熱血スノーマン

 まるで竜巻に吸い込まれているかのように、渦を巻きながら雪が中央に向かって吸い寄せられた。そして、物の数秒で立派な雪だるまが私たちの眼前に姿を現した。熱血スノーマンの登場ね!


「〈ヒールソング〉〈私の歌を聴いて!〉」

「〈私の歌を聴いて!〉」


 スノーマンが現れると同時に、ハルちゃんとユズちゃんが〈私の歌を聴いて!〉を使用、またハルちゃんは直前に〈ヒールソング〉を使ったから、私達四人にバリアが張られる。これで万が一被弾してしまっても、数発は耐えれるはずよ。


『!!!!』


 熱血スノーマンに口はないから鳴き声ってものはないけど、代わりに氷を水に入れたときのようなピキピキと言う音と、それに混ざってガサガサと雪がかき分けられるような音が響いた。高さ5メートル以上ある大きな雪だるまがそんな音を立てる様は何とも不気味ね。

 さて、攻撃を食らって怒ったのか、雪だるまは三段同時にジャンプした。これは土属性攻撃の前動作ね! 着地の衝撃で跳ね上がった小石が、まるで石器のように鋭く尖って私たち目掛けて飛んできた。


「〈マジカルバリア〉!」


 まだ昇進する前、【魔法少女】の時から何度も使っているスキル、失敗するはずもなく、私は石を防ぐことができた。さて、次の行動は?


「あ!」「「「!」」」


 雪だるまの頭、一番上の段がボフン!と空中に飛び上がった。


「避けるよ!」

「ん」((コクリ))


 私の警告にリンちゃんが短く返事し、ハルちゃんとユズちゃんは歌いながらコクリと頷いた。一呼吸おいてからぱっと左右に動いて着弾予測地点から外れる。

 私とハルちゃんは左向きに歩いて、雪だるまの周りを一周するように歩く。リンちゃんとユズちゃんは逆回りで移動し、最終的に180度回ったところで合流する流れになっているわ。


 ドドドドドド!!


 すごい音が鳴り響く。ドサ!なんて可愛らしい音ではなく、まるで雪崩に巻き込まれているかのような激しい雪の怒号がつい先ほどまでいた場所から聞こえてきた。

 安心している場合ではない、私たちは移動を続け、二発目、三発目の攻撃もかわすことに成功する。


 あ、ユズちゃんとリンちゃんが少しダメージを食らってしまったみたい。バリアが明らかに薄くなっている。もう一回食らったらバリアが解けちゃうかも? もしそうなったら、その時はハルちゃんにかけなおしてもらわないと。


「大丈夫?」

「うん、ちょっと掠っただけ。次は避けれる。あ、次は私かな」


 リンちゃんがそう言っているなら、大丈夫だろう。と言っている間に、ついさっき落下してバラバラになったはずの雪が、再度集まってまた雪だるまを形成し、くるくると回転を始めた。これは火属性の攻撃だから、リンちゃんに防御してもらう。


 ポポポポポポポポ!


 そんな音とともに、無数の火の玉がランダムな方向に発射される。

 冷静に考えて、雪だるまがどうやって火の玉を作っているのか気になってしょうがないけど……こういうのは少なくとも戦闘中は忘れた方が良い事ね。


 火属性攻撃が終わったと思うや否や、再び体が回転し始めた。ハズレね、こうなるとリンちゃんがクールタイム中でバリアを張れないから、私が〈コスチュームチェンジ〉して水属性に切り替わる必要がある。

 すぐにリンちゃんも〈コスチュームチェンジ〉を使って火属性に切り替わる。あまりこういうチェンジを多用すると、頭が混乱することがあるから避けたいのだけど、今回は致し方が無しね。


 油断も隙も無く、今度は体全体が大ジャンプ。リンちゃんが火属性になっているリンちゃんが防御。そして……。


「来るよ!」


 再び三連攻撃。

 三連攻撃が終わると……また三連攻撃。

 ふう、油断も隙も無いわね。


 あらら、よく見ると時間経過でバリアが薄くなってきたわね。ゲームならまだしも、ここはリアル。痛い思いはしたくないし、ハルちゃんに回復をかけてもらおう。ちょうど間奏のタイミングだし。


「ハルちゃん、ヒールお願い!」


「〈ヒールソング〉、ハルの元気をみんなにお届け!」


「「「?!」」」


 なんか可愛い事をハルちゃんが言った! 可愛い……! 可愛い!

 元気、受け取りました!!!


 ……っと、危ない危ない。戦闘に集中しないと。〈マジカルバリア〉っと。



 ドドド!


 ドドド!


 ドドド!


 もう慣れたように、三連攻撃を避けるとそれは起こった。なんと、雪だるまが上手く再生しなくなったのだ。辛うじて中央には集まったものの、三つの球体の形にならない。


「これって?」「もしかして」「勝った?」


「そうだね、これで私たちの勝ちね!」


 そう言った直後、雪だるまの体が太陽の光を反射してキラキラと輝きながら、まるで空中へと溶けるかのようにその姿を消した。


「はあー! 疲れたー!!」

「張り合いのある戦いだった。凄い激戦、きっと歴史の教科書に載るね」

「ホント疲れたね~! でも楽しかったかな♪」


 戦ってる最中は安定した動きを出来ていたけど、いざ終わると緊張が解けて疲れが出ちゃったみたい。これまで戦ってきた魔物は、多少ミスをしてもすぐにリカバリーできる強さだったけど、今回の「熱血スノーマン」はミスを繰り返すと致命傷になりかねない魔物だったわ。攻撃のインターバルも短いし、威力も迫力も桁違い。

 それこそリンちゃんが言うように、激戦だったわね。けど、歴史の教科書には載らないんじゃないかな~。



※ラッキーイベント、世間ではイレギュラーと呼ばれているこの現象で、魔物を無事に倒しドロップアイテムをゲットしたとなれば、歴史の教科書は無理でも、新聞に載るくらいにはなる……という事を四人は知らない。



「あ、そうそう。ドロップアイテムを拾わないとね」


 倒したこと自体に感無量になっていて、一番大事な事をしてなかったわね。


「あ、そうだったね! 何がドロップしたかなー?」

「本来200層より上じゃないと手に入らないアイテム……いかにもすごそう」

「なにかな~なにかな~♪」






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