リンはアニメを見た

「うーん……。何も思いつかない」


 リンは自室で一人、悩んでいた。


「『花を生けて何かを伝える』って言われても。はあ」


 悩み事が始まったきっかけはその日の美術の授業だった。華道を体験しよう、という授業で、その日は造花を使って生け花の体験をした。そして授業終わりに先生がこう言った。


『次の授業では、皆さんには自由に花を生けてもらいます。評価点は「メッセージ性」と「整合性」です。花はこちらで用意した花を使ってもいいですし、皆さんで用意しても問題ないです。面白い作品が生まれることを期待しています』


 せっかく出された課題、真剣に取り組みたいと思ったリンだったが、なかなかいいアイデアが浮かばない様子。夕飯を食べている間も、お風呂に入っている間もあれこれをアイデアを巡らせたが、結局良いアイデアは浮かばなかった。


「はあ。とりあえず、アニメでも見よ」


 そしていったん諦めることにしたリンは、アニメ『狂気の塔のラプンツェル』を視聴することにした。



◆ 狂気の塔のラプンツェル ◆


 シャイン帝国の第一王女「ラプンツェル」は、隣国の王子との婚約も決まり、順風満帆な人生を送っていた。しかしそんな彼女は事件に巻き込まれてしまう。王子との初対面の前日、最恐の魔女にして魔王である「ルナ」に攫われてしまったのだ。


 長年緊張状態にあった人類と魔人族だが、この事件をきっかけに人類対魔人の構図が完成してしまった。


 一方、誘拐されたラプンツェルは、看守のドラゴンを見て恐怖のあまり気絶してしまう。そして気絶から目を覚ました時、彼女は前世の記憶を思い出した。

 ラプンツェルの前世は、地球の日本という国で生きていた「男性」だった。そう、彼女(彼)はTS転生者だったのだ。


「まさか本当に俺が異世界転生するなんてなあ。あ、いや、今は女の子だし『まさか本当に私が異世界転生しちゃうなんて!』って感じかな? と、取り敢えず、するべきことをしようかな。ステータス!」


〈Name〉

 ラプンツェル

〈Class〉

 シャイン帝国第一王女(運+500)

 転生者(精神に前世の分の精神力が加算)

〈パラメータ〉

 Level:1

 HP:5/5 MP:2500/2500

 物理攻撃力:150

 物理防御力:5

 魔法攻撃力:5

 魔法防御力:5

 精神:10 (+520)

 俊敏:260

 器用:310

 運:30 (+500)

〈スキル〉

 糸使い


「すご! ほんとに出た! それにしてもすっごく偏ったステータスね……。にしても、ラプンツェルで糸使いってことはそういう事よね。やっぱり、髪を自由に動かせるんだ。硬くしたり、柔らかくしたりもできるみたいね。じゃあ、後はレベルアップして魔王を倒せば良いって訳ね! ……ほんとにそうかな?」


 お城で蝶よ花よと育てられていた、と言えば聞こえはいいが、見方を変えれば軟禁と言っても過言ではない。勝手に結婚相手を決められ、そこに自由など一切ない。そもそも、男性としての前世を思い出したラプンツェルにとって、男性と結婚などありえない。


 しかも、シャイン帝国をはじめとする人の国では、ひどい差別や奴隷制が根付いている。亜人や魔人を差別し、時に同族たる人間をも差別する。それに対して、魔王は差別や奴隷制を強固に反対していたはずだ。


「あれ、魔王の方がいい奴じゃん! よし、魔王と協力しよう!」


 こうして人間の姫ラプンツェルは、魔王ルナと協力することに決めた。


 はじめラプンツェルを警戒していた魔王だったが、人間の国の秘密を惜しげもなく魔王に伝えたり、魔王国の魔族達とコミュニケーションをとったりアドバイスを送ったりする姿を見て、徐々に仲良くなっていく。



 そんな中、まあなんやかんやあって、魔王は命の危機に陥ってしまう。


「もう終わりだ、魔王! 死んでもらおう」


「ひ、卑怯な!」


「これは戦争だぞ? 卑怯などあるものか。勝てば正義なんだよ」



 一方魔王城にて。ラプンツェルは魔王城の掃除中に隠し部屋を見つけた。その部屋にあったのは、如何にも強そうな剣。ラプンツェルは思わずそれを手に取ってしまう。

 しかしそれは、魔王城に攻め入ってきた人間を騙すための罠だった。その剣の名前は「トワイライト=ルナティック」、持った人間を狂気の異常状態にする呪われた剣だった。

 しかしラプンツェルは無駄に高い精神力と運のおかげで、呪いを克服する。そればかりか、彼女は呪われた剣との契約に成功し「月、あるいは狂気ルナティック」の力を得る。


 剣の力を使って、魔王ルナのもとへ向かうラプンツェル。そして……


「せめてあいつに、一緒に居られて楽しかったと伝えたい……」


「誰にですか?」


「ラプンツェルに……。って、ええ?! な、なんでお前がここに?!」


「主人を守るのが配下の役目ですから! おいこら、お前ら。よくも私の・・魔王様を泣かしてくれたな! 後悔してもしきれない、絶望を味わせてやる!!」



 ……と言うアニメを見ていたリンは、モニターの前で目を輝かせていた。


「『黄昏や 理性が沈み 望月が 昇りはじめる さあ血よ狂え。〈ルナティックフィールド〉』。か、かっこい……!」


 魔王ルナを守るべく、ラプンツェルが使った魔法〈ルナティックフィールド〉。それは対象者の理性を消し去って感情に溺れるように仕向ける魔法。狂気に陥った敵の聖騎士軍団は、全員が見るに堪えない最期を迎えることになった。

 ちなみに、この後ルナとラプンツェルは一緒に魔王城に帰り、返り血を洗い落とすという名目で一緒にお風呂に入って、そして一つのベッドで仲良く一緒に寝るというエピローグがある。うーん、素晴らしい。是非二期にも期待したい。


「黄昏や 理性が沈み 望月が 昇りはじめる さあ血よ狂え。〈ルナティックフィールド〉」


 びし!っと主人公と同じポーズをきめるリン。なぜだろう、ラプンツェルがやるとかっこいいのに、リンがやると可愛く見える。

 ひとしきり主人公の真似をしたリンは、ポンと手を打ってこうつぶやいた。


「……そうだ。生け花のテーマは『狂気』にしよう」






 一方、ハルの家では。


ハル兄「狂気の塔のラプンツェル、いい百合だった。けど、男性キャラがそこそこいた点は減点だな。百合作品に男は要らない! せめて最小限にするべきだ!」


ハル母「うるさい、もう夜遅いんだし黙って!」


ハル兄「ごめん」

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