バレンタインデーの後日談、Part 1

 途中で一章挟まっているせいで時系列が分かりにくくなっているが、まだヒメたちの世界では2月中旬である。そしてここで語るのはバレンタインデーの後日談である……。



「ねえ、みんな~! 今週末、用事ある?」


 ある日、ユズちゃんにそんな風に聞かれた。私は、そしてハルちゃんとリンちゃんも「特にない」と伝える。


「じゃあ、その、私の家に泊まってくれない?」


「お泊り会って事? いいね!」


 私は過去を振り返って「そういえば互いの家で泊まったことってないっけ」と思う。


「さんせー!」

「うん、いいね。親に聞いてみるけど、多分問題ない。けど急にどうして?」


「うん、実はね……」


 ユズちゃんが言うには、その週末、偶然家族のみんなが家にいないらしい。まずお父さんは仕事の都合で遠方に行っているらしい。ライムちゃんとお母さんは幼稚園のイベントで保護者同伴の旅行に行くみたい。そして、姉のミカンさんはというと、友達の家に招かれているんだって。なんでも超大金持ちのお嬢様の家で泊まるらしいよ!


 というか、そのお嬢様も私たちの衣装を作ってくれてるみたい! そ、そんなお嬢様のお手を煩わせて大丈夫かな……。

 何かお礼をしたいけど……今の私達じゃあなあ。せめて500層あたりまで攻略したら、そこそこレアなアイテムが手に入るのだけど、まだまだその域に達するのは先になりそうね。

 まあ、今は私のできる最大限のお礼として絹糸とか布を沢山渡すくらいしかできないよね。けど、もし数年後も交流が続いているなら、その時には良いアイテムをプレゼントする事としよう、うんそうしよう。


※待って、部長さんにこれ以上精神的負担をかけちゃダメだ! ああ、聞こえていない……。


「そういうことならもちろん。みんなで一緒にいれば怖くないよ!」


「お泊り、楽しみー!」

「子供だけの夜、楽しみ」


「うん♪」


 こうして私たちはユズちゃんの家でお泊りすることになった。

 いやあ、子供だけでお泊りなんて日本以外じゃできないから、やっぱりこの国はいい国だなって思うね。この先も平和な世界が続くと良いなー。



 そしてユズちゃんの家に集まった私達一同。そして、私たちが集まってすぐ、ユズちゃんのご両親とライムちゃんが家を出る。


「それじゃあ行ってくるわね~」「ばいばい、お姉ちゃん~」

「絶対に外に誰がいるか確認せずにドアを開けたらだめだぞ!」


「分かってるって~、それに悪い人がいても、私のアイドルパワーで倒しちゃうし!」


「そうね~♪ ユズのアイドルパワーがあれば悪い人も制圧できちゃうかもね~」

「だな! あ、だからって危険な事をするんじゃないよ!」


「分かってるって~」


※もし本当に悪い人が来たら、ユズたちよりもむしろ、悪い人の方が命の危機にさらされる……という事をこの時の両親は知らない。


 こうしてこの家には私達だけになった。子供だけの空間、なんだかはしゃぎたくなる気持ちが沸いてくる。そしてそれは三人も同じようで……。


「自由だー!」

「ゲームしよっか。それとも映画鑑賞とか?」

「私はなんでも~」


 うんうん、楽しそう……ってリンちゃん? 今手に持ってるカセット、怖いって有名なホラーゲームじゃない?! まさかそっちの映画も……ヤバい奴じゃない!


「リンちゃん、なぜそのチョイスを?」


「買ったはいいものの、一人で遊ぶのが怖かった……」


 想像の数倍可愛らしい回答だったことに思わず笑ってしまいそうになるのをぐっとこらえて、私はリンちゃんを説得する。


「ハルちゃんとユズちゃんもいるのに、それは不味いって……。今度二人で見よ?」


「うん、じゃあそうする」


 セーフ……!

 とそこでハルちゃんが次の提案を投げてくれた。


「じゃあじゃあ、ハルの家にあったゲームする?」


「いいねいいね、どんなの?」


「うん、なんでもお兄ちゃんが作ったゲームらしいんだー」


 なんと、まさかのハルちゃんのお兄さん製作のゲーム。

 ハルちゃんのお兄さんは、工学系に進んでるらしいのよね。いつもドロップした電子部品を回収してくれてるからすごく助かっている。

 それにしても、プログラミングもできたのね~。どんなゲームか気になる。


「どんなゲームなの?」


「それがお兄ちゃん、教えてくれないんだー! 『ハルには、まだ見せれない』とか言って隠すの! 自分の作品が見られるのが恥ずかしいのかな? だからね、こっそり部屋に侵入して持ってきたんだ!」


「ん……?」


 ここで私は若干嫌な予感が脳裏をよぎる。『見せれない』ではなく『ハルには、まだ・・見せれない』ってどういう……。

 そう思ったのは私だけじゃなかったようで。リンちゃんが少し慌てた様子でハルちゃんに「ハル、ちょっとそれ見せて」と言った。


「いいよ、けどどうして慌ててるの?」


「「いいからいいから」」


 リンちゃんと私はハルちゃんからゲームのパッケージを受け取る。書かれていたのは……。



『春風に舞う桜にキスを』



〈百合作品に男は要らない(過激派)〉作

※15歳未満の方はプレイできません



 やっぱりこれ、年齢制限付きゲームじゃない?! ざっとパッケージを見る限り、百合作品みたいね。素晴らしい……じゃなくて。

 ってハルちゃんのお兄さん、こんなの作ってるの?! あとこのサークル名は何よ……。『百合作品に男は要らない(過激派)』って、ほんと同感でしかないわね! ……じゃなくて。


「まあR18じゃないだけマシ……?」


「だね。でも、これはさすがに……」


「うん。高校生になるまでは封印しないとだよね」


「それ以前に、少なくともみんなでプレイする物じゃないかと」


「確かに」




 結局、ユズちゃんの家にあった、ボクセルな世界で建築をするゲームで遊ぶことになった。




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