リンは生け花をした

「「「魔よけの花束?」」」


「って書いてる」


 狂気の花畑に咲いていた花に、ピンクマッシュルームからドロップした「グアニル酸たっぷり出汁」をかけると、私も見たことがないアイテムがドロップした。一見、不気味な花で出来た花束に見えるけど、何やら効果があるみたい。

 私達は鑑定系のスキルを持ってないから、本来はドロップアイテムの正式名称を知ることは出来ないのだけど、このアイテムに関してはリンちゃんのスキルで鑑定することができる。それによると……。


 この花の不気味な見た目は、古くは人を惑わせる華とされていたけど年月を経て、家畜を惑わせる→動物を惑わせる→害獣を惑わせる→魔よけになる、とその意味合いが変わったらしい。

 という事に基づいて、このアイテム『狂惑の花束』はダンジョン内で魔物とのエンカウント率を減らしてくれるんだって。


 でも、こんな花、ダンジョン外では見たことがない。この伝説が本当なのかは疑問。


「伝説の下りはダンジョンが勝手に作った設定だと思うよ」


「やっぱりそうなんだ」


 リンちゃんが言うように、この花は外の世界で生えているものではないわ。だから「この花にまつわる伝説」が生まれるはずがない。あくまでダンジョンが生み出したストーリーだね。


「じゃあ、ダンジョンは嘘を言ってるって事~?」


 うーん、ユズちゃんはそう感じちゃったみたい。そうね、なんといえばいいのか……。


「嘘って言うよりも、創作に近いかな? ほら、タイパニック号も、元ネタこそあれダンジョンが勝手に作った創作物だったでしょ?」


「なるほど~! そう言われたら納得かな~」


 と伝説についての考察はここまで。次はアイテムの効果について。


「ねえ、ヒメ。このアイテム、私が貰っちゃっていいの? 聞く限り凄そうなアイテムだけど」


 リンちゃんがそう心配する。この花束をばらしてしまったら特殊効果が消えてただの不気味な花になってしまう。そんな事をしていいのか、リンちゃんは悩んでいるみたいだけど、全く問題ない。


「問題ないよ。だって、ダンジョンに潜るのは魔物を倒す為でしょ?」


「なるほど、確かにエンカウント率を減らす事にメリットがない……むしろデメリット」


「お目当ての魔物以外をスルーしたいって場面では使えるかもだけど……。それなら迂回すればいいだけだしね。ハルちゃんとユズちゃんもいい?」


「うん、ハルはいらないかなー」

「私も問題ないよ~」


「ありがと、じゃあありがたく生け花の授業で使うよ」


 あ、アイテムはマジックバッグに入れておけば時間経過しないから、授業までにしおれてしまう心配はしなくて大丈夫だね。



 さて、いよいよ授業当日。リンちゃんは、狂気の花畑で取れた花、彼岸花、名前は知らない黒い花、その他何種類かの花を使って狂気を表現した生け花を作っていた。

 一方、私は煌びやかなアイドルをイメージした生け花を作ることにした。いつか「【アイドル】と言えば夜桜の香り」って思ってもらえるくらい、有名になりたいわね!

 ハルちゃんは楽しいを表現するって言っていたのだけど……失礼ながら適当に花を挿しているようにしか見えない。でも、これがかえって高評価を取るかもしれない。芸術って言うのは難しいよね。

 ユズちゃんは恋心を表現するみたい。それ自体は良い試みだと思うけど、ピンクの花を並べるだけなのはどうかと思う。まあ、ユズちゃんらしくて私は好きだけど!



 肝心の成績だけど、リンちゃんがA+、私がA、ハルちゃんとユズちゃんがB-と言う結果になった。


 先生からのコメントによると、多くの人がポジティブな印象の物を作る中で「狂気」というテーマを選んだことの意外性、そしてそれを上手く表現してみせた事に敬意を表してリンちゃんにA+をつけたみたい。


 リンちゃんは評価と添えられたコメントにとっても喜んでいた。

 めでたしめでたし。




 Fin.




 ……って“Fin”じゃなーい! 私たちの冒険はまだまだ続くよ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る