落ち着かせるように、優しい声で安心するよう伝える。


「大丈夫だよ~。夢の中はね、自分の心の世界なんだ。怖いって思えば、怖くなる。楽しいって思えば楽しくなるんだよ」


「?」


「つまりね、寝るのを楽しみって思えば、すっごく楽しい夢を見れるんだよ!」


 そう言ってユズは子守唄を歌い始めた。


『Sweet dreams~♪ Sweet dreams~♪ ……』


 子守唄の歌詞は、今から楽しい夢を見よう、そして明日も頑張ろう的な物。それを、ライムが楽しい夢を見られますようにと願いながらユズは歌った。そして、その一曲が終わるころには、ライムちゃんは幸せそうな顔で眠っていた。


「……。あ、もう寝ちゃったのかな。お休み、ライム」


 ユズは物音を立てないようにそっと部屋から出て行った。



「あら、ユズ~。ライムに絵本をせがまれた?」


 5分もしないうちにライムの寝室から出てきたユズを見て、母親がそう問いかけた。ライムの寝かしつけは、いつもは30分以上はかかる大仕事。それが5分足らずで終わるはずがないと思ったのだ。


「ううん、もう寝ちゃったよ♪」


「え、ホント?! ……ほんとだ、すごいね、ユズ!」


 言葉で聞いても信じられなかったのだろう、ユズの母は部屋をそっと覗き、確かにライムが寝ていることを確認してから、ユズを褒める。


「そ、そうかな?」


「ええ! ユズの声は癒しの作用があるのかもね~」


「えへへ、そうかな~?」


 そしてこの日以降、ユズはライムの寝かしつけ役になった。



「……って事があったんだ♪」


「ほへー、すごいね!」

「でも、なんだか分かるかも! ユズちゃんの声を聴いたらなんとなく安心感があるよね」

「うんうん、分かる」


「えへへ~。ありがと~。そうそう、私が歌った子守唄は小学校の時にリンちゃんが私に歌ってくれたものなの~」


「ああ、あの時の」

「?」「そんな事あったの?」


「うん、あれは林間学校の時……」



 それは四人が小学校5年生の頃に林間学校、山間部の宿泊施設で一泊する行事、があった。夜、ユズにとって家族のいない場所で一泊するのは初めての経験でなかなか寝付けずにいた。


 チチチチチ

 ジジジ……ジジジ……


 虫の音、少なくとも綺麗とはいいがたい音、に恐怖を覚えたユズは、思わずベッドから起き上がって周囲をきょろきょろする。すると、隣のベッドで眠っていたリンが身じろぎして、ユズの方を見た。


「眠れない?」


「あ、ごめんね。起こしちゃった?」


「大丈夫。ユズこそ、大丈夫?」


「大丈夫……じゃないかな。なんだか怖くて眠れなくって……」


「そう。……こっち、おいで」


「え?」


「ほら、一緒に寝よ」


 リンに招かれ、同じベッドに潜り込むユズ。


「子守唄、歌ってあげる。『Sweet dreams~♪ Sweet dreams~♪ ……』」


「うん。ありがと、リンちゃん。……。ねえ、それってどういう意味なの?」


「うーん。『今から楽しい夢を見よう、そして明日も頑張ろう』みたいな意味かな。私が隣にいるから、安心して寝よう」


「うん。……きれい」


 ユズはリンの顔を眺める。窓の外から入る微かな光の中みるリンは、まるで月光の下を歩く聖女のように美しく神秘的だった。


「綺麗?」


「え? う、ううん! なんでもない。リンちゃん……」



「……って事があったんだ~」


「へえー!」「なんだかいい話。さすがリンちゃんだね!」


「……///」


「あ、リンちゃん照れてる」


「て、照れてない。それより、気になることがあるんだけど!」


 あからさまに話題を変えるリン。しかし、彼女の次の一言がヒメを大きく動揺させた。


「もしかしたら、ライムちゃんが安心して眠れたのは、私たちが『表現力』を上げたからかもね。ほら、この子守唄に込められた思いが伝わった、みたいな」


「え? ……もしそうなら、結構凄い事では?」


 ダンジョンで強くなればダンジョン以外の場面でも強くなる。それは事実ではあるのだが……。もしも『表現力』の成長にもそれが当てはまるのなら、大変な事ではないか?


「美術の成績、よくなるかもしれないって事!?」

「要検証だね。……いやでも、検証は難しいか」

「表現力かあ~。そんな効果もあるかもだよね~」


 そう、リンも「検証は難しい」と言った通り、表現力は数値化できないから検証は困難を極める。ヒメもそれに納得し「気にしなくていいか」と思うことにした。




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