ハルとリン
ある日のお昼休み、ちょっとした用事でヒメとユズは先生に呼び出されていた。その結果、教室ではハルとリンの二人が話しているという状況になった。
「あ! 英作文やってなかった! リンちゃん、手伝ってぇぇー!」
五時間目は英語、そしてその日の授業内容は英作文だった。事前に20問ほどの課題が出され、毎授業の初めにくじ引きで白羽の矢が立った生徒が自分の回答を黒板に書くという形式。生徒たちからは忌み嫌われている授業である。
「教えるのはいいけど、写すのはダメだよ」
「分かってます、先生!」
「先生じゃない……」
といいつつ、まんざらでもないといった様子のリン。
「あはは。リンちゃんって、先生って呼ばれると嬉しそうにするよね!」
「うるさい。さ、早くノート出して」
「はーい」
◆
「えっと、『ミサは中学校で英語を教えている』か。えーっと、主語が三人称単数だから動詞にsを付けるんだよね?」
いわゆる三単現のs。慣れるまではつい付け忘れてしまう、学生たちのテストの点数を奪う恐怖の存在である。
(↑偏見……とも言い切れない?)
「うん」
「じゃあこれは、“Misa teaches english at a junier high school.”かな?」
「二つ間違いがある」
流石は英語の本を読みなれているだけあって、すぐに間違いを見つけたリン。
「えー! ……あ、EnglishのEは大文字!」
「正解」
「もう一つは……。あれ、teachってchで終わるからesでいいんだよね?」
「うん、そこは合ってる」
「……?」
ハルは本当に分かっていない様子。少し待っても気が付きそうにないので、リンは答えを教えることにした。
「ここ。junierじゃなくてjuniorだよ」
「え、そうだっけ? ほんとだー紛らわしー!!」
なんでこれはorなんだよーと不満を漏らすハル。
「それは、juniorがラテン語由来だから。ラテン語の比較級はorが後ろにつく」
「ラテン語!? リンちゃん、ラテン語も使えるの?!」
リンがさらっと理由を説明したことで、ハルはびっくりした顔でリンの方を見た。
「違う違う。これは有名な話だから」
より若い:senior
⇔より年上の:junior
より多い:major
⇔より少ない:minor
より上の:superior
⇔より下の:inferior
より前の:anterior
⇔より後ろのposterior
「あたりが有名かな」
「へー! seniorはあの『シニア』って事? majorとminorも日本語になってる単語だね!」
「そうだね」
「inferiorとかanteriorは初耳だけど、どんな時に使うの?」
「んー詳しくは知らない、ゴメン。私が初めて聞いたのは解剖学を勉強したとき。人間にはのこぎり状の筋肉が複数あって、それを区別するのに使われてる」
前鋸筋:Serratus anterior muscle
上後鋸筋:Serratus posterior superior muscle
下後鋸筋:Serratus posterior inferior muscle
「って具合に」
「ほへー。リンちゃんってやっぱり賢いなー! すっごく憧れる!」
「ありがと。っと、宿題進めないと」
ハルの純粋な憧れのまなざしに少し照れるリン。その照れ隠しをするように、リンは続きの課題を解くよう急かすのだった。
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