緑の船は未来へと動き出す
ヒメの手紙を読み終えたリンは早速ドライアドに自身のスキルについて説明・実演した。ドライアドの研究者は「確かに水と魔力を注入できているです!」と判断し、リンに可能な限りの助力すると申し出た。
「まずは実験に付き合ってほしい。みんなとドライアドと合唱することで、威力が増すか調べたい」
『分かったです』
『でも、今から歌詞を覚えられる自信ないです』
『歌詞カード作るです?』
「うーん。それならドライアドたちの間で有名な歌とかってある?」
『あるです。『
『私たちに伝わる、伝統的な歌です』
「じゃあ、それを聞かせて?」
という些細な問題は合ったものの、無事実験は成功。合唱することで、各ドライアド達からも音符が飛び出すようになったのだ。
『凄いです! 私達からも音符が飛び出したです!』
「だね。じゃあ次は……」
ドライアドを集めてほしい、と言いかけたリン。しかし寸前の所で(……違う、そうじゃない)と思いとどまったリンは、代わりにこう言った。
「ドライアドの皆さんと協力しないといけない。だから、皆に声をかけて回る。手伝ってほしい」
『分かったです、何人くらい必要です?』
「分からない……けどできるだけ多い方がいいかと」
『なるほどです。大は小を兼ねるって言うです、いっぱい集めるです!』
こうして、リンの挑戦が始まった。
リンは住人たちに、今の状況と打開策について話して回った。そして、幸いなことにドライアド達はみな『それは緊急事態です、もちろん手伝うです』と協力すると言った。
リーダーと言うのはなかなか難しいものだ。各々の意見を聞かねばならず、意見が食い違えば折衷案を出す必要がある。このような事は、リーダーになった経験が豊富でないとうまくこなせないだろう。
けれど、今は違う。ここでは皆がすんなり意見を飲んでくれるのだ。まずは従順な仲間を率いる経験をして、リーダーになる事への抵抗感を減らす、この特殊階層にはそんな役割があるのかもしれない。
……とリンは思った。
リンの努力とドライアド達の協力の甲斐あって、その日の夕方までに総勢3000人強の全住人と話を付け、一緒に歌ってくれることになった。国を挙げての大合唱祭であると言えよう。
「歌うのは明日の朝でいいの? まだ日も暮れてないし、今からでもいいと思うのだけど」
『朝がいいです。水やりは朝にって言うのが鉄則です』
「そうなんだ。分かった」
◆
バルカロールとは元々は船頭が船の上て歌う陽気な音楽の意味である。しかしここは森の中であり、川も船もない。それでは、なぜドライアドらの間に伝わる曲がバルカロールなのか。
その理由は歌詞を聞くことで理解できる。『
つまり、タイトルの『緑の舟歌』は自分たちが住む故郷について歌った曲なのだ。
そしてこれは同時に「人類が成すべき事」とも捉えられる。
発展する事ばかりに目を向け、大地にビルを生やしコンクリートを敷くばかりで本当にいいのだろうか? それは一時的に便利になるかもしれないけれど、いつか船が沈んでしまうのではなかろうか?
この曲は、人類に対してそんな問いかけをしていると捉えることもできるのだ。
さて、リンとドライアドらが歌うバルカロールは、森中を水色の音色で満たした。太陽光を反射してキラキラと輝くその音符は、根に、茎に、葉に吸収されて、大樹に活気を与えた。
「みなさん、ご協力ありがとうございます。研究者さん、大樹の調子はどう?」
『素晴らしいです! 根についていた傷も治っています!』
「だそうです。この森は守られました!」
『『『わああああ~!』』』
会場に大きな歓声が響き渡った。リンはそれを見て、頑張った甲斐があったと感慨にふける。
「良かった」
『ありがとうございますです、リンさん。今回の事件が解決したのもあなたのおかげです』
「そう言ってくれると、頑張った甲斐があるってもの」
『お礼と言ってはなんですが、こちらを受け取っていただけますです? ドライアドからのお礼です!』
「これは……種? !!」
種と思って受け取った物がぴかっと光ってリンの体を包み込む。リンは肩をびくっと振るわせて驚くも、これが特殊階層をクリアした証であると悟って、光の奔流にその身を委ねた。
〔特殊階層『緑の船は未来へと動き出す』を攻略しました〕
〔再挑戦は不可能です〕
〔この特殊階層に攻略ランクはありません〕
〔
〔
〔
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます