バレンタインデーの後日談、Part Chaos

 アルコールの入ったチョコレートを食べ過ぎたヒメはほろ酔い状態になってしまった。それを見たハルは大慌て。顔が赤いヒメを見て、「熱が出ているのでは」と勘違いしてしまう。

 というのも、ハルの家族はほとんどお酒を飲まないから、「アルコールを摂取した人の顔が赤くなる」という事象に慣れていなかったのだ。


 おでこで体温を測ろうと、ハルはヒメに顔を近づけ、そして……


「はーるちゃん♪ 大好き!」


「ふえ? ん?!」

「「?!」」


 そのままヒメに抱き寄せられ、キスされてしまった。ハルは、そして一連の出来事を見ていたユズとリンも突然の事に目を見開いて驚く。


「ー! えへへ」


「ひ、ヒメちゃん?! だ、駄目だよそんな、いきなり……!」


「え? あ、あの……。もしかして嫌だった……?」


 今まで見たことがないような悲しそうな、不安そうな顔でヒメはハルを見上げた。キャラ崩壊と言っても過言ではない。

 そんなヒメに冷たい言葉をかける事が出来るはずもなく、またその表情に庇護欲や愛情が湧いたハルは、優しい声で言った。


「嫌って事ではないよ。びっくりしただけだから……。ハル、まだ心の準備が出来てなかっただけ」


「そっか、ごめんね、急に……。じゃあ、改めて、いいかな?」


「いい、よ。け、けど、ハル、初めてだから、優しくしてね」


 なんだか誤解を生みそうだから一応言っておく。これはあくまで女の子同士がキスしているだけだ。だから断じてR18的な場面ではない。……のだが、なんかもうそういう場面にしか聞こえない。

 ちなみに、小説タグに「性描写有り」と付けていたのはこの場面を書くためだったりする。



 熱いキスを交わす二人を見ていたリン・・は「ハルちゃんずるい!」と言った。ユズではなくリンが、である。というのも、リンもチョコレートのせいで酔っていた。だから普段なら絶対に言わないであろうセリフを言ってしまったのだ。こっちでもキャラ崩壊が発生してしまったのだ。


「じゃ、じゃあリンちゃん! わ、私じゃ、だめ、かな?」


 そうリンに言ったのはユズちゃん。なお、これはシラフである。


「え? うん、もちろんいいよ。おいで、ユズ」


「リンちゃん!」


 抱き着いてきたユズを受け止めたリン。二人はしばらく見つめ合った後、熱い口付けを交わす。


「えへへ/// リンちゃんとちゅーしちゃった♪」

「うん、すっごくどきどきしてる」


 そう言ってふたりはクスリと恥ずかしそうに笑った。



「あ、二人もキスしてたんだー!」


 ここで、ハルを解放したヒメがユズとリンの二人を見てそう言った。


「えへへ~そうなんだ~。ねね、次はヒメちゃんも~!」

「ヒメも一緒に」


「え、いいの?」


「うん!」

「もちろん。もしかして、私とは嫌?」


「まさか! 私も二人の事、大好き~!」


 ヒメが二人の下へ駆け寄って、そのまま二人を抱き寄せた。

 こうして三人がからまっている(意味深)間、ハルはというと、顔を真っ赤にしながらヒメとのキスを振り返っていた。



(ど、ど、ど、どうしよう?! ヒメちゃんとキスしちゃった……! いいのかな? いいんだよね? お兄ちゃんも「ハルみたいに可愛い女の子は、女の子と結婚すると良いと思う」って言ってたし)


 ハルのお兄さん? あんた妹に何てこと教えてるんだ。だがグッジョブである。


(で、でもそれは大人になってからだよね?! ど、どうしよう、さっきは勢いでキスしちゃったけど、ハル、まだ中学生だよ?! も、もしも赤ちゃんができてたらどうしよう! ハル、子供を養えるだけの経済力がないよー!)


 ……この子、キスしたら赤ちゃんが出来るって思ってる?! 小学校とか中学校の保健体育で習ってないのか?!

 というか、なんでその知識はないのに「子供を養えるだけの経済力がない」なんて発言が出るんだよ。いったいどういう教育を受けたら、こんな偏った知識がつくんだ?


(あ、あんなキスしたら、双子が出来ちゃうかもだよね?! 前にお兄ちゃんに「赤ちゃんってどうやったらできるの?」って聞いたら「大好きな女の子とキスすれば出来るんだよ」って言ってたし!)


 お前のせいか~!! ハルのお兄さん、妹に間違った事を教えないで!

 だが(略)


 あれ、でもこの世界は「ダンジョンで【アイドル】が活躍する世界」だ。そんな狂った世界観なのだから、同性間で子供ができるアイテムとかあってもおかしくない……。あーもう! 色んな意味でカオスだよ。



◆ Side ヒメ



 ふと目が覚めると、知らない天井が目に入った。えーっと、ここはユズちゃんの家だよね? 確かお泊りしにきて、ゲームをプレイして、お昼ご飯を食べて、それから……。


「すー、はあぁー。私って酔ったらあんなふうになるんだ……」


 酔った後の行動、ぜーんぶ覚えていた。ハルちゃんにいきなりキスしたこと。そのあと、改めてキスしたこと。そして、どういう訳かユズちゃんとリンちゃんともキスしたこと。

 その後、なんやかんやあって私達はユズちゃんの部屋に敷いたあった布団でお昼寝することになったのよね。そして数時間が経った今、目を覚ましたって訳ね。



 私が起きたことに気が付いたのか、隣で寝ていたリンちゃんが私の方を向いて「あ、ヒメが起きた」と言った。


「リンちゃん、起きてたんだ。……覚えてる?」


「……うん。ヒメも?」


「うん、覚えてる」


 しばらく無言になる私とリンちゃん。しばらくして、リンちゃんが「……どうしよ?」と言う。


「ほんとどうしよ? ま、まあ、流れに任せるしかないんじゃない?」


「それしかないか。ともかく、私決めた。金輪際、お酒の入ったものは食べない」


「私もそうするよ」



 そんな風に話していると、今度はユズちゃんが起きた。


「うーん? あ、二人とも、おはよ~」


「あ、うん。おはよ」

「というかこんにちは?」


「あ、あの……。二人とキスした気がするんだけど、夢じゃないよね?」


「うん、そうだね」

「現実だね」


「そっか~。その、ごめんね、酔ってる二人に、その、キスとかしちゃって」


「いやいや、ユズちゃんが謝る事じゃないよ! むしろ私の方から抱き着きにいったし」

「私達こそ突然ゴメン」


「良かった、二人が気にしてなくて~。えへへ、じゃあ今日はファーストキス記念日だね♪」


「「あはは……」」



 そして、最後に起きたのはハルちゃん。ハルちゃんは起きるや否やこう言った。


「は、ハルたち、き、キスしちゃったね……。あ、赤ちゃんできてたらどうしよ……?」


「「「え?」」」


「?」





 この後、私たちはキスだけでは子供は出来ないと教えた。そして「じゃあどうやったらできるの?」と言う問いに私達は


「と、特別なアイテムが必要なんだよ」

「そうそう」

「た、確かダンジョンの1000層以降で取れるんだよね?」


 と適当な事を言ってごまかしたのだった。




 結局この後、私たちの関係性が崩れることはなかった。むしろ前よりも私たちの絆は強くなったと思う。





 ちなみに。「暴力描写有り」のタグをつけているのは、いつぞやの掲示板回で書かれていた「激痛に苦しみながら四に戻りました」という表現が暴力的かもしれないと考えたからだったりします。が、これ以降そういう痛々しい描写もないし、このタグは無くても良かったのではないかと思い始めています。



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