ラッキーイベント

 期末考査も無事終えて、今日から春休み!(正確にはテスト返却と終業式が残ってるけど)

 私たちはいつもより少し晴れやかな気分で、ダンジョンに潜ったのだけど……


「え、あれって……!」


 そこで珍しいものを見つけた。私の声に三人も同じ方を見つめた。


「なにあれ! 前まであんなのなかったよね!」

「あそこだけ、雪が積もってる?」

「何かのイベントかな~? 楽しそう♪」


 ダンジョンの中は外部の気温・気候の影響を受けないから、例えば草原はいつ見ても草原なの。だから、雪原ステージじゃない限り、雪が積もっているなんてことは普通起こらない。ましてや、草原の中にぽっかりと雪が積もっているなんて、異常事態間違いなしよね。


「ユズちゃんの言ってる『イベント』は『真夏に雪遊びをしよう』みたいな企画の事かな? それとは違うけど、これも『イベント』だよ」


「? あ! もしかして、ゲームとかで使われるイベント~?」


「そう! あれはラッキーイベントって言われている現象ね」


「「「ラッキーイベント?」」」


 なかなか遭遇しないから、こっちでは起こらないのかな、なんて思ってたけど。そっか、現実でもラッキーイベントって起こるんだ!


 ラッキーイベントっていうのは、100階層より深い所を探索していると一定確率で遭遇する現象で、そこより100層以上深い階層にいる魔物が現れる現象なの。

 これだけ聞くと、「全然ラッキーじゃないじゃん、危ないじゃん」って感じると思うのだけど、心配ご無用。そこは難易度調整が入っているから、ちょっと頑張れば倒せるようになっている。


 そして!


  しかも!


 なんと!


 敵には弱体化が入っているのに、経験値やドロップアイテムはそのまま貰えるのです!!


 要するに、ラッキーイベントは「大量の経験値と本来もっと先で入手するアイテムを先に手に入れる事が出来るイベント」って事ね。


 ちなみに、ゲーム『ダンジョンはアイドルのステージよ!』では、ラッキーイベントの出現タイミングがゲーム起動後○○分と△△分と……って決まっていたから、RTAでお祈りする必要はなかったらしいよ。私はRTAはしたことがないから、詳しくないけど。

 あー、RTAもしっかりやっておけば今頃ラッキー狩りしてたんだけどなあ。いや、そもそも現実になった時点で「ゲーム起動後○○分」なんて知識、通用しないわね。


 ちなみに、ラッキーイベントにはいくつか種類があるのだけど、大きく分けると「単独型」「パレード型」「フィールド型」の三つがあるわ。


 単独型は、強い敵が一匹現れるタイプ。パレード型は、弱めの敵がぞろぞろと現れるタイプ。フィールド型は特定階層の環境がそのまま現れるタイプね。

 フィールド型が特に面白くって、例えば南国ステージにぽっかりと雪原が出現したりするわ。これが起こると、サングラスをかけたペンギンを見る事が出来るわ。


 という事を、ゲームの下りを省いて説明した。



「じゃあ、これはフィールド型?」


 ハルちゃんがそう聞く。確かに今の説明ならそう思っちゃうよね。けど、違うんだよね。


「ううん、フィールド型はもっと規模が大きいはずなの。だからこれは単独型ね」


「単独型? これが?」

「何もいないように見えるけど。もしかして、透明な魔物?」

「地面に潜ってるとか?」


「惜しい! 正解は、あの雪自体が魔物、だね」


「あの雪」「自体が」「魔物?」


「そう。名前は『熱血スノーマン』って言って、近づくと雪だるまになる魔物よ。本来は雪原、正確には山岳ステージにいる、急に現れてびっくりさせる魔物なのだけど」


「ここにいるってバレバレだねー」

「そう聞くとウケる」

「確かに。でも、ちょっと可愛そうだね」


「うん。可愛そうに……なんて油断はできないよ。なにせこの敵、初見殺しの性能を持ってるからね。まず、『熱血スノーマン』は見た目は雪だるまなのに火属性が無効なの」


「えー!」

「熱血だからか。いや、熱血ってそういう意味じゃあない……」

「じゃあ火を当てても溶けないって事~?」


「しかもいやらしい事に、この敵、火魔法を当てると『ジュ!』って音が鳴るんだよね……。だからいかにもダメージを与えられてそうなのに、実は全くダメージを負っていない。なんなら、火を吸収して、回復までするわ」


「そ、それは初見殺しだね……」

「恐ろしい敵」

「弱点はあるの?」


「弱点というか、唯一攻撃が通るのが土属性なの。で、この敵は火属性と土属性の攻撃を使うのだけど、一発当たっただけでかなり危険だから、ちゃんとフォーメーションを考えたいわね。うーん、ひとまずこんな感じで行こっか」


ヒメ:火(土属性の防御)

ハル:土(攻撃)

リン:水(火属性の防御)

ユズ:土(攻撃)


ハル ヒメ

     →向こうに敵

ユズ リン


「攻撃パターンは三つ。一つ目、その場でくるくるって回り始めたら火属性のランダム攻撃が来るわ。その時はリンちゃん、よろしくね」


「分かった」


「二つ目、体全体がジャンプしたら土属性の自機狙い攻撃が来るわ。これは私が防ぐね。そして三つ目。頭だけが高く飛び上がったら、私たち目掛けて落ちてくるわ。これはバリアでは防ぎきれないから、動いて避ける必要があるの。しかも、頭攻撃の直後にはお腹が、お腹の次は足、一番下の段が攻撃してくるから頑張って避けないといけないわ」


「あ、雪だるまって三段なんだ」

「てっきり二段かと」


「あ、うん。三段よ」


 それから、軽く攻撃を避ける練習をした。いい感じに仕上がったところで……。


「じゃあ行くよ!」

「「「おー!」」」


 私たちは雪の積もった場所に足を踏み入れた。

 その瞬間、雪がごお!と中央に吹き飛んで行って、一体の雪だるまを形成した。ゲーム開始ね!



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