リンは花言葉を聞いた

「というわけで、『狂気の花畑』に行きたい」


 えーっと、リンちゃんは狂気の能力を操る主人公に憧れたから、狂気を生け花で表現したいみたい。狂気って……。【アイドル】がそれでいいのだろうか?

 まあでも。もうすぐ中学二年生だし。そういうのに憧れる気持ちも分かるケド。


「私はいいよ。ついでに染料も集めたいって思ってたし」

「狂気……! なんかカッコいい!」

「でも、あそこの花って採取できないんじゃあ……。魔物も倒したらドロップアイテムになって消えちゃうし」


「その点については、私のスキルで採取可能なものがないか調べるつもり」


 そう、リンちゃんは〈花言葉〉というスキルを持っていて、ダンジョンに生えている植物からアイテムを入手できる。入手できるアイテムは種、木の実、加工済みの薬などなど千差万別。花そのものを採取できる可能性も十分ありえる。

 そうそう、このスキルを別の階層で使ってもらった時は、なんとゲームでは登場しなかったアイテムを入手することが出来たの。そんな事もあって、私は凄く可能性を感じていたりする。



 早速、狂気の花畑に移動した私たちは、リンちゃんのスキルに反応する花がないか探し始めた。


「ん、この花、反応がある」


「へえ! (ゲームでは反応しなかったはず。いったい何が取れるんだろ?)」


「……なにかよく分からないことが書いてある。要約すると『この花は古くから人を惑わせる華とされている。それにちなんで、惑わせることに関係した魔物から落ちる水を持ってくれば良い事がある』だって」


「へー、なるほど」


 惑わせると言えば、アレだろう。私はすぐにピンときた。


「分かるの?」


「これは誘惑の異常状態の事を言ってるんだと思う」


「「「誘惑?」」」


 三人が首をかしげる。この異常状態を使ってくる敵は150階層よりも先にいるから、まだ会ったことがないのよね。


「前に、ハルちゃんのスキル〈キュアソング〉で治せない異常状態も存在するって話をしたでしょ? それの一つなの」


「つまり、ハルでは治せないって事?」


「だね。というか、どんなジョブでも、どんなポーションでも治らないはずだよ」


「ひょえー! なんだか怖そうだね!」

「でも、前にヒメ、『治せない代わりに、危険度は低い』みたいに言ってた。どういう感じなの?」


 リンちゃんはよく覚えてるわね。そう、誘惑の異常状態は致命的にならないの。


「うん。例えば、154層にいる『ピンクマッシュルーム』って名前の魔物の胞子を吸い込むと『キスへの誘惑』っていう異常状態にかかるの、そうすると自分から一番遠くにいるパーティーメンバーにキスしたくてしょうがなくなるの」


「前のヒメちゃんみたいだね~♪」


「あはは、その節は大変失礼しました。で、この異常状態、キスすれば解除されるの。誘惑系はこんな風に、比較的簡単に解除できるから危険度は低いの」


「そんな異常状態が……。どうなってるんだろ、愛情を操ってるって事?」


「えーっとね。それなんだけど、正確には『友情を愛情にまで昇華させる』らしいの。だから、パーティーメンバーに友人がいない場合は異常状態にならないはず」


「なるほど」


 ちなみに、ゲームにおいてこの異常状態はメインストーリーと密接に関わる存在だったわ。メインストーリーには主人公を敵視する子(仮にAちゃんとする)って子がいるの。最初の頃はかなり敵対しているわ、主人公に対して「私はアンタみたいに適当な思いでやってるんじゃないの! 真剣なの!」って言い放ったり。

 だけど、Aちゃんがこの異常状態にかかったとき、主人公に「大好き~!」って飛びつくんだよね。さっきも言ったように、本当に相手の事を嫌っているならこの異常状態にはかからないから、「え、Aちゃんって私の事、嫌ってなかったの?」ってなる訳。

 こうして、Aちゃんはツンデレと発覚しました。というストーリー。安直過ぎるけど、そういうのでいいんだよ、と私は思う。


 と長々と説明しておいてなんだけど、私達四人の中にツンデレ属性はいないし、関係ないんだよね。



 ピンクマッシュルームのドロップアイテムは二種類。「グアニル酸たっぷり出汁」と「プルプルリップクリーム」ね。今回狙うのは「グアニル酸たっぷり出汁」の方。


 一匹目は結局誰も異常状態になることなく撃破出来た。ドロップしたのは……プルプルリップクリーム。やり直しね。


「せっかくだしつけてみたい~!」


 というユズちゃんの提案に私たちは賛成し、みんなでリップクリームをつけてみた。冬のせいでちょっと乾燥してた唇が、これを付けただけでとってもプルプルに! 無色だし、学校に着けて行っても怒られなさそう。これは良いわね!


 二匹目、今回はドロップアイテムに変わる直前に出てきた胞子の弾に、油断してたリンちゃんが当たってしまった。一番遠くにいたのは……私。


「ヒメ、好きだよ」


「え?」


 ちょうどそこが坂道で、リンちゃんの方が高い場所にいたものだから、はからずも顎クイされてしまった。こ、これとってもドキドキする!

 改めてみると、リンちゃんって本当に美人だなあ。あ……。


 すぐに異常状態が解け、リンちゃんは体を離し恥ずかしそうに「なるほど、心が乗っ取られるって感じではないね」とコメントする。私はというとテンパっちゃったみたいで「リップクリーム、すごい効果だね。リンちゃんの唇、すっごくプルプルしてた……」と訳の分からないコメントをしてしまった。

 ちなみに、ドロップアイテムはまたもやリップクリームだったよ。



 次のマッシュルームではハルちゃんがユズちゃんに、次はユズちゃんがリンちゃんに、次は私がユズちゃんにキスをして、ここでやっと出汁がドロップした。リップクリームが4個も手に入ったわね。各々一本ずつ持って帰るとしよう。


 さて、時間もまだあるし、この出汁を花にかけてあげないと。私たちは狂気の花畑に戻った。





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